第6戦 留年部長の卒業

 体育館で部長の卒業式が行われた。


 学力的には大学から授業資料を貰ってたらしいので追いつけるんだって。


 部長って凄いや。


 そういえば他の部員が見えないけど、どうなってるのかな。


 「樹里菜先輩、他の部員さんは?」


 「全然ダメ、みんなダウンしちゃってて。

 この卒業式にすら来れないくらいなの。

 長期で欠席してるレベル。

 様銀二君がFLマイト電極で戦えるのが異常なんだよ……?」


 「今更ながら自分がおかしいんじゃないかと思ってきました。」


 「才能だと思うけどなー。」





 「卒業証書授与。」


 部長が卒業証書を受け取る。


 いやぁ、めでたいな。


 一人のための卒業式してくれるなんていい学校だなぁ。





 部室には僕の使ったFLマイト電極が鍵付きで保存されている。


 恐らくはもう使われることは無いだろう。


 隣には優勝のトロフィーが並んでいる。


 このトロフィーも来年には取られてしまう事だろう。


 だって樹里菜先輩も卒業しちゃうだろうし、他にも1、2年の部員がいるとも聞いたけれどやってみて分かったけどこのスポーツ思いの他ハード。


 決勝でFLマイト電極の相手が出て来たけど、あれがその領域なら僕は相当に変わった人間だったんだろう。


 まぁ、僕が1年で部長張るわけにもいかないしやっぱりこういうのは努力して初めて成り立つものだと思うよ。


 本当に心から部長を助けたかっただけ。


 だから仮にこの部活が廃部になっても仕方がないと思う。





 「ねぇ、様銀二君。

 本当に私の後を継ぐ気は無いんですか?

 私が部長にと推せば他の部員も納得すると思いますよ?」


 「部長、約束ですよ?」


 「一戦するまで、の約束ではありませんでしたか?」


 「50万円で何が出来るんですか。」


 「ふむ、様銀二君。

 一勝のつもりで一勝のつもりではなかったという事ですね?

 ならば約束は反故にされています。」


 「えっ。」


 「私はここで部室を去りますが、樹里菜と部員と一緒にやっとこの高校に来たトロフィーを守っていただけませんか。」


 「そうだよ様銀二君! 一緒に頑張ろうよ!

 ブラックフィルムーンの初の使い手として技を教えて欲しいな。」


 「あ、そういえばそうでしたね……。」


 「様銀二君、卒業する私の最後のお願いです。」


 「あー、もう! 分かりましたよ、部長!

 僕、頑張ります!」


 「ふふ、様銀二君からもいい返事が戴けて私も安心して卒業が出来ます。

 いいお祝いをいただきましたよ。

 私から部員には連絡しておきますので。」


 「やったぁ!」


 「やったー。って樹里菜先輩、1年がレギュラーでもないのに部長張っていいと思います?」


 「あら、それなら誰も勝てないのに部長をやらないのは問題ですね?

 視認不可なブラックフィルムーン何て打たれたら誰も文句言いませんよ?

 何なら今からでも部長兼レギュラーですね。」


 「ひえぇ……。」


 何か、種々の問題が押し切られた気がする。


 まぁ、まだ4月。


 樹里菜先輩の卒業までは時間があるけど、大学受験だからそんなに一緒にはいられないだろうな。


 1年生が2年生引っ張るの……?


 一抹の不安を抱え、椅子に座りながら部室を見回す。


 ふと目の前が真っ暗になった。


 あれ、眩暈か。


 何かふわっと当たった気がするが、少しすると目の前に樹里菜先輩の顔がでかでかと、分からないまま離れて行く。


 「樹里菜、やりますね。」


 「だって、こんな時くらいしか出来無いもん……。」


 真っ赤な樹里菜先輩を見て、状況がやっと分かる。


 「樹里菜先輩!? キスしました!? ひょっとして!?」


 「大きな声で言うなバカ!」


 「痛っ。」


 スパーン!と頭を叩かれる。


 どうやらこれから樹里菜先輩含めかなり楽しくなりそうだ。


 僕、この部を率いて頑張ります。


 そして部長、完治と卒業おめでとうございます。

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龍の留年部長と電気球の新入生 大餅 おしるこ @Shun-Kisaragi

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