そのあと

 家を出て、おれはまた走り出した。

 あいつに、手紙を出すために。


 いや、ぜんぜん走らなくていいんだけど。今もう夜だし、どうせ回収されるのは明日の朝で、そこからあいつのもとに届いて、で、あいつが読んで、返事を書いて、それがおれに届いて、ってその時間は今のおれが走ったところで当然縮まらない。


 わかってるけど、走りたいって思ったから、おれは自転車を走らせる。

 この時間だと人はあまりいない。

 今だったらあの日よりもっと速く走れるだろう。

 でもそんなことをする意味はないから、あの日よりは全然ゆっくり、おれはペダルを漕いで、そうしてからっぽの家の前に着く。


 あいつが住んでた家。

 いまは誰もいない家。


 べつにこの家を見るために来たわけじゃなかった。この家のすぐ目の前には、ポストが置いてあるからだ。うちから手紙を出すなら、一番近い。


 おれは自転車を降りもせずに、手紙をポストに入れる。


 それで、もう一度あいつの住んでいた家を見て、思う。


 あいつはもういないのにまたこうやってここに来ることになるのは不思議だって。しかも、今日だけじゃなくて、これから何度もここにこうやって手紙を出しに来るんだなって。それで、あいつがいなかったら、あいつがおれに手紙を書いてくれなかったら、これはなかったことなんだなって。


 そういうのが、ぜんぶ不思議だ。


 おれはこの気持ちをちゃんと覚えておきたい。この手紙に返事が返ってきたら、さらにその返事に書けるように。

 おれはそのときが今から待ち遠しい。

 もっとたくさん起きるはずなんだ。

 返事を待ってる間に、もっと。

 返事を読んだら、もっと。

 そうして言葉があとから追いついてくる。ぐちゃぐちゃになりそうなそれを掴んで並べてまた手紙にする。きっとそうなるってわかる。今のおれはもうそのことを知っている。


 そして知っているから、思う。

 はやく、はやく、いつかのそのときになれ。

 ここに全部の言葉が追いついてくるときに。












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言いたいこと、全部書いたよってお前が言って 君足巳足@kimiterary @kimiterary

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