第9話 Aさんはどこ

 俺はAさんのLineの写真を警察に見せることにした。特に手首を切った写真だ。あれがあれば、警察も動いてくれるかもしれない。俺はしばらく玄関に座って、Aさんが風呂場から出て来るのを待った。


 ずっと、玄関にいたのは、出て来たらすぐ外に走って逃げられるようにするためだ。

 しかし、Aさんは出て来ない。俺は恐る恐る、風呂場のドアを開けた。

 そこには誰もいなかった。


 また、Lineを送ってみた。

 2階からピコンという音がした。


「早くお風呂に入って、上でゆっくりしませんか」


 Aさんからの返事だった。

 俺は怖くなって、また交番に行った。

 歩きながら、昨夜のAさんのLineを見たが、昨日Aさんが送って来たリスカ写真も、死ぬというメッセージも、すべて消去されてしまっていた。


 俺はパスモを持っていたから、部屋着のまま電車に乗って、Aさんの家に行ってみた。外からだと、中に人がいるか、いないかわからない。俺は最寄りの交番に行って、住人が自殺するとLineを送って来たと相談した。

「津守さんはうつ病なんです。一人でいるのが怖いから一緒に住んで欲しいと言われて一週間だけ一緒にいたんですが、僕が自宅に帰ると言ったら、自殺すると言い出して・・・心配なんです」

 交番にいた警察官が同行してくれることになった。

 インターホンを鳴らしたが、部屋から応答はなかった。俺は彼が金にも困っていたことを話した。そして、鍵屋を呼んで、鍵を開けてもらって、中に踏み込んだ。


 中は空だった。


 Aさんが行くところは、俺の家しかないだろう。

 俺は怖くて家に帰れなくなった。


 俺は自宅近くの交番の人に頼んで、もう一回だけ家に来てもらった。

「やっぱり家に誰かいるみたいなんです。Lineを送ると、着信音が聞こえるんです」

 俺がそれを警官の前でやったら、もう、聞こえなくなっていた。気まずかった。

 しかし、その人がいる間に、必死に荷物をまとめて鞄に入れて、スーツを何着か持ち出した。


 ***


 俺は今ネットカフェで寝起きしている。あれ以来、家に帰っていない。

 そして、会う人ごとに「一緒に住みませんか?」と誘っている。

 ただし、男に限る。


 女だと、一緒に住むイコール結婚になってしまうからだ。

 今の所、承諾してくれた人はいない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ルームメイト 連喜 @toushikibu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ