第3話 スキル
なんなんだよあいつら。俺がなにしたってんだよ。クソッ!
俺は机を思い切り叩く。
「いつまで俺はここに居たらいいんだよ」
「さあな。だがもうすぐ憲兵たちがやって来るところだ。お前の次の居場所は牢獄の中だ」
「ざっけんな! 俺何にもしてねえだろうが!」
「……仕方ない。少しくらい勇者として教育してやる」
「あ?」
すると兵士は地図を俺の前に広げた。
「いいか? この世界にはダンジョンと呼ばれる魔境が数多く存在する。その中で最も大きいこのヘル・デルソルと呼ばれるダンジョン。この中に魔王はいる」
「んじゃあさっさと倒せばいいだろ」
「倒せないから他の世界から勇者を呼んでいるんだ。そして魔王はこの世界の各地にダンジョンを出現させ、大地の養分を吸い取っている」
「草とか生えなくなるってことか?」
「ああ、加えてダンジョンから生み出されるモンスターたちによって被害も出ている。これらダンジョンを制圧し、いずれ魔王を倒すのが勇者の務めだ」
結局このおっさんは何が言いてえんだ?
「お前は運が良かったんだよ。必ず過半数は始めのダンジョンで、恐怖に押しつぶされて死ぬ。お前は死ぬことが無い。まあ仮にも勇者もどきが牢獄に押し込められて死ぬのはお笑いだけどな」
兵士はクスクスと笑い始める。
なるほどな。死ななくて済むから運がいい、か。
確かに普通ならそれは良いのかもしれない。
でもなあ、俺あ一生牢獄の中ってのは気に入らねえ。まだまだしたいことがあるんだ。訳も分からないまま死にたくない。
「……兵士サン。夢、あるか?」
「夢? 魔王を倒して平和に生きることだ」
「ハハッ、模範解答ご馳走様。俺の夢はな、せっかく堅苦しい世界から抜け出せたんだ。自由を満喫して、旨いもんひたすら食って、女を抱いて安らかに死ぬんだ」
「……?」
ここの部屋に来てから知った。カードの裏には、自分が使える
「だからよお、俺の夢邪魔する奴あ死ね!」
俺は兵士の腰に差してあった剣を引き抜き、呪文を叫ぶ。
「
すると、ただの鉄の剣がますます黒く染まっていった。
「うお、すっげえ」
「離れろ、俺がやる」
するともう一人の兵士が剣を引き抜き、俺の方に向けた。
全てにおいて素人の俺が、刃物を向けられるともなれば、かなりの恐怖だっただろう。
が、なぜか今の俺にはそれが安全ピンを向けられているようにしか見えなかった。
「ギャハハハハハハハッ! 安全ピンで人を殺せる訳ねえだろバーカ!」
「なっ!?」
型も何もない、むやみめったらに剣を振り回す。俺の剣と兵士の剣が当たった瞬間、豆腐でも切るかのように兵士の剣を両断した。
これが狂う全武の能力、武器の強化か!
「ま、待て! 命だけは助けてくれ!」
……ん? ああ、そうか。武器を持ってるの俺だけか。そりゃあこいつら俺が怖いよなあ。
「しゃあねえな。じゃあ持ってる金目のものと地図で許してやるよ」
俺は兵士から金銭と地図を受け取り、堂々と城の正門から外に出た。
「いやー、王子も王様もクラスの奴らも全員もれなくクズだったなあ。これからどうすっかな」
すると護身用にと持っていた、兵士から奪い取った強化した剣が、赤い亀裂と共に崩壊した。
「げ、強化する代わりに脆くなんのか。覚えとくか」
ある程度城下町を歩き、後ろを振り向く。そこには高くそびえ立つ城が悠然とたっていた。
「じゃーな、カンちゃん、杉松」
この日、俺は荒神昇ではなく、ノボルとして生きていこうと思った。
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