第11話 呪文

 俺は適当な安い服を買い、ボロボロの制服は捨てた。


「なあアサ。これからどうすんだ?」


「もう用事は残ってないと思うけど……。もう準備万端?」


「おー、俺はいつでも行けるぜ?」


「じゃあそろそろ行こうか」


 するとアサは何やらぶつぶつと独り言のように唱え始めた。

 直後、周りがキラキラと輝き始めた。


「すっげえ、なあこれ俺にもできんのか?」


「ちょっと今話しかけないで!」


 このままダンジョンに戻るのかと思いきや、なんだか周りが騒がしくなり始めた。


 全員俺を見てひそひそ言っているようだ。

 俺にもついにモテキが来たのか!? 待ちくたびれたぜ。


 だが男までひそひそしているとはどういう了見だ? 人に好かれんのは良いけど野郎はお断りだ。


 と、ここで重大なことに気が付く。

 俺仮面してねえ。いつから取ってたっけ。服を着替えたときだったか。


「おい! あいつ指名手配犯じゃねえか!?」


「捕まえるぞ!」


 まわりの奴らは、俺が指名手配犯だと分かると、一斉に詰め寄ってきた。


「やっべえ……! いくら俺でもさすがに一般市民に攻撃はできねえ。おいアサまだか!?」


「……」


「無視かよぉ」


 じりじりと市民たちが詰め寄って来る。


「うっおおお」


 どこからともなく腕が伸びてくる。

 すんでのところで回避するも、この状態を維持するのはさすがに骨が折れる。


 こうなったら仕方ねえ。俺は最強になる男だぞ。こんなところでしょうもねえ終わり方したくねえ。


 腰にさしてある剣を一本引き抜く。それを右手に持ち、周りに向けて威嚇する。


 まあ剣を今使う気は無いが、連中は俺のことを犯罪者だと思ってやがる。つまり状況を逆手に取ったのさ。

 俺ってば頭いい!


「こ、こいつ武器をだしやがった!」


「おい! 憲兵たちはまだか!?」


 しかし一層周囲が騒がしくなってしまった。

 これでは王国の兵隊たちに捕まんのも時間の問題だ。


「アサーー……頼む早くーーー」


 先ほど話しかけるなと言われたので、ひとり言のように呟く。

 すると次の瞬間、目の前が光に包まれたかと思うと、どこか別の所に来ていた。


 見覚えが無いように思えたが、良く思い返してみると、俺たちがいたダンジョンだった。


「戻ってきた……のか?」


「……疲れた」


 隣を見ると、ぐったりとしているアサがいた。


「そんなに魔法って疲れんのか?」


「まあね。クラススキルじゃないから呪文覚えなきゃだし、マナは結構消耗するしでさ。呪文なんて英文みたいなもんだよ英文」


「うげえ、俺英語嫌い」


「なら魔法は向いてないね」


 そっかあ、魔法使うのも大変なんだな。

 異世界ファンタジーと言えば魔法って感じだけど俺はいいかな。


 せっかくファンタジーの世界来てんのに、小難しいことすンのはめんどくせえしだるい。

 それならバーサーカーのクラススキルを使いこなした方が早いしな!


「じゃあ早速頂上目指して気張ってこーぜ!」


「ちょ、ちょっと休憩させてくれる?」


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