16話「スラちゃん」〈ミナ編〉

「ふっふんふぅ~♪」


 鼻歌交じりに街道を歩く。


「こっちーかな」


 ラシャーナ先生に貰った地図を見ながら東へ北へ。

 地図に浮かぶオレンジ色の道筋線を眺めながら呟く。


「いいなぁ。ミナも聖魔法、使えたりしないかなぁ?」


 空を見上げ右手を太陽に向けて広げる。

 そんな事したって、聖魔法が使えるようになるとは思ってないけど、なんとなく。使えたらいいなって。


「はぁ~ダメだよね。どうやったら使えるんだろう?」


 ラシャーナ先生に使い方を聞かなかった事を後悔しながら歩き続ける。

 開いた手のひらを徐々に下げながら俯く。


「……ん?」


 すると目の前に一匹の魔物が現れた。


「ふきゅ?」

「ま、魔物ぉー!?」


 ミナは驚いて握っていた杖を落としそうになる。


「あっ……叩く……叩くっ」


 杖を握りしめ、一歩、一歩前に進む。

 ダメ……手が震える。


「ふきゅ……ふきゅ?」


 青くてゼリー状の魔物……これ、魔物図鑑で見た事ある!

 確か"スライム"って名前だったはず。

 スライムは小さく左右に飛び跳ねている。


「か、可愛い……」


 よく見ると、飛び跳ねる度に体がぷよぷよ動いて、すごく柔らかそう。ぷにぷにしたい。

 それにすごく小さくて細長い真っ黒な瞳。口は……ないのかな? 見えないけど、すっごく可愛い。

 いつの間にか手の震えは止まっていた。そして、叩く気もなくなっていた。

 こんな可愛いのに、叩けるわけないよ!


「触っても……いいかな?」


 ミナは恐る恐る、ぷにぷにな体を指でつつく。


「ふきゅん」

「かわ……イイ!」


 ミナは一瞬でスライムの虜になった。

 コレ、持って帰ってもいいかな? いいよね?

 優しく抱き抱えると、あまりの愛おしさに頬ずりをする。


「ふきゅ……ふきゅ」

「ねぇ、キミ! 一緒に来ない?」


 笑顔でスライムにそう聞いてみる。


「ふきゅ?」

「こんな所にいるより、ミナと一緒の方が楽しいよ? きっと」

「ふきゅ! ふきゅ!」


 小さなスライムは、ミナの手のひらの上で嬉しそうに飛び跳ねる。


「よし! じゃあ決まりね」

「……ふきゅん!」


 スライムはミナの頭に飛び乗ると、大人しく居座っている。


「そこがお気に入りなの? これからよろしくね……スラちゃん!」


 今日からこの子はスラちゃん。

 ミナと一緒に旅をするお友達。

 フェイスにスラちゃん。もっとお友達、増やせたらいいな。


 そんな気持ちで、道筋線通りに年樹洞窟に向かった。


「ここ、かな?」


 地図を確認すると、年樹洞窟の場所が淡く光っている。

 この地図は、ミナの潜在魔力と同期してあるから、ミナの位置が点滅するみたい。

 ラシャーナ先生が、出掛ける前にやってくれたの。


 深い緑のツタを掻き分けて洞窟の入口を探す。


「うぇー、引っ付いて取れないー」


 ツタが腕に絡まって中々解けない。しつこい蜘蛛の巣みたいに。

 なんかヌメヌメしてるし。

 やっとの思いで、ヌメヌメしたツタを解くと、ようやく洞窟の入口が見えてくる。


「すごい! ここが年樹洞窟! さっそく……」


 初めて見る洞窟に目を輝かせながら、一歩踏み出した。


「へ……へっくち!」


 寒い!

 太陽に照らされてポカポカしていた外とは大違いで、一歩踏み出すと、足の先からスゥーっと冷たい空気が頭の上まで伝わるみたい。

 ジメジメしていて、中にもヌメヌメのツタが広がっている。


「真っ暗……」


 洞窟の中は暗くて、風が吹き抜ける音だけが響いてる。

 そこらじゅうには、明かりの役割を果たしているように、ツタに絡んだ光る植物が散りばめられていて、なんだかキレイ。


 ゆっくりと奥へ進む。


「この、光ってるのってもしかして……」


 その光り輝く植物……近付いてよく見ると、ラシャーナ先生が言っていた光苔に似てる。


「えっと……確かこの辺に」


 図鑑を開く。

 ページをめくり、光苔のページを確認する。


「うん、やっぱり!」


 この光っている植物は、紛れもなく光苔だった。

 洞窟の壁にべったりくっついている光苔を、ナイフを使ってそっと採取する。


「……あっ」


 苔の根部分にナイフを当てる。すると、光が消えた。

 これじゃダメ。

 光を潰さないように採取しないと。

 もう一度挑戦!


「……」


 額の汗を拭いながら、ゆっくりとナイフで苔を形取る。

 もう少し……。

 光苔を軸にして、体の位置を動かしながら綺麗にナイフを入れる。


「……よしっ! できた!」


 光が消える事なく採取する事が出来た。

 これを、そっと潰さないように袋にしまう。


「念の為、もう少しだけ」


 予備に後少しだけ光苔を採取する。

 全て優しく袋にしまうと、先に進む為に足を進めた。


「ふっふんふぅ~♪」


 光苔を採取出来た事によって、ミナは気分よく軽くスキップしながら奥に進む。

 明かりの役割をしている光苔を頼りに、狭い洞窟内を道なりに歩く。


「あれ? 行き止まり?」


 少し歩くと行き止まりだった。壁をベタベタと触り、辺りを確認するけど、他に道なんてなかった。


「年樹花なんて……ないよ」


 ミナは肩を大きく落として、元来た道を戻ろうと振り返る。

 そしたら……!


「き、ぎゃぁぁぁ!?」

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