第14話 魔剣同盟

第十四話 魔剣同盟


サイド 剣崎蒼太



「同盟……?」


 油断なく様子を窺いながら、周囲を観察する。幸い兜でこちらの視線はわかりづらいはず。


 石造りの壁と床。扉は三つ。左右に一つずつ。そして奴の背後に一つ。見た目は古びた木製。この空間自体が固有異能だとすると、あの扉も見た目通りの強度かはわからない。いや、第六感覚的に蹴破るのはそこまで難しくはないか?


 だが、扉の先がどうなっているかはわからない。空間を満たす魔力の流れがおかしいのだ。何がどこにあるかわかりづらい。第一、この空間からの脱出方法が不明。


 一番あり得るのは眼前の転生者を切り殺す事、か。よりにもよって子供みたいな姿を。やりづらい。更に言えば、こいつを殺して生き埋めになるという可能性もある。最悪、謎の異空間に放り出されるなんて可能性もあるか。


 正直、判断に困る。とりあえず会話をして考える時間を稼ぐか。


「ええ。金原武子。彼女に勝つには手を組むしかないと思いますが?」


 不敵な笑みを浮べながら語り掛けてくる金髪。だが、どうも無理して余裕ぶっているように思える。あれは決してこちらに『勝てる』という確信がある感じではない。状況は向こうに有利だが、それでもこちらに勝ちの目があると言う事か。


「なるほど、確かに彼女は強力だ。もしかしたらこの戦いにおいて最強かもしれない」


 相槌をうつ様に答えるが、本心でもある。人斬りと目の前の金髪の実力は不明だが、アバドンとの戦いを見る限りあれは自分が知る中で最強だ。もちろん、邪神は除いてだが。


 四肢のうち二つを失ってなお、自分が万全の状態でさえ勝てるかはわからない。勝機がないとまでは言わないが、かなり厳しいのは事実。


「ええ。それに世間で『人斬り』と呼ばれる女性。あの人もこと隠密能力に関しては群を抜いています。このままだと彼女だけ無傷で最終日まで残ってしまうのでは?」


 口ぶりからして、この金髪はまだ誰とも戦っていないのか……?だとしたらよくない流れだ。消耗していない奴が三日目だというのに二人もいる。しかも脱落者も二人。完全に漁夫の利をもっていかれる状況だ。


「私と貴方で、残り二人まで数を減らしませんか?金原武子も人斬りも各個撃破するのです」


「一つ、質問いいですか?」


「なんなりと」


「なぜこのタイミングで?」


 バトルロイヤルで一定数まで参加者が減るまで同盟を組むのは、定石とも言える行為だ。それこそ、自分だってやろうとした。相手が悪かったけど。


 だが参加者は自分を含めて残り四人。残り期間も四日。折り返しにきたとも言える。


 何故序盤ではなくこの局面での同盟なのか。更に、口には出さないが『なぜ自分を選んだ』かも気になる。


 普通こういう同盟は、『最後に自分が勝てる』という前提のもと行われる。残り二人になった時、タイマンで勝てる自信がないのに二人っきりになろうとする奴はいない。


 こいつは自分を殺す算段がついている。だが自分はこいつの事を何も知らない。不気味だ。


「……タイミング、ですか」


「ええ。もうすぐ三日目が終わります。なぜ序盤ではなくこの段階で?」


「だって組んでくれる人いなかったし……」


「は?」


「あ、いや。んんんん!失礼。お気になさらず」


 下手な咳ばらいをして、金髪が話を続ける。


「今だからこそ、ですとも。金原武子の脅威が共有でき、なおかつ彼女が傷を負っているという勝機が見えるからこそです」


 ……言っている事は、わからなくもない。


 金原という明らかにヤバい奴を知っているのと知らないのでは、同盟に対するスタンスも変わってくるだろう。奴がいる限り、自分の生存はありえないと。そう思える状態で手を組んだ方がいいのはもっともだ。


 そこに、奴が右手足を失っている状況。それでもなおあの強さだが、それでも勝ち目はある……はず。


「さて、質問には答えました。そちらの答えを聞いても?もっとも……選択肢はないのでは?」


 詰めてきた。まずい、まだここからの脱出手段の見当がついていない。


 一番現実的なのは、眼前の術者を切り伏せる事。固有異能の所有者を討ち取れば、この空間から出られるかもしれない。


 だが、その後が問題だ。出た先が安全な場所だとは限らない。自分が落下した場所なら金原がいる可能性があるし、先ほど考えた通りわけのわからん異空間にでも放り出されたら事だ。


 かといって殺さずに拘束は……今のコンディションだと難易度が高すぎる。下手な加減は返り討ちの可能性が出てくる。


 相手の選択肢を削る。顔に似合わず中々に嫌な事をしてくれる。


「剣崎さん」


 そこで、今まで無言で背後に立っていた新城さんが口を開く。


 そう言えば、なんでこの子もここに?いや、この金髪は金原が負傷している事も知っているし、自分を回収したタイミングもある。見ていたな?となれば、新城さんがこちらの協力者と知っていてこの空間に引き込んだか。


 なら、彼女が人質に使えるとも考えているか。幸い新城さんが洗脳されている可能性は低い。魔法使いを操るのは難易度が高いし、そもそもそんな事になっていれば第六感覚でわかる。


「どうした。何か案が?」


「私はこの提案にのるのもありだと思います」


「その心は?」


「いや、単純にこれ同盟組まないとヤバいなと」


 ですよねー。


 自分でもわかっている。大変不本意だが、彼女の言う通り選択肢が削られすぎた。ここまで追い込まれたこちらの落ち度だ。本当なら、こういうムーブは自分がしたかったなぁ。こう、隠れて他の陣営が消耗するまで待つ的な。


 今は、首を縦に振るとしよう。


「わかりました。そちらの同盟の件、前向きに考えさせていただきます」


 切っ先をさげ、残り僅かな魔力を抑える。


「詳しい内容は、確認させ」


「よっしっっっっ!」


 突然力強くガッツポーズを決める金髪に、ちょっとびっくりした。


「いやぁよかった!これからよろしく!あ、私『魔瓦迷子』ね!魔法の魔に瓦でマカワラ。そんで迷子の迷うと子供でメイコね!」


 え、なにこのテンションの落差。


 兜の下で目を点にさせている自分の後ろで、新城さんが『やっぱり』と言ったのが聞こえた。


「やっぱり?」


「はい。彼女は有名ですから」


「おや、私を知っているんですか?いやぁ、私も有名に」


「『合法ロリ魔法少女』」


「人違いですねそれ!?」


 いや、見た目的に大当たりだと思う。


 見た目小学校高学年ぐらいだし、ピンクのドレスも夜会用というより魔法少女っぽい。それこそ日曜の……深夜だな。やたら露出多いし、体のラインがくっきりしてるし。


「今失礼な事考えませんでした!?」


「いいえ」


「私の体をいやらしい目で見ました!?」


「いいえ」


「貴方も私の事合法ロリって思っているんですね!?」


「いいえ」


「嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 頭を抱えて蹲る魔瓦。なんだこの空気。


「神様にバトルロイヤルやらされるし!ただの互助会だったはずなのに変なのはたくさん集まってくるし!なんなんですかもう!」


「互助会?」


「『真世界教』です。聞いたことありませんか?」


「え……ああ、そういえばニュースで偶に」


 そんな新興宗教が北海道の方であった気がする。


「そこの教祖が彼女です。ホームページの顔とも一致しますし、東京にいるという書き込みもあるので間違いないかと」


 振り返ってみると、新城さんはスマホを操作していた。


「え、ここ電波通じるの?」


「試したらいけました」


 そっと魔瓦に目を戻すと、彼女はぶーたれた顔でそっぷを向いていた。子供か。


「だってそうしないとスマホのゲームできないし」


 まさかのソシャゲが理由でこの迷宮電波通ってるのかよ。いや、確かにネット使える方が便利だけど。


 ちなみに、自分は現在ソシャゲをやっていない。いや、前世はわりとガッツリやっていたのだが、今生だとそもそもスマホを手に入れたのが一カ月前。中学三年というのもあって受験に力を入れるためにやっていなかったのだ。


「というかだね、私としてはそんな宗教つくる気はなかったんだよ。最初は好きに絵を書く集まりだったのに、どうしてこんな事に……」


 本気で困った風に、目に薄っすらと涙を浮かべる魔瓦。たぶん、嘘ではない。第六感覚でも自前の勘でも本心だ。


「まあ、何はともあれ仲間になったんですし。どうにか生き残ろうか」


「え、はあ」


「あ、そう言えば仲間だからってため口にしちゃったけど、君いくつ?私これでも今生だけでアラフィフだよ」


 ガチの合法ロリじゃねえか。というか中身熟女じゃん。詐欺だ。


 いやそんな事はどうでもいい。突然距離をつめすぎじゃないかこの人。自分達は同盟を組んだだけで仲間ではないぞ。


「……こちらは十代なので、お気になさらず」


「そっかぁ。まあ前世は知らないけど、今を生きる者ってことで。現在の年齢で考えさせてもらうねぇ」


 力の抜けた顔で笑う魔瓦を前に、新城さんが不思議そうにしている。当たり前だ。彼女には転生者どうこうは伝えていないのだから。


 これは、後で詳しく説明があるな。面倒くさい。


「じゃ、とりあえず今日は寝よっか!あ、お風呂もあるけど使う?」


「あ、是非」


「いやいやいや」


 話は終わりと歩き出した魔瓦に、普通について行こうとした新城さんの肩を慌てて掴む。


「待って。おかしい。流石にこの流れはおかしい」


「いや剣崎さん。マジでやばいんですよ、私。主に人としての尊厳的に」


「は?」


「今はね、ええ。血とか泥で嗅覚が変になっているからわからないと思うんですけど、マジでやばいです。どれだけヤバいかと言うと、マジが十個ぐらいつくぐらいヤバいです。目の前で怪獣大決戦みたいな事になった一般人の心境考えてくださいよ。中二メンタルにも限度があるんですよ」


「ごめん、日本語でいい?」


「剣崎くんだっけ?デリカシーもとうよ……」


「まったくですよ……」


 なんでまるで自分が悪いみたいな扱いなのか。それがわからない。


「新城ちゃんだっけ?温かいお湯用意してるし、着替えも私のでよければ貸すから」


「あ、いや着替えは……」


「……駄肉が」


「こわっ!?」


 新城さんの首から下を見て親の仇にでも相対したみたいな顔になる魔瓦。なんか、真面目な空気が完全に消し飛んでいる気がする。


「じゃ、剣崎さん私お風呂はいってくるので待っていてくださいね」


「え、ちょ」


『探れるだけ探りますので、そちらはそちらでお願いします』


「っ」


 つけっぱなしにしていた魔道具に受信。それを最後に限界を迎えて魔道具が壊れたのがわかる。


 どうやら彼女も完全に気を抜いたわけではないらしい。よかった、一瞬本気で頭がパーになったのかと。元々奇人変人の類だし、謎の思考回路に拍車がかかってしまったのかと。


 いやぁ、遂に完全に馬鹿として覚醒したかと!


「なんかわかんないですけど剣崎さん後でしばきますね」


「なんでぇ!?」


「乙女の勘です」


 そう言って魔瓦と去っていく新城さん。ご武運を。


 さて……。


「え、俺置き去り?」


 ここからどうしろと?というかもしかして今日ここに泊まるの?


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