第5話 着信

雨宿りさせてもらった秋川先輩の家からの

帰り道。


夏の空気を胸いっぱい吸い込む。


驚いたことに、夏の空気だった。


今朝は、灰みたいな味のする空気だったのに。





家に着き、小腹が空いたのでカップ麺に湯を注ぐ。


3分待つ。





ー、ングラッチレション!コングラッチレイション、コング、。


「え、何の音?」

なんか鳴ってる。


しばらく耳を澄ませて、自分のスマホだと気づいた。

手帳型のケースを開いてみて青ざめる、


さっき、スマホを出して、

画面がついたままケースを閉じたのか、


それとも家に着いてから時空が歪んだのか



秋川先輩とのトーク画面に

DJ.koolの「コングラッチレイション」音付きスタンプが勝手に連打されている、、、


何個?

え、何個?



スクロールしてもスクロールしても

コングラッチレイション



、、。あ、わ、わ、わ、涙


ガタガタ震えてくる、、。


指でバナナに釘が打てるんじゃねぇか?

という程に凍りつく、、。



すると着信が入ったのでびっくりして

スマホを投げてしまった。


—秋川先輩だ。


「あわわわ、

ごめんなさい

ごめんなさい

ごめんなさい、、号泣」


「あやまりすぎだろ(笑)


おま、、(笑)


いきなり286件もメッセ入ってたぞ、

コングラッチレイション!


開けてずっとスタンプで

携帯壊れたんかと思ったわ!!!(笑)


嫌がらせか!」


「すみません、ほんとに涙

もうイヤ、ほんと涙

土下座したいです涙」


「ハッハッハ(笑)

大丈夫だよ。謝りすぎ!


そうだ、今度おまえんち行っていい?

あと誕生日と血液型と飼ってる犬の名前

早く送ってこいよ(笑)」


「分かりました。

ほんとごめんなさい。

誕生日は8/7です、A型。


あと、そう、犬は飼ってません。

あとうち、いつでもぜひ来てください。」


「誕生日もうすぐなんじゃん。

コングラッチレイション!


明日行ってもいいか?

あと、趣味と好きな花火教えて?」


「明日?!大丈夫ですよ!

趣味は読書です、好きな花火、、

線香花火、、かなあ。」


「読書?趣味読書なん?(笑)

そんな感じに見えねーけどな。


線香花火好きなんだ。

へぇ。線香花火かあ。。

いいな、線香花火。うん、いいな。


明日行くわ、おまえんち。」


「あ、はい(笑)

本、好きに見えないですか?

よく図書館にいます。

自分の人生の大半、図書館にいるんで、、」


「図書館って、あの、

あの図書館?!」


「はい」


「友達いないから?」



「ひどい!涙

いますよ、、気にしてるんですから。

これから増やします」


「おう、増やせよ。

普通に大丈夫だよ。


てかなんか

おまえ、寂しそうだった、、ぞ?


じゃ、明日な。」


「はい。」


「もう、嫌がらせのスタンプ10000連打とか

送ってくるなよ」


「はい(笑)」


電話を切った。


電話している間、

ずっと立ってウロウロ歩き回っていた。


歩き回っている間、

申し訳なさと

嬉しさと嬉しさと嬉しさと嬉しさで


どうしようもなく嬉しかった。


網戸から室内に入ってくる何か。

夏。


ああ、なんか今日夢みたいだな。涙


つーか!明日のために部屋を片付けなきゃ。


カップ麺は伸び切っていた。

顔が熱い。


何だろう。

ニヤニヤした顔が戻らない。


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