点滴を再生する。

灰月 薫

点滴を再生する。


ただ無音の世界。


 そこで、僕は机に向かってる。


 真っ白な画面に、与えられた文を打ち込む。


 …ただ、それだけ。


 カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ


 ただ、打ち込むだけ。


 頭も体も壊れそうになる程打ち込んだ時、誰かが僕に尋ねた。


「大丈夫?」


 …大丈夫。


 そう答えるために、僕は耳から繋がれた点滴の再生ボタンを押した。


 ______“君なら大丈夫”


 流れ込む音の羅列。

 そして、励ましてくれる言葉。


 知らない人の作った、僕らの音楽


 僕は答えた。


「まだ、大丈夫」


 カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ


「…大丈夫?」


 僕は再生ボタンを押す。

 点滴を、増やす。


 _____“君にしかできないこと”


「まだ、大丈夫」


 カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ


「大丈夫?」


 点滴を、再生する。

 

 ______“君は、特別な存在なんだよ”


「まだ、大丈夫」



「大丈夫?」


 点滴を、再生する。


 _____“生まれたことは奇跡だよ”


「まだ、大丈夫」

 


「大丈夫?」


 点滴を、再生する。


 ______“きたい”


 僕は外を見た。


 窓から見える景色は、美しかった。


 地面から遠く離れた此処から、飛び立ってみたかった。


 僕は、点滴を耳から外す。









「…もう、大丈夫」


 僕は窓から飛び立った。

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点滴を再生する。 灰月 薫 @haidukikaoru

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