第26話 豊後守、逆転無罪⁈

「まだ疑うか、氏家三河守! 小太郎、氏家三河守自身ははヨシノをかどわかす企てには関わっておらなんだのか、どうなのだ?」


 サブロウは真剣な顔で小太郎に尋ねる。


 皆の視線が森小太郎に集まった。


「三河守さまは、わたくしの知る限り、此度こたびの企てには一切関わってはございません」


「当たり前であろう。義父がそのようなことを企んでいたのだと分かれば、この身を挺して止めております!」


「で、あるか。三河守の存念はわかった」


「ははっ!」


「だが、ヨシノが俺の目の前で拐されたとき、小太郎、その方はおらなんだな」


「サブロウさまにお目にかかったあと、サブロウさまがオーガと呼び、大桑の者が異龍と呼ぶ恐ろしい化け物に襲われました。それから逃げるときに足元が崩れて転落して、気を失い仲間とはぐれたのでございます」


「オーガ、いや、やはり土地の者にならって異龍と呼ぶべきか。あれに襲われてよく無事でいられたものだな」


「ただの僥倖ぎょうこうでございます。幾人もの豊後守殿の雇った透波すっぱと、弥次郎が異龍に殺されました」


「そうか。弥次郎がのう」


「はい。わたくしは気がついたときには助けて頂いた大桑の民の家に寝かされておりました。そこで、別の同志がヨシノさまを拐したことを知ったのです」


「お主がヨシノの誘拐のときにおらなんだのは、そういうことであったか。それで、お主は任務失敗の報告に豊後守の元へ戻ったのか?」


「いいえ、大桑の里の方々と話をするなかで、自分がやろうとしていたことが大きな間違いであると気付かされました」


「ほう。それは一体どう言うことであるか」


「はい。戦乱が続けばいやでも実力主義で政を行うことになるでしょう。ですが、戦乱続きでは民百姓が安心して楽しく暮らせませぬ。実力主義であろうとなかろうと、戦乱が続くようでは本末転倒。正しいご政道とは、けして言えませぬ。そんな当たり前のことにようやく気づけたのです」


「なるほどな」


「それもこれも、サブロウさまが大桑の民におっしゃったと言うあの言葉のおかげでございます」


「うむ? なんだったかな?」


「天下布武ならぬ『天下布芸』にございます。武をくのではなく、芸をき、皆が楽しく暮らせる世を作る。そんな政こそ真に正しいご政道であると感じ入った次第にございます」


「ふむ。であるか」


 褒められなれていないサブロウはそっけなく返事した。照れているのか済ました顔でも耳が赤くなっている。


「はい。それで己れの罪は罪として、まずはヨシノさまをお救いせねばと、下克上党の本拠地に戻りました。ところが建物は倒壊して廃墟となり、庭では大勢の民がかわやを作らんとやたらと穴を掘っておりました」


「ほうほう。で、あるか」


「その屋敷にいた者たちがどこに行ったか聞いてみれば、ヨシノさまともども長井豊後守殿の住む屋敷に向かったとのこと。急ぎそちらに向かう道中で、同じくヨシノさまを探す幻庵宗哲さまと出会い、同行して頂くことになりました」


「うむ。左様である。友の奥方が拐かされたのだ。捨てては置けぬ。俺はこの森小太郎とともに長井豊後守とやらの住まう屋敷に、ヨシノ殿を解放するべくおもむいたのだ」


「そこは間違いなく、長井豊後守の住まう屋敷だったのだな」


しかり」


「お待ちくだされ、どこの馬の骨とも知れぬ修験者殿のお言葉では信のおける証言になりませぬ」


「それは幻庵宗哲殿に失礼であろう! あちらは間違いなく長井豊後守殿の屋敷でありましたぞ!」


 氏家三河守が必死で抗弁すれば森小太郎も反論する、すると幻庵宗哲は座り直し、背筋を伸ばし三河守を冷ややかに見つめて話す。


「この幻庵宗哲は、またの名を伊勢長綱と申す。伊豆と相模の両国を国主として治める伊勢宗瑞の息子である」


「なに!一代で伊豆・相模の二カ国を制したあの伊勢宗瑞の息子だと!」


「その伊勢家の者が何ゆえに美濃におるのだ?」


 座が騒がしくなった。


「先ほども言ったであろう。守護のサブロウ殿は我が友である。サブロウ殿とは肝胆相照らす仲だ。友を訪ねるに何の不思議があろうか」


「なるほど」


「そうだったのか……」


「氏家三河守とやら。我が父は足利将軍家に仕えた政所まんどころ執事、伊勢貞国の孫であり、この俺はそのひ孫である。これでも不足か? この俺を馬の骨扱いするからには、その方はさぞかし立派な家柄なのであろうな」


 三河守も宗哲の当て擦りには狼狽した。


「いや、けして左様な意味では・・・・・・」


「やれやれ、かかる輩がのさばっておるから『下克上党』などという剣呑なものが生まれるのだ」


「すまぬな、哲つぁん。俺の家臣が無礼をはたらいた。勘弁してくれ、この通りだ」


 サブロウがそう言って頭を下げる。国主たる主人に頭を下げさせた氏家三河守は大いに慌ててうろたえる。


「すべて、それがしの不徳のなすところ。誠に申し訳ござらぬ。幻庵宗哲殿、お許しくだされ」


と平伏して謝罪した。


「おいおい、サブロウ殿、貴殿と俺の仲ではないか。頭を上げてくれ。三河守殿もだ。ただ言わせてもらうなら、身分の上下にこだわり過ぎると物事の本質を見失うぞ」


「しかと心得させていただきまする」


 そこで小太郎が説明を再開した。


「話を戻します。長井豊後守殿の屋敷に着くと、ちょうど門から同志の大畑五郎左衛門殿が出てくるところでした」


「ふむ。さては五郎左衛門の奴、巻き込まれないように一人で逃げようとしていたな」


「おそらくな」


 サブロウがその苦笑すれば、宗哲も同意する。


「さあ? それはともかく、五郎左衛門殿に話して中に通してもらい、おかげですぐにヨシノさまやチカさま、ヨシノさまのお兄様である稲葉彦次郎殿や彦三郎殿とお会いできました」


「うまい塩梅にことが運んだと」


「はい。また、ヨシノさまをかどわかしたあの隅にいる足立六兵衛、岩手彦七郎、多田三八郎が、丁度ヨシノさまを見張っておりました。そこで、わたくしは豊後守殿の示すやり方では正しいご政道はできないこと、そしてヨシノさまを直ぐに解放してサブロウさまのもとに帰すべきであると、幻庵宗哲さまと共に説得したのです」


「なるほど」


「いやいや。俺は、特に何もしておらぬ。横から説得はまだ終わらぬのかと催促しただけだ。あ奴らを動かしたのは小太郎の熱心な説得だ」


「ふむ」


「サブロウさま、あの三人も過ちを悔い改めてヨシノさまの豊後守殿の屋敷からの解放に大いに助力してくれたのです」


「そうであったか」


「はい。稲葉家のお二人や宗哲さまは勿論もちろんご活躍でしたが、あの三人も、それはもう獅子奮迅の働きでございました。豊後守の屋敷の番兵を次々と蹴倒し、殴り倒し、投げ飛ばし、あるいは棒で叩き伏せて活路を開いてくれたのです。三人には何卒なにとぞお慈悲を賜りますようお願いいたします」


 そう言うと森小太郎は平伏した。


「六兵衛、彦七郎、三八郎、今の話は聞こえたか! その方たちが豊後守の命令でヨシノを拐したものの、森小太郎の説得で考えを改めてヨシノを豊後守の屋敷より脱出させた。以上、相違はないか」


 サブロウは部屋の下座の隅にいる三人組に声をかける。六兵衛はともかく、彦七郎と三八郎は丸くなって悶えていたが、どうにか姿勢を正して答えた。


「「「たしかに相違ございませぬ!」」」


 三人は異口同音どころか完璧なユニゾンだった。


「サブロウさま、どうかお慈悲を。この二人はそろそろ限界でござる。例のものを何卒なにとぞ!」


 六兵衛が嘆願して平伏する。残りの二人は脂汗を浮かべ動けないでいる。


「うむ? なんのことだったかな?」


「『守護まもってあげたい』でござる!」


 多くの者が此奴は主君に向かってなんの告白しておるのだと勘違いするなか、サブロウもようやく思い至った。


「ああ、忘れておった。あれか!」


 サブロウは拳で鉄槌を作り、ぽんと軽く反対の掌に打ち下ろして言った。


「段蔵、金兵衛から合鍵アレをあずかっておらぬか?」


 サブロウは立てた人差し指を鍵型に曲げながら陰陽師姿の段蔵にたずねる。


「へえ、こちらに」


「では、六兵衛に渡してやってくれ」


「へえ。六兵衛さん、こいつでございやす」


「おお、かたじけない!」


 六兵衛はその大きな掌で鍵を受け取った。


「六兵衛、その二人、歩くことも辛そうであるな。そうっと担いで(厠まで)連れて行ってやれ」


「御意! 彦七郎、三八郎、今しばらくの辛抱じゃ」


「「六兵衛、もう待てぬ。早くしてくれ」」


「焦るでない。刺激が強過ぎては危ない!」


 そう言うと、六兵衛は彦七郎と三八郎の二人を左右の肩の上に担ぎ上げた。


「「できるだけそうっと優しく頼む!」」


「わかっておる。少しばかり我慢せい」


「あ奴ら何をいたす気なのだ?」


「先ほどはサブロウさまに『守ってあげたいでござる』などと涙ぐんで告白しておったようだが、やはり・・・・・・」


 三人組は聞きようによっては不穏な会話をして大きな誤解を招きつつ広間から退出していった。


「さて、三河守よ。ここまで証人がそろっておるのだ。その方の義父、長井豊後守は、こともあろうに俺の花嫁を拐して俺を脅迫し、この俺と美濃国を己の意のままに操ろうとしたのだ。これを謀反と言わず、なんとする。土岐家につかえる家宰でありながら全くもって不届き千万。かような不義不忠がありえようか。まだ何か申し開きがあれば申してみよ」


 冷徹に断を下そうとするサブロウに対して三河守はなおも食い下がる。


「恐れながら、義父は先ほどサブロウさまが退治なさった九尾キューピー大王というあやかしに取り憑かれていたのではありませんか。さすれば悪事の全てを義父に帰するというのはあまりにも酷というもの。そうではございませぬか」


「ふむ。その方が申す事にも一理あるな。一番悪いのは九尾キューピー大王と名乗る妖である。ならば、取り憑かれていた豊後守にも、豊後守の命令で動いたすべての者どもにも極刑を下すのではなく、罪一等減ずる必要があるのかもしれぬな」


「是非ともそのようにお慈悲を賜りますよう伏してお願い申し上げます」


「某はともかく、仲間については是非ともお慈悲を賜りたく存じます」


 三河守と小太郎が再度平伏して嘆願する。


 サブロウはじっと三河守、小太郎、そしていまだに目覚めぬ豊後守を代わるがわる見つめ、黙って考えている。


 幾ばくかの時間が過ぎた後、サブロウはようやく口を開いた。


「よし、わかった。美濃国守護として土岐サブロウ頼芸が沙汰を下す。長井豊後守利隆も、小太郎も六兵衛も彦七郎も三八郎も、他の『下克上党』の全員も、誘拐と謀反について一切いっさい罪に問わず赦免、無罪放免とする。ただし、『下克上党』は解散。党員の身柄は、全てこの俺の預かりとする。この決定について異議は認めぬ」


「「「ええーーーーーーーっ⁈」」」


 皆が自分の耳を疑った。この流れで、このに及んでサブロウは何を甘いことを言っているのだ、相手は明らかに重罪人である謀反人なのに。


「サブロウ、お主正気か!」


「貴様、気でも違ったのか!」


 父親の土岐美濃守と兄の次郎頼武も、激しい非難の声を上げる。


「正気も正気。俺はいたってまともですよ。父上、兄上」


サブロウは言い返す。


「「信じられん!」」


「しつこいなあ、もう」


「あの、サブロウさま本当によろしいので?」


 サブロウからこれ以上はない最大限の譲歩を引き出した氏家三河守自身がいちばん戸惑とまどっている。


「うむ。拐されたとはいえ、小太郎と哲つぁんのおかげでヨシノは何事もなく無事に帰ってきた。謀反も未遂に終わった。つまり誘拐も謀反も何も起きなかったのだ。そうであろう、ヨシノ」


「はい、左様でございますね、サブロウさま。それに、小太郎殿も、六兵衛さんも、彦七郎さんも、三八郎さんも、わたくしにはよくしてくれました。許してあげてよろしいかと思います」


 幼いヨシノが健気けなげに答える。


「ありがとうございます! サブロウさま、ヨシノさま! うおおおお!」


 森小太郎が平伏したまま男泣きしている。


「このことを、あ奴らに急いで知らせないと!」


 思いついた小太郎が慌てて立ち上がろうとする。


「待て! 小太郎待て! あいつらは今取り込み中のはずだ。そっとしておいてやれ。探しに行くな! フリじゃないぞ! お前はじっとここに居ろ。良いな!」


「ははっ。かしこまりてござりまする」


「「「やはり・・・・・・」」」


「ところで三河守よ」


「ははっ」


「俺はこれとは別にもう一つの沙汰を下さねばならぬ」


「何でござりましょうか?」


「この宴会場で起きたことだ。豊後守は泥酔状態で皆の前で俺を手籠てごめにしようと裸で大暴れして俺の首を絞め上げたたではないか」


「ええ!?」


「それだけではない。豊後守はこの席で守護代、小守護代、そして娘婿のお主も含めてここにいる多くの者に、殴る蹴るの暴行を加え、しまいには大御所たる我が父にも裸で飛びつき押し倒したのだぞ。これらの乱暴狼藉に対しては厳しく処罰せねばなるまい」


「しかし、それもすべて義父に妖の九尾キューピー大王が取り憑いたために……」


「甘いわ! このたわけもの! 調子に乗るでない!」


 サブロウが大喝した。


「ははーっ!」


 三河守が身体を小さくして這いつくばった。


「そもそも豊後守自身が妖を招き寄せたのであろうが! この俺はわざわざ誘拐も、謀反も過去の悪事もなかったことにしてやったのだぞ! 九尾キューピー大王のことを持ち出すのなら、誘拐も謀反もこれまでの悪事もすべて明るみに出さねばならなくなる! さすれば豊後守にそそのかされた多くの者を処罰せねばならなくなる。この場の誰がそのようなことを望むというのか!」


「しかし・・・・・・」


「まだわからぬか、この大たわけ! 良いか、今後の同様な謀反を防ぐ為にも、誰かが責任を取らねばならぬ。そして、豊後守の乱暴狼藉は、ここに居る皆の目の前で起きた事であるぞ! これをなかったことになどできるか! だから、俺は表向きはこの乱暴狼藉のとがで豊後守本人のみを処断するのだ。それを三河守よ、貴様はこの謀反の件で自分の妻子だけでなく他の者やその妻子も巻き込んで連座させようと言うのか!」


「ははーっ! 滅相もございませぬ!」


 三河守は身をさらに身を縮こませて答えた。


「本来ならこの乱暴狼藉だけでも豊後守を無礼討ちにするところだ。だが罪一等減じて、命だけは助けてやろう。美濃国守護、土岐サブロウ頼芸が土岐家家宰たる長井豊後守利隆に沙汰を下す。皆の者、心して聞けい!」


「「「「「「ははーーっ!」」」」」」


「一つ、長井豊後守利隆は老耄ろうもうのため職分を果たすこと叶わず、よって土岐家家宰および家中における一切の職を解くものとする。


一つ、長井豊後守利隆は泥酔して主家や目上、同輩、目下の者に対する目に余る乱暴狼藉を働くこと、はなはみにくく許し難し。よって改易とし、その有する所領と家屋敷も含めて財産全てを土岐家が没収する。


一つ、長井豊後守利隆から没収した財産の中から、此度の乱暴狼藉の被害を被った者、皆に充分な額の見舞金として一律に支払い補償するものとする。


一つ、長井豊後守利隆は、奉公構ほうこうがまえとする。美濃国内において武家は土岐サブロウ頼芸の許可なくこの者を召し抱えることは許さぬ。違反する者は土岐家に対する謀反とみなし厳罰に処す。


一つ、長井豊後守利隆の罪は親族姻族には及ばないものとする。ただし、本人と親族姻族の関係は絶縁とするゆえ、親族姻族がこの者を助けることは許さぬ。違反する者は土岐家に対する謀反とみなし厳罰に処す。


一つ、長井豊後守利隆は士分剥奪はくだつとする。いかなる苗字や官位を名乗ることも、帯刀することも、出家することも許さぬ。今後は一庶民『としたか』として美濃の市井しせいで庶民と共に生きることを命ずる。これに反した場合は、その都度つど捕らえてむちで十叩きの刑とする。


かの者に対する沙汰は以上である」


 そこまで一気に話したサブロウは皆を見渡してからゆっくりと続けた。


「よいか、要は土岐家の家宰である豊後守が耄碌もうろくして、泥酔で乱暴狼藉を働いたので、守護である俺が激怒して厳罰に処した。ただそれだけのことだ。他にはなんの問題もなかった。誘拐、謀反、過去の豊後守の悪事は元より、妖の九尾キューピー大王についても語るに及ばず! この沙汰に異議を唱えるるなら俺は謀反とみなし処断するぞ! 皆、それで良いな!」


「「「「「「ははーっ!」」」」」」


「三河守よ。お前が身内である義父を大事にする気持ちはよくわかった。だが、いくら俺でも、この『としたか』にこれ以上温情はかけられぬ。此奴は自分がしでかしたことの責任を取らねばならぬ。そして此奴は最早お前とも、お前の奥とも無関係な男なのだ。そうでないと言うならば、俺は美濃のために、お前もお前の妻子も謀反人の一族として斬らねばならぬ。俺はお前の妻子まで手にかけたくはないのだ」


 サブロウは目を細めてじっと三河守を見ている。


「恐れ入りました。サブロウさま、妻子をお助け頂いたこの御恩は決して忘れませぬ」


 三河守はついに義父より己れの妻子を選び平伏した。


「うむ。豊後守、いや『としたか』のせいで美濃は目に見えぬ深き傷を負った。だが、過去は問わぬ。これから皆で一丸となって美濃を盛り立てようではないか!」


「「「「「「ははーっ!」」」」」」


「彦次郎、彦三郎!『としたか』に何か服を着せて牢屋で寝かせておけ」


「「ははっ!」」


 彦次郎と彦三郎が部屋から『としたか』を運び出す。この後美濃では、二年前にまで遡り長井豊後守利隆という人間が存在したという痕跡が綺麗さっぱり消されることになる。


「さてサブロウ、これで全てが片づいたのか?」


 父の土岐美濃守が訊ねた。


「いいえ、父上。わたくしにはまだ大きな仕事が残ってございます」


「うん?」


ドタドタドタドタドタドタ


「申し上げます! ただいま、革手かわてから火急の知らせでございます!」


「うむ。申せ」


「ははっ! 南より南無阿弥陀仏の旗を立てた一向宗、その数三百がこちらに向かっているとのこと! 一向一揆と思われます!」


「「「なんだと!」」」」


 座が殺伐として色めき立つ。


「であるか」


 サブロウはそれだけを口に出した。


「くそっ。このようなときに! どうする、サブロウ!」


 兄の次郎頼武はサブロウに問いただす。


「サブロウ、いかが致すのじゃ?」


 父の美濃守も心配顔だ。


「ん? 別にどうもしませんよ」


「「なに⁉︎」」


「では、そろそろ宴会の続きをしましょう。皆で歌でも歌いませんか? そうだ。哲つぁんから始めようか?」


「うむ。戦でも歌でも一番槍は名誉であるからな」


「「はあ⁉︎ なにを言い出すのだ、 お主たちは!」」






次回、風雲迫るなか、カラオケ回再び⁉︎


つづく

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