第7話 ますたーくりえいたー

 すたこらさっさとアルテラの街に戻ってきた私達は、街の中心にある噴水の前で、ケートの友達に会っていた。

 その子は、私達よりも少しだけ背が低く、黒髪のストレートボブの女の子で、ほとんど表情が動かない。


「やっほー。こっちでは初めましてのケートちゃんでっす!」


「……ん」


「あ、こっちの子がメッセージでも伝えたセツナね! 私の相棒!」


「ん」


 そのうえ、さっきからケートばっかり話していて、相手の子は「ん」しか言っていない。

 もっといえば、名前すら名乗ってない……。


「ケート、とりあえず場所変えない? なんだか、結構見られてる気がするよ?」


「あっ、そうだね! リン、どこかいいところない?」


「共有作業場。登録」


 え?

 共有作業場の登録?


「なるほどー! 共有作業場なら、個室になってるから登録した人以外は入れなくなるんだー! じゃあ、そうしよー!」


 え!?

 なんでわかるの!?


「ん」


「了解! よろしくー!」


「……なんでケートには伝わってるの?」


「え? んー、ソウルメイトだからかな! でも、俺の心の一番奥は……君だぜ、セツナ」


「あ、そう? ありがとう?」


 なんだかよくわからないことを言われたから、とりあえずお礼を言ったら、「んー、ツレないところも素敵っ!」ってケートは喜んでいた。

 ……ちょっと離れて歩こうかな。


「あ、セツナ。ちゃんとついてきてね! リンが案内してくれるから」


 離れようとした私の手をガシッと掴んで、ケートはずんずん引っ張っていく。

 もー。



「カリン、よろしく」


 共有作業場に着いた私達は、先導するリンと呼ばれていた子に誘われるまま、奥にあった小部屋へと入っていた。

 そこは、小型の鉄工所と、機織りと、木工作業場と台所が一緒になったような不思議な場所で、私がキョロキョロしているといきなり、彼女がそう呟いて頭を下げた。


「え? あ、セツナです。よろしくお願いします」


「ん」


「私はみんな大好きケートちゃんでっす! よろしくね!」


「……」


「もー! リン! ちゃんと返してよ~!」


 無反応にプリプリ怒るケートを無視して、カリンは椅子に腰かけると「依頼」と短く口にした。

 その言葉に「りょーかい!」と笑顔を見せて、ケートは机を挟んだ反対側へと座った。

 つ、ついていけない!


「リンも知ってると思うけど、私達、さっきボスモンスターを倒したんだよー! だから、その素材でなにか作ってもらえないかなーって思ってて、どうかな?」


「ん。内容、報酬も」


「内容としては、二人分の装備一式。でも、素材量的に無理そうだったら、優先はセツナの武器と、私のメイン防具かな。セツナは【抜刀術】用の刀。私は魔法使いだよ。報酬はお金って言いたいけど、今二人とも初期金しか持ってないから、余った素材を譲るって考えてる」


「ん、成立」


「ありがとー! さすがリン!」


 スムーズに決まった交渉に、私がポカーンとしてると、ケートは「じゃあ、素材出すね! セツナも!」と私の肩を叩いた。

 それに頷いて、私はアイテムボックスからアルテラフロッグの舌や皮、二足歩行蛙フロッグマンの水かきや皮、そしてキングフロッグの皮、そして折れた槍を部屋の床へと出して積み上げた。

 ケートの出した素材の数を合わせると……合計100点くらいにはなるんじゃないかな?


「沢山」


「でしょー! 結構効率よく狩れたんだよねー!」


「ん。大体足りる」


「大体ってことは、足りないものもあるんだよね? リン、何が必要?」


「鉱石と木材。刀用」


 言われてみれば、金属は王冠と槍しかない。

 それに鞘とかのことを考えると、木材は必要だよね。


「でも、鉱石ってどこで取れるの?」


「ふっふっふ、こういうときは大体お決まりの場所にあるのじゃ……」


「だから、それはどこなの?」


「それは……山じゃよ! そう、次の目的地は、この街の北側にある山だー!」


 ばばーんと胸を張って答えるケートに、私もカリンも無反応を貫く。

 すると、ケートは「は、反応してよぉ……」と、顔を真っ赤に染めていた。


「でも、山ってゴーレムがいるんじゃないの? ケート、そう言ってたよね?」


「うん、たぶんいると思う。だから、ゴーレムの相手は私がするよー。セツナは刀で攻撃せずに、蹴ったり殴ったりして注意を引いててくれたらいいかな?」


「そう? それくらいならできると思うけど」


「うん。よろしくー! ってことで、私達は行ってくるねー!」


 しかし、そう言って用事は済んだ! と出ていこうとするケートの服を、カリンは掴み引き留める。

 そして、「行く」と短く告げたのだった。



 アルテラの街の外へ出て、北側の山へと向かった私達は、ごろごろとした石を踏みしめながら、山を登っていた。

 森や湿原から、急に岩場になるの……とてもゲームって感じがする。


「でも、リン。狩りについてくるの珍しいねー。どうしたの?」


「戦い方」


「あー、なるほどー! セツナと私の戦い方を見て、装備に反映させたいってことかー! さすがリン、伊達に『マスタークリエイター』って呼ばれてないね!」


 ますたーくりえいたー?

 なに、それ。


「あ、えっとね、リンは前一緒にやってたゲームで、全種類の生産能力をMAXまで高めた、史上最高の生産プレイヤーだったんだよー。だから、運営が称賛の意味を込めてマスタークリエイターって称号を付与してたの! リンだけの称号……いわゆる、ユニーク称号ってやつだね!」


「ほえー……すごい」


「好きなだけ」


「いやいや、好きってだけで、そこまで極められる人はいないよー。それに、今回も極めるつもりで、初期スキルを【鍛冶】【木工】【細工】にしてるんだよねー? お金も素材図鑑で使いきっちゃってるみたいだしー」


 え、それって全部生産スキルってやつ?じゃあ、カリンって……武器もなにも持ってないの!?そのうえ、お金も持ってないって……。


「カリンさん、大丈夫なんですか?」


「ん。問題ない」


「リンのことだから、街のなかに落ちてる石とか、噴水の水とか……そういったものすら利用して、なにか作るだろうし、大丈夫大丈夫。たくましいよねー」


「それって、たくましいって話なの!?」


 変わってる人とは聞いてたけど、ここまでとは。

 うーん……悪い人じゃなさそうだけど、理解はできないタイプの人かも……。


「そんなわけでセツナー。ゴーレムでたー!」


「はーい。いってきまーす」


「よろしくー!」


 ケートが指差す方向に、石でできた巨人がのっそりと歩いていた。

 なので私は、当初の相談通り近づいて、ポコッと巨人の足を蹴り飛ばす。

 うん、当たり前だけど、私の方が痛いよね!


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 名前:セツナ

 所持金:1,000リブラ


 武器:初心者の刀


 所持スキル:【見切りLv.1】【抜刀術Lv.4】【幻燈蝶Lv.2】

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