第19話 嫌ですの! 何するんですの? やめてくださいですわ!

「嫌だ、凉坂さん、話せばわかるあいつだけはやめよう」

必死に叫びながら抵抗する。この前と同じようにこんな抵抗で許されるようなことは絶対にない。それでもこれから起こる事への恐怖に対して何もしない事を、体が許さなかった。


「啓さん、そんなにいやいやしないでくださる? 私はあの方しかいないと思いますわ!」

「それは壮大過ぎる勘違いだって……。ほら、美月もあんなに後ろの方にいて置いてきちゃってるよ。お願いだから、一回止まろう。」

「啓さんは何を見ているんですか? 美月は嬉しそうな顔をしていますわ!」

動いていた列車が一時停車をした。

確かに確かに後ろの方から嬉しそうな声が聞こえる。


「いいですか? 私は啓さんのためを思って言ってるんですわ! 啓さんにだけは幸せになって欲しいので」

言っているポジティブな言葉とは裏腹にどこか曇ったような声色だった。


ねえ、なんで……。と声を出そうとした止まっていたお嬢様が再び動き出す。電動自転車のような軽く速い初速が体に掛かる。


「という訳なので問題は何一つありませんわ! 行きますわよー!」と大きな声でその大きな体を走り出させた。


もちろん体を出来るだけばたつかせるが、全くと言っていい程効果はない。

友人まで約30m、こうなってしまったらもう回避する方法はないだろう。上手い言い訳を考えるか、友人が空気を読んでくれることにかけるしかない。


僕の口が友達を騙せるほどの言い訳を考えられるならこのパワー系お嬢様を簡単に言いくるめられていただろう。つまり言い訳を考えるのは諦めた方がいい。

そういえばこのお嬢様も言っていた。「困ったことがあればパワーで解決ですわ!」強大な力に対抗するなら同じくらいの力を使えばいい、つまり正面突破のごり押しをしよう。


そうしよう、それしかもう残っていない。マイペースなあいつなら誤魔化せるかもしれない。

無理なら友人の朝人には何をしてでも、黙っててもらうように頼もう。


考えがまとまった、もう朝人まで10m、これだけ音を立てて走っる凉坂さんに向こうがいつ気付かれてもおかしくはない。


「あの、そちらの方! ちょっとよろしいでしょうか?」

朝人は凉坂さんの問いかけに、一ミリも自分が話しかけられていると思っていない様子だ。


彼の独特すぎるマイペースさが上手い事ハマったみたいだ。

そういえば朝人と一緒にいるときに、初対面の子に引くほど冷たくてビビった記憶がある。この冷たい状態を見て凉坂さんが諦めてくれれば完璧だ。


「そちらの背の高いお方? 聞こえていらっしゃいますか? 聞こえてないみたいですわ」

顔こそ見えてないが、困ったような顔をしているのが分かる。

いいぞ、女神はこっちの味方をしている。そのまま諦めろ、諦めろ、諦めろ、その男だけは諦めろ! 心の中で強く願った。


「うーん、どうすれば注目して頂けるんですかね。あ、分かりましたわ! いやー、啓さんやめてくださいですわ!」

嫌な予感がする。いや、知り合い以外にはとことん冷たい朝人ならちょっとやそっとで反応しないはずだ。


「嫌!! 啓さん! 何するんですわ! やめてくださいですわ!」

明らかに棒読みの演技が振舞われる。


こんなものを誰一人まともに受ける人はいないだろうが、一応言っておこう。

俺は何もしてねえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ

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