第3話 今から壁をぶち抜きに行きますわよ!!

「ちょっと待ってください」の一言すら言う暇もなく彼女は靴を脱いで家の中に入ってくる。

いや、ここで止めなければダメだ、彼女が泥棒のようにはどうしても見えないが、それでも知らない人間を家族の大切な家に入れるわけには行かない。


咄嗟に腕を動かして彼女の手を掴む。

「あら、啓さんったら手を繋ぐなんて恥ずかしいですわ」

リンゴのように頬を赤く染めながら彼女がそんな事を言う。そんな照れた反応とは裏腹に彼女の歩みは留まるところを知らなかった。


「あのちょっと、止って、お願いします止まって」

「あら、啓さんそんな必死に止めなくても私はずっとここにいますわ、今日から一緒に住むんですから」

ニコニコしながら彼女は楽しそうに僕の手を引っ張っていく。それに僕も抵抗するように彼女の進行方向の逆側に全体重を乗せる。しかし、びくともしない。それどころか彼女は顔色一つ変えずに簡単に僕を巻き込んで歩みを進めていった。


本当に彼女は何が目的なんだ、確かに多少のお金は僕の家を脅せば手に入るかもしれない。ただ、こんなリスクを冒してまで手に入れる価値のある程のお金は手に入らないだろう。それに脅したところでお金が貰えるのか確定しているわけではない。ここは彼女の目的を探ってみるために少し会話をしてみるか。


「あの、凉坂さんはなんで僕の家に?」

「さっきから言ってますように、私は啓さんに恩を返したいだけです、受け入れてもらえないのでしょうか?」

さっきまでの自信満々という表情ではなく、目をうるうるとさせながら恐る恐るといった感じの声を出してきた。

やめてくれ、そんな顔で見るのは。


僕は考えている間「いやー、あー」など意味の全くない声を出し続けた。

考えろ、人間としてはこのまま彼女の事を受け入れないのが正しい。ただ男としてこんな見目麗しい女の子を泣かせていいものかと。


そんな事を考えていると彼女を掴んでいた手から力が抜けていた。

「答えてくれないなんて酷いです」

次の瞬間僕の肩に衝撃が走る、何が起こったまま分からないまま僕の体が3mくらい後ろに吹っ飛んでいた。


「あ、ごめんなさい!」

凉坂さんが焦りながら駆け寄ってくる、その表情を見て彼女に吹っ飛ばされたことを理解する。

ヤバイ、この人を怒らせたら体が壊される。現に押されたであろう方の辺りが内面から痛んでいる気がする。

怒らせたらヤバイ、体が危険を感じている、彼女になんとか話を合わせなければ。


「受け入れます、受け入れますから」

「本当ですか?ありがとうございます!、じゃあ私たち今日から一緒に住みましょうね!」

一呼吸もなく彼女はそのセリフを言い終えた。

「一緒に住むってなったら準備とかは?ほら、スペースも家じゃ足りないし」

「その事なら心配ございませんわ!私隣の土地買って二世帯住宅になるよう家建てておきましたもの!今から壁をぶち抜くなんて造作もないですわ」


隣の土地?そういえば半年近く前から隣の家が空き地になっていた気がする。いや、昨日まで更地のままだった、一夜城でもあるまいし一日で家を建てるなんて無理に決まっている。

「じゃああっちからぶち抜きに行きましょう!」


お嬢様口調の少女は僕の手を引いて、リビングの方へ掛けて行った。


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