第2票:ガチ勢の戦いは投票日前から始まっている


 県知事選挙から一年が経過し、僕は大学生となった。そして明日は市議会議員選挙の投票日。当然、今回の選挙でもゼロ票確認の権利を狙うつもりでいる。


 ちなみにゼロ票確認ガチ勢の戦いは投票日前から始まっている。戦いを円滑に進めるためには、やはり事前に色々な準備をしておかなければならないのだ。




 一つ目の準備項目は、各世帯に配布される紙媒体の選挙公報や選挙管理委員会のホームページなどで、投票する候補者や政党をあらかじめ決めておくということ。


 ゼロ票確認をする人は投票所で投票用紙に候補者名を書き、それを持って投票箱の前へ移動し、投票箱の中を確認する。その後、投票が開始されるという流れになっている。


 つまり候補者名を書くのに手間取っているといつまで経ってもゼロ票確認が行われず、皆様に投票を長らくお待たせしてしまう可能性がある。


 もちろん、その場で投票先を決めても問題ないし、書くのに手間取っても怒られるということはない。ただ、僕としてはやはりスムーズに投票をしたい。なによりこうしたタイムロスは『ゼロ票確認得点ポイント』の減点対象でもある。


 この『ゼロ票確認得点』というのはあくまでも僕の個人的な評価点であり、要するに自己満足度みたいなもの。投票所一番乗りをして完璧に任務をこなせば100点満点。二番手や三番手は相応に減点となり、さらに投票の際に手間取うとその項目数に応じて減点されていく。


 言うまでもないが、投票所へ行くのが遅れてゼロ票確認が出来なかったら0点となる。




 ゆえに最も重要なのはゼロ票確認が出来る先着三人に入ること。つまり前日の過ごし方も重要になるわけで、これがふたつ目の準備項目に関わってくる。


 何時に就寝し、何時に起きるか――。


 それはその時の疲労や気力の度合いによっても異なるし、場合によっては眠らず徹夜して過ごすという選択肢も出てくる。


 ただ、早く起きすぎたり徹夜したりすれば自宅を出発する時に眠気に襲われるかもしれないし、遅い時間に眠ったら寝坊してしまう可能性がある。このバランスが非常に難しい。


 もちろん、目覚まし時計などのアイテムを使用すれば多少は有利に進められるだろうが、時計のバッテリー切れなどアクシデントの発生がゼロとは限らない。そういう意味では日頃の行いや投票日の数日前からの体調にも気を配る必要があるだろう。


 いずれにしても、その時の状態によって柔軟に対応を変えられるように備えておくのが大切だ。




 そして三つ目の準備項目は、投票所入場券を忘れないように用意しておくということ。当日になって見当たらず、慌てふためいて出発が遅れては元も子もない。


 もっとも、もし入場券がなくても投票することは出来る。ただ、その場合は受付をするのに時間がかかり、皆様にご迷惑をおかけしてしまう。当然、このタイムロスも減点対象となる。




「……さて、投票する候補者は決まった。入場券や着替え、スニーカー、電撃文庫、マスク、ラスク、オベリスク、帽子、ツクツクボウシ、経口補水液、新橋駅、栄養補助食品、スマホ、日焼け止め、虫除けスプレー、簡易トイレ、おやつのバナナ、雨具、味噌汁の具、ハンバーグ――そのほか、必要な道具も揃った。また、現在の体調を考えると、快適な睡眠時間は六時間といったところか。では、目覚まし時計を午前五時にセットして眠ることにしよう」


 準備が整い愉悦に浸る僕はクククと喉の奥で微笑むと、部屋の照明を消してベッドへとダイブしたのだった。



(つづく……)


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