第8話 服を買いに

秋川先輩が居なくなった部屋の

隅々を不思議な気持ちで眺めた。


まだ、先輩の「存在の粉」が落ちている気がして

床をよく見る。


秋川先輩が着た私のワンピースが

脱ぎ捨てられたままだ。


このままにしておこう。


今日のことを思い出す。


図書館で

「ここに居るって言ってたから」

ってバイクに乗って来たこと。


私のワンピース着てたこと。


カルピスの話、、。


スマホを開き、

「夏に心拍数が夏になったリスト」を立ち上げる。


「図書館

派手すぎるバイク

ワンピース

カルピス」


と書いた。


明日は、買い物に行こう。

母に服や靴を買うお金をもらう。



*********************************

翌日。


電車に乗り、だいぶ遠くまで来た。

ここまで来れば知ってる子はいないだろう。


ショッピングモールを一人でうろつく。


まず、可愛い服を買おう。


服屋さんで大人っぽい服を選ぶ。

先輩が気を遣わないように、

チャラいチャラい感じにしたい。


夏!ギャル!って感じに。

スッとしたパンツ、

体のラインが綺麗に見えるノースリーブ。


意外といいじゃん!


安かった!


嬉しい。

サマーSALE最高!



帽子も買おう。


つばがバカでかい麦わら帽子をかぶってみた。

笑ってしまう。

「ちゃれぇ!笑」


派手すぎて自分じゃないみたい。

2800円。少し高いけど買う。


これで私もだいぶチャラくなっただろう。

言葉までチャラくなる。

チャラレベル4はいってる。


浮かれて来てる。


夏だから、

夏特有のヘアアクセサリーがキラキラしてる。

これも、買おう。


プラスチックの、透明のラメのワニクリップ、


キラキラが揺れるスティック。

髪をいじるのは得意だった。


「これはチャラくないな、、。」


このヘアアクセサリーは

真正の、純粋な夏、そのものだった。


この夏にしか、、光らないような。

純潔の色。


これだけはロマンチックだった。




やばい、ウキウキしてる。


サンダルも。

綺麗なキラキラがついてるやつを買う。


ギャルだ!

自信が湧いてくる!

私じゃないみたい!


化粧品も買おう。

「何かお探しですか?」と声をかけられ、

コスメカウンターに通される。


「基礎化粧とかしたいんですけど、、」


「はい。こちらがおすすめです。

ふきとり化粧水になるんですけど、

洗顔の後にコットンにとって拭き取ります。

その後は収斂化粧水で毛穴を引き締めです!

冷蔵庫の中に入れておくとさらに効果が、、

ウンタラカンタラ」


勧められた化粧品を買った。


コットンも買った。


帰りにワンデーのカラコンを2箱買った。


浮かれてる。

綺麗になって、可愛い服を着て、、


“また、先輩に誘われてもいつだって

出かけられる。


他意のない、ただのチャラい後輩として。”

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る