第4話 スペースがなければ沢山の土地を買い取ればいいじゃない!

「じゃあ行きますわよ!いっせーの!」

彼女は一人で掛け声を出しながらリビングの壁を殴り始めた。

一発目で壁紙がボロボロに破れて壁の中からコンクリートが露呈する。僕は止めるどころか呆然としていて、家の壁ってこんな風になっていたんだというどこか俯瞰したような感情しか抱けなかった。


「では、もう一発!」

楽しそうな声色を出しながら女は二発目を繰り出す。コンクリートの欠片が床にボロボロと落ちていく。コンクリートって意外と柔らかいのかなと思い欠片を拾って触ってみる。


なんだこれ、硬すぎるだろ、力を思いっきり入れても強固なコンクリートが割れることはなかった。


「意外と硬いですわね!最後に一発ぶち込んでやりますわ!」

「ちょ、ちょっと待って」

「え?なんですの?」

やっと言葉を出せたかと思ったが、彼女の動きを止めるにはかなり遅かったようだ。

彼女から繰り出された自動車ほどの速度のパンチはとどまることを知らず、コンクリートの壁を突き破っていく。

綺麗にぶち抜かれた壁の奥には、一般住宅地に似ても似つかない豪華なシャンデリアのついた大きすぎる部屋がまるでずっと前からそこにあったかのように鎮座していた。


僕が再び言葉を失っている間に彼女は、ずかずかと新しく出来た部屋の中に歩みを進めていく。

凉坂さんは本当に何が目的なんだ。


「こっちですわ!早く来てくださいー」

言われるがまま僕も豪華な部屋の中に歩いていく、なぜ家と直通で繋がっているんだ。隣といっても限度がある、真横どころかもはや同じ家だ。よく分からないがここまで密着しているなら何かの法律に違反していそうな気がする。


それも気になるがそれ以上に疑問な点があった、想像以上に広い。僕の知ってる限り隣の空き地を隅から隅まで合わせてもこの広さにはならないはずだ。


「ここ広すぎませんか?」

ルーム紹介でも始めようとウキウキしている彼女に対して質問を投げかけてみる。

「それは、ここら辺一帯の土地も買い取って工事させていただきましたので!」

平然とそんなことを答える。これは悪い夢だ。いや、いい夢なのか?


「啓さん!一つものすごい部屋があるんですよ」

夢の妖精が魅力的な言葉を言ってくる、せっかく変な夢を見ているんだから付いていくことにしよう。


「ここですわ」

彼女は部屋に似合った優雅な歩き方をして、部屋の隅の方、新しいドアのある場所へと案内をした。


「開けてくださいまし」

おしとやかな言葉に従ってドアノブに手をかける。もう何が来ても驚かない、だってこんな突拍子のないもの夢なのだから最近流行りの明晰夢というやつだろう。


ガチャリと金属製のドアノブを捻り、ドアを押し出す。

そこには異常なほど安心する空間、この夢に入るまでにいた場所、僕の部屋が本棚の位置やごみ箱の中のゴミですら一ミリも変わらずに再現されていた。


「どうです?気に入ってくださいましたか?」

少し照れたように、それでいてこちらが喜んでいることを確認するかのように質問をしてくる。


どうしてだ、どうしてなんだ。せっかくならさっき見た部屋のような豪華な部屋を作って欲しいのに。夢でまでこんな所に住もうとする自分のリアリスト加減が嫌になる。


少し項垂れている僕を不思議そうに見ながら、凉坂さんは他の部屋への案内を進めていく。


金一色の部屋、何か良く分からない高級そうな服などが並べられた部屋、温泉施設化のような風呂など、新設された新しい部屋を見回った。


「どうです?今紹介したスペースが私たちが今日から一緒に住む場所ですわ!」


自信満々な彼女を見て、僕の中で恐怖と不可思議が混ざり合い、最後に少し面白そうという気持ちが混ざった感情の芽が育ち始めた。

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