それから

 どうも。私です。


 いまは秋です。


 あれから十年がって……なんてセリフは、ちょっとカッコよくてあこがれるけど、じっさいにはそんなことなくて、いまは、あの夏の、次の秋。


 空は夕焼け。いまの私は、学校からの帰り道を歩いている。ついさっき友だちと別れて、ちょうどラストの坂道に突入とつにゅうしたところ。


 空を見上げてみると、くもが夕日にらされて、真っ赤になっていた。大きなくもから分かれたうすい切れはしが、いちばん赤い。まるで燃えているみたいで、それでぜんぜんきない。


 秋になって、日が短くなって、ちょっと寄り道をしただけで、空はすぐにこうなっちゃう。こんなにキレイな空だけど、ながめているのは私だけだった。


 坂道を歩く人たちはみんな、自分の足元に目を落としていた。ひとりの人はもちろん、誰かと歩いている人も。それはそうだよね。坂道はしんどいし、転んだりしたら危ないもん。

 でも私は、ついつい見ちゃうな。


 私は顔をさげて、坂の終わりのほうに目を向けた。


 あのころみたいに、夕日は坂の終わりに落っこちてくるわけじゃなくて、少し横にズレて、建ちならぶ家のかげに沈んでいく。

 ちょうど沈んだタイミングだったのか、そのあたりが赤く光っていた。

 けっこう強い光だけど、こっちを向いているわけじゃないから、そんなにまぶしくはない。でも、強い光なことはたしか。なんかあれだもん、街が爆発ばくはつしてるみたいだもん。ずっと爆発ばくはつしてるって感じ。


 歩くうち、なにかのかげが頭をかすめた気がして、私はまた空を見上げた。

 トリでも飛んでるのかと思ってさ。

 でもそうじゃなかった。

 ただ私が、道の上にかかる電線のかげに突っこんでいっただけ。


 真っ赤なくもを追いかけるうち、昔のことが頭に浮かんできた。


 昔といっても、ひとつまえの季節のことだけどね。

 でもなんだか、あのときの私といまの私とじゃ、ぜんぜん違う人になっちゃったような気がして、思い出のなかの私はまるで、ほかの誰かさんみたい。

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