第2話 愚かで賢い詐欺師達の定義
世界には色んな人達が居る。
この人達の言葉には、様々な定義がある。
生物学、医学的な定義は勿論、文学的な定義、歴史的な定義、差別的な定義。
そして愚かにも、感情的な定義もある。
「ニンゲン。あなたがいずれ、外の世界へ出る時の為に、必ず学んでおかなければならない人種よ」
「……にんげんって、エルフのこと?」
「いいえ違うわ。エルフの言葉の意味としての人間ではなくて、彼ら自身がそう呼ぶ、種族、人種としてのニンゲン。……私達亜人が、最も注意しなければならない人種なの」
「あじん……?」
最後に、社会的な定義だ。人は皆、それぞれ各々、好きな定義で人を語る。その食い違いは、恐ろしい戦争や悲しい差別へと繋がっていく。
森のエルフが歪んだのにも、このニンゲンという種族が無関係ではない。
母の講義は継続して受けている。不信感とは言っても、まだ些細な違和に過ぎない。それに私は母を慕っている。優しく包み込んでくれる、親の愛情を感じるからだ。
「ニンゲン以外の人種のことを、纏めて亜人と呼ぶの。だから私達エルフも亜人。他にも、ドワーフや、ゴブリン、オーク、ハーピーにマーマン。全部、亜人なのよ」
「どうして?」
言葉には意味がある。亜人というのは、亜の人ということだ。人というのは、人種のことだろう。ならば亜、とはなんだ。
主たるものに次ぐ。準ずる。二番目の。そういった意味があるらしい。
では主たるものとはなんだ?
この場合。
ニンゲンなのだろう。
「…………この世界はね。本当は誰の物でもない。ただ悠然と、そこに在るのが世界。でも、他の生き物と比べてとても賢いヒト種は、世界と同時に存在する、同じくらい広い『社会』というものを作ったの」
「しゃかい」
「ニンゲンも、私達エルフも、他の人種も、皆、社会に生きている。人と人が関わり合って、繋がり合って暮らすこの世界に生きている限り、社会とは切っても切り離せないの。今も私達は、巨大森という、エルフの社会のひとつの中に居るのよ」
つまり我々エルフとは――
「ニンゲンはね。とても賢かったの。誰より早く、どの種族より早く大きな社会を形成して、色んな言葉を作って、地図に線を引いて。国家を作り、戦争をして、爆発的に数を増やして、知恵を育んで。数の力で世界を踏破して、全てを調べ上げて、『ヒト種』の頂点に立った――と、宣言したの」
ニンゲンに次ぐ、二番目のヒト種だと。世界中のニンゲンから馬鹿にされているのだ。
「とても賢く、残忍で恐ろしく、愚かで弱く、凶暴で多い。世界の理を、魔法学とは別の角度で暴く、急速に繁栄してやがて自滅する詐欺師の差別主義者。基本的に、亜人というレッテルを貼られた私達は、ニンゲンに蔑まれているの」
ニンゲンのことを話す母の表情は、とても冷たかった。まるで母までニンゲンになってしまったかのように。
「だから、あなたも私達と同じようにニンゲンに注意しなければならいのよ」
ニンゲンと亜人が分かれて、対立していると。私が思うように。
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