閑話 アバドンという怪獣
閑話 アバドンという怪獣
サイド ■■ ■■■
壊さなければ。この街を、この土地を。完膚なきまでに破壊しつくさねば。
理由は分からない。だが、この地を滅ぼさなければ『死んでしまう』。その確信がある。
何をどうすればいいのかわからない。だが、それだけはわかるのだ。
体の内で、いくつもの自分でない何かが蠢く。消化しきれていないのか、はたまた単純に寄生されているのか。なんにせよ、これに構っている暇はない。どれだけの時間かはわからないが、昨日今日から感じている違和感ではないのだ。
この地のどこを壊せばいいのか、具体的な事はわからない。ならば一欠けらもなく滅ぼしつくすしかない。先ほど天に現れた黄金の太陽はちょうどよかった。今は消えてしまったし、放たれていれば『死んでしまった』から消えてよかったが。
……はて、『死んでしまう』とは誰の事だ?
いいや、自分の事だ。私は自分の生存のために喰らい、己を『進化』させなければならない。
頭の中で、ありもしない記憶が乱舞する。
私は青年だった。妊婦だった。老兵だった。医者だった。警官だった。浮浪者だった。大工だった。罪人だった。歌手だった。
混ざり混ざった全てが『私』なのか?わからない。どうでもいい。生きねば。ただ生きねば。だって生きたいのだから。
時折、何かの声が響く。これは確実に『私』ではない。まだ溶け切っていない誰か。そういうのは偶にいる。
『殺すな』
『壊すな』
『死なせない』
特に大きな三つの声。それに紛れて触手のような物が蠢く時もあるが、それすら些細なものに思える騒音。
うるさい。邪魔をするな。不愉快だ。
この地の全てを平らげて、私は生きるのだ。ここにはやけに美味しそうな存在が多い。あの金色の何かも。蒼い何かも。徒花めいた何かも。
そしてどこかにある『何か』も。それを食べれば自分は死ななくなる。そう確信がある。
だから、邪魔をするな。
全てを喰らいつくすまで、私は止まらない。絶対に。絶対にだ。
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