第42話 ミホとブルボン


「 どーも皆さんこんにちは! ミホです! ブルーです! ボンです! 三人揃ってミホとブルボンでっす! 」



という挨拶で始まる私達の配信は、



「 せーのっ!人生なんてヌルゲーだ!!はいっ!ではまた次回お会いしましょ~♪バイバーイ♪ 」



という言葉で締めくくられる。



今や登録者数120万人を誇るゲーム実況チャンネル『ミホとブルボンげーむす』。


配信者は私、中西なかにし 美穂みほ こと ミホ。

青島あおしま なぎさ こと ブルー。

本田ほんだ 七海ななみ こと ボン の三人組だ。


同じ団地で育った幼稚園からの幼馴染。

中学1年生の夏休み、思い出作りの一環として始めた動画配信がきっかけだった。


最初の頃の動画は何の工夫もなく、ちょこっと文字入れをしただけの拙い編集で、ただただ私達がホラーゲームなんかをワーキャー言いながら遊んでいるだけのものだった。


世間に向けて動画配信をしているとはいえ、私達にとってはそれ自体が遊びに過ぎず、登録者数の変遷や視聴者の反応なんて全く気にする事がなかった。


それが、驚くことに開設からものの数か月で登録者数が10万人を超えてしまうような事態になっていた。


JC三人組という物珍しさがウケたのかどうかは分からないけれど、気づけばメディアにも度々取り上げられ、自分達が意図しないうちにどんどんと有名になっていった私達。


顔出しは一切しないにも関わらず登録者数は増えていく一方で、なんと、配信を始めてからものの2年弱の間でついに100万人を突破し、つい最近では120万人まで増えている。



「人生とかマジでヌルゲー」



もはや誰がそれを最初に口にしたのかは定かではないが、今では私達三人の口癖であり、配信の締め台詞としても定着し、視聴者からのコメントには『人生ヌルゲー!』が挨拶代わりに飛び交っている。


そして、いつしか私達はリアルでも本気でそう思うようになっていた。


これまで大した挫折も、努力も、苦労もしないうちに多大な人気や多額の収入を得たことで増長してしまったのだ。


故に、同年代があたり前のように抱える現状への不満も、未来への不安も、私達には無縁だった。


いつまでも続く明るい未来を疑う事は、なかったのだ。



それなのに……



それなのに、今の私達ときたら、人生とはクソゲーで、ムリゲーで、スーパーハードモードなのだと、打ちひしがれている。


たった一人の男との、たった一回のデートによって変えられてしまった。


坂本 響。


私達の順調だった人生ゲームは、彼というたった一人の男によって、狂わされてしまったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る