第8話

 あの宿に泊まると、そこにはいるはずのない子供が姿を見せることがある。

 その子供は、紺地に赤い文様の入った絣の着物を着て、赤い鼻緒の下駄を履き、古びた団扇やけん玉、壺や食器などと一緒に、楽しそうに遊んでいる。

 もし、その子供が姿を見せ、嬉しそうに笑いかけてくれると、その人には幸運が訪れる。

 あの宿は、座敷わらしのいる宿だ。

 

 そんな噂が流れ始めたのは、それから間もなくのこと。

 サチはその後も訪れる人達が笑顔になれるように、幸せになれるように、付喪神達と一緒に、サチなりに精一杯、笑顔で楽しくもてなした。

 ととさまもかかさまも、きっとお空の上から元気な笑顔のサチを見て、幸せそうに笑ってくれていると信じて。

 そうして宿は、前にも増して繁盛した。


「あの童も、随分と立派な座敷わらしになったもんじゃの」


 竹とんぼと戯れながら、たのしげな笑顔で周りを和ませているサチの姿に、壺がしみじみと呟きを漏らす。


「サチは、そのために生まれて来たんじゃあ、きっと」


 壺の側で、団扇も嬉しそうに呟く。


 幸せな子になって欲しい。

 周りを幸せにする子になって欲しい。


 団扇のかつての持ち主であったサチのととさまとかかさまが、願いをこめて名付けたサチ。


「サチ。おめぇさん今、幸せだか?」

「うんっ!」


 団扇の問いかけに、サチは幸せいっぱいの笑顔で、元気よく返事を返す。

 サチの周りの付喪神達も嬉しそうに、カタカタと音を立て鳴らした。


【完】

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座敷わらしのしあわせ 平 遊 @taira_yuu

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