屋上で2
「お、雪菜。この人たち誰? 俺に紹介してくれない?」
龍ヶ崎が近づいてきてそう言った。
「誰って、圭介。クラスメイトの名前覚えてたじゃん」
「は、はあ!? 変なこと言うなよ!」
怒鳴られた氷室さんは、悲しくてか俯いてしまった。
腹が立つが、氷室さんが我慢しているのだ。俺も我慢する。
「ったく、すまないねえ。雪菜は昔から変なことばっか言うやつで。改めまして、俺! 龍ヶ崎圭介! よろしくな! えーと、何くん?」
氷室さんではなく、俺に目を向けてきたか。
なるほど、な。氷室さんを介して、体育での活躍等それなりの地位を築いた俺、誰もが認める人気者の七瀬さんの仲間に入りたいってところだろう。
嫌悪感を抱く。
気の合うやつらで仲良くすればいい、という俺の信条はどうでもいいし、別にそういう考えであっても友達は友達。悪いことではないし、人によっちゃ、いいことかもしれない。
だけど、捨てた氷室さんを利用しようとした、その根性が気に入らない。
加えて、名前を知っているのに、知らないフリ。それもまた気に入らない。
何より、幼なじみをおいてここに来ていることが気に入らない。
「刈谷だよ」
だが、俺は名乗った。俺が怒ると、この状況を招いた、と氷室さんが悲しむからだ。
「おぉおい!! 名前は名乗るまでもないってか! 上等だコラ、そこになおれ!」
……痛い。目を背けたくて仕方ない。少なくとも、ほぼ初対面でやるノリではない。
「おいおい、ここは笑うところだろ。冷たくするのはやめようネ?」
……なんだそのネは。
「あ、あははぁ、そうだったんだ〜」
流石の七瀬さんだ。ちゃんと合わせてあげてる。ただ苦笑いにはなっていて、困っているのは一目瞭然だった。
「そうだよ! そのへんにしとかないと僕くん傷ついちゃうゾ?」
七瀬さんの愛想笑いに、受けていると勘違いして、龍ヶ崎はますます調子に乗る。
「オーケー。一緒に飯を食おう、そん中で俺の面白さをわからせてやるぞ、ワレ」
「もう、やめてよ……」
か細い声で氷室さんが言った。
「なんだよ、雪菜?」
「帰ってよ。圭介が邪魔になってるの気づかないの?」
「は、はあ!? 何言って、盛り上がってただろ?」
そう言って龍ヶ崎は俺を見た。
氷室さんが我慢をやめた今、もはや堪える必要はない。
首を振ると、龍ヶ崎はチッと舌打ちした。
「何だよ、差別すんのかよ」
「そうじゃないよ、圭介。ちょっとは合わせる努力をしなきゃ……」
「はあ!? 合わせるって何だよ! ははっ、雪菜。リア充と絡んで偉くなったな? 俺みたいなインキャは近づいても欲しくないってか!?」
「そうじゃない、そうじゃないんだよ、圭介。皆、相手のことを見て仲良くなるために努力してるんだよ……」
「見てねえのはお前の方だろ! くそっ! あーあ、本当良かったぜ! お前みたいな差別主義者と婚約が破棄できて! ざまあ!」
氷室さんが暗い顔になるのを見て満足したようで、龍ヶ崎はご機嫌で帰って行った。
扉が閉まると、俺は怒りよりも心配で氷室さんに声をかける。
「大丈夫?」
「龍ヶ崎くんって、あんな子だったんだ。落ち込まなくても大丈夫だよ、氷室さんが正しい」
二人でフォローを入れると、氷室さんは、大丈夫じゃない、と首を振った。だけど笑顔だった。
「あんな奴に、私の青春を一年無駄にしたと思うと、そりゃ大丈夫じゃないよ!」
その冗談は、龍ヶ崎のように押し付けるものではなく、俺たちを慮ったもの。だから笑うのが正解で、俺たちは笑った。
「そうだわ、恋に盲目すぎんのも大概にしとかないとな」
「その一年、無駄過ぎて笑う」
ひとしきり笑って、氷室さんは目元をぬぐった。
「あのさ、やっぱり私青春を取り戻したい。キラキラの青春を送りたい」
だからさ……と続ける。
「ずっと友達になりたいと思ってました。これから私と遊びとか色々一緒に行ってくれませんか?」
氷室さんは立ち上がって、七瀬さんに手を差し出した。
「プロポーズじゃん」
と屋上の青空によく映える笑顔で七瀬さんは手をとった。
すると、氷室さんも負けないくらいの笑顔を浮かべた。
爽やかな風が吹く、青空が綺麗な屋上で、このやりとり。
氷室さんは、キラキラの青春の最初の1ページを埋めたのだった。
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次回七瀬さんside
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