14話-嘆きの剣と鎮魂歌(2/3)
「おはようございます!旦那!酒ありがとうございましたっす!おかげで無事に済みましたっすよ!」
「おう。そりゃあ何よりだ。それでお前は今日は休んでても良かったんだぞ?まともに寝てないだろ?」
何時もの時間に出勤したが確かに殆ど眠っていない。だが早くやりたいことがあったのだ。袋に入れた大きな荷物を持ち込んでいた。
「ふっふっふ!この剣を見てくださいっす!」
儀式で唯一残った短剣を見せつける。造りは悪くない。が、この店の品に比べれば劣る。だがそこではない。
浄化の終わった短剣は属性が反転して強い聖なる属性を湛えている。
「うお!こりゃすげぇな!剣そのものが属性石みたいになってやがる!しかも聖属性とか激レアじゃねぇか!」
「でしょでしょ?属性石をエンチャントした剣は作れるっすけど属性石で作りあげた剣なんて見たことないっすよ!それも聖属性!」
エルも長い事浄化をしてきたがかなり珍しい現象だった。
もう一度やれと言われても出来ない。
強い聖の属性が付与されているということはそれだけ強い負の感情に侵されていたということだ。それにより使用者のゴブリンは王を名乗り、狂気による耐性が備わっていたにしても更に狂暴になっていたことだろう。
その粗雑な扱いにも耐え、いくつかの偶然が重なったことによる奇跡である。
本来であればこの剣も墓標として置いてきたかったが悪用されては本末転倒だ。
そして浄化されたとはいえ遺品を販売することも躊躇われる。
故にこれはエンチャントの素材として使うことにしたのだ。
「というわけでコレはエンチャントに使うので剣を打ってくださいっす!」
「ほう?勿体ない気もするが仕方ないか。売る訳にも使う訳にもいかないしな。飾るにしても飾り気がなさすぎるか。で、どんなのにするんだ?」
「ロングソードをお願いするっす。金と銀の合金、エレクトラムで」
持ち込んだのは金貨と銀貨の山。金と銀は魔を退ける力がある。
その合金であるエレクトラムもだ。聖なる金属として古くから儀式や退魔の道具として使用されている。
「硬貨を鋳つぶすとは豪勢だな。純度が高いから楽でいいが。それで硬化剤はどうする?そのままだと軟らかくて実用性のない剣になるだろ?」
「ちゃんと考えてるっすよ。コイツでお願いするっす!」
当然儀礼剣にするつもりもない。
首にかけられたネックレスの石座から親指の爪サイズの青い金属を取り外し渡す。
ドミニクの顔が驚愕の表情に変わるが当然と言えば当然であった。
「エル!お前コレ・・・オリハルコンじゃねぇか!」
神の金属と呼ばれ、あらゆる書物に名前だけは出てくるが現物を見たことがあるものは殆どいないだろう。
オリハルコンで作られた武具はあらゆる負荷に対して絶対の耐性を持ち不変の属性を有している。剣を作れば折れず曲がらず欠けることはない。防具を作れば竜のブレスすら防ぐという。
純粋なオリハルコンでなくとも混ぜ込むだけでもその片鱗を発揮する。
欠片とはいえ個人で所有するようなものではないのだ。
それを一目見ただけで見分けたドミニクは流石と言ったところか。
恐らく大国であるドワーフの国にもオリハルコンの武具があるのだろう。
所有していない国の方が大半であるが。
「よく分かったっすね?正真正銘本物のオリハルコンですよ。というわけでエレクトラムにオリハルコンを混ぜ込んだロングソードをお願いするっす。
誰にでも使い勝手がいい騎士団仕様に装飾は程々で。エンチャントをするので彫刻は少な目でお願いしますね?」
「おう。分かった。だがいいのか?お前に合わせた剣じゃなくて。もう少し小さい方が振りやすいぞ?」
「いえいえ。僕が使うとは限らないっすからね。それなら汎用性が高い造りにするべきでしょう。
売る気はないですけど誰かに託す可能性は高いっすからね」
「なるほどな。じゃあそれで作るとするか。久しぶりの大仕事だ。珍しいモンを打たせてもらう分の工賃はタダにしてやるよ。燃料代が高いからその分は払えよ?
「それは有難いっすね!お言葉に甘えさせてもらうっす!でも魔法で炉の温度を上げてもいいっすよ?」
「阿呆。そうするとお前の魔力が混ざるだろうが。混ざりものがない純粋な剣の方が素材の持ち味を活かせられる。出番はエンチャントの時まで取っておきな。
剣を打つまでの所はドワーフに任せとけ!ちゃんとオリハルコンの加工法も知ってるから安心しな」
店番をエルに任せ、早速取り掛かるために店の奥の工房へ引っ込むと、金貨と銀貨を半々の割合で坩堝に入れ過熱をする。
本来であれば金属の溶け始める温度の差や溶液を利用して製錬作業を行うがドミニクはドワーフである。
坩堝の中で金も銀もドロドロに溶かし、混ざり合った状態から徐に手を入れ掬い上げる。掌に残るのは貨幣に含まれていた不純物。勿論火傷もしていない。
ドワーフは大地に愛された種族だ。金属もその大地に含まれている以上は自ら熱した金属によって火傷を負うことはないのだ。
ただ素手で突っ込んだだけではない。錬金術により分解と抽出を行ったのだ。
加熱する前の硬貨の状態で錬金術により直接不純物を取り除くことも出来たが面倒だったのでまとめてやっただけだ。
ここまでは鉄よりも低温で溶ける素材なので何の問題もない。問題はオリハルコンだ。これは通常の燃料で溶かすことは出来ない。
故に火竜の素材を使った非常に熱に強い坩堝に火炎袋を利用した加熱装置を使う。
これは使い捨てではあるが魔力を込めると火竜のブレスを再現できるものだ。
当然ヒトの魔力では大規模な効果を及ぼすことはできないがそのおかげで数日は連続使用が出来る。
そして素材に対して余計な効果を及ぼさないのだ。ドワーフに伝わる伝統技法である。オリハルコンを溶かし、先に混ぜ合わせておいたエレクトラムを投入する。
琥珀金と呼ばれるエレクトラムは白みのある金だ。それにオリハルコン特有の淡い青の光が覆う。
それを型に流し込み大まかな形にする。
ある程度固まってくると鍛造により形作るのだ。
刀のような折り返し鍛造はしない。
複数の鋼を組み合わせた剣ではないからだ。今回の場合はむしろ剣を弱くしてしまう。
カーン・・・カーン・・・剣を槌で叩く。
「かってぇな・・・」
手許に返ってくる反動は鉄に比べて遥かに強い。
きっと十分な強度を保ってくれることだろう。
赤熱した金属は徐々に形を変えていく。
念入りに叩くことで気泡を抜き、より強度の高い金属へと加工していくのである。
刀身から柄まで全てを成形する。
下手な材質を組み合わせると強度が下がる可能性があるからだ。
熱を加えては叩く。冷えるとまた熱を加えて叩く。
何度もの繰り返しの末に完成する。
あとは研ぎと装飾を加えることで完成する。
もう少しだということで研ぎまで一気に終わらせてしまう。
通常よりも遥かに砥石の消耗が激しかった。
装飾はエンチャントの後でもいいだろう。
続きはエルの仕事である。
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