その10 作戦会議

「……あれを倒さなきゃいけないってことだよね?」


「そうだね」


「一応聞くけど、コノハの師匠でも倒せなかったんだよね?」


「うん」


「——あ! 他のスラーミンを捕まえれば良いんじゃないか?」


「あいつが強すぎて、ここら辺のスラーミンはみんな逃げちゃったみたいなんだよ」


 頭を抱えた。

 無理……だとは思いたくないけど。

 結構きついぞ、これ。


「……たぶん、不可能ってことはないと思う! 今は魔女が二人いるし! レノンも……レノンは……男の人もいるし!」


「……それはどうも」


 確かにこの状況で役に立てそうではないけどさ。

 魔法ばんざい。


「レノンはとてもしっかり者よ。魔法が使えないからこそ、何か思いつくかもしれない」


 ネフがフォローしてくれた。

 そして、とりあえず作戦を立ててみましょ、と言葉を続ける。


「まず、今まであいつ……あいつじゃ分かりにくいわね、ヒヨコとでも呼びましょうか」


「なんでヒヨコ?」


「こんな森の中にヒヨコはいないから間違えにくいし、何より恐怖感を減らせるからよ。続けるわね。今までヒヨコを倒せなかった理由をもう一度考えてみましょうか」


「うーん……なんかぼくがめっちゃ弱いやつみたいに聞こえる……」


 コノハのぼやきは流されて。

 かくして、スラーミンあらためヒヨコ討伐の作戦会議が始まった。

 まずは、さっきネフが言ってたように、今まで倒せなかった理由から。

 コノハの師匠は土属性で魔法薬専門だったから、直接攻撃する魔法は不得意。


「土属性は攻撃より創造に向いてる属性なのよ」


 土を圧縮して岩にして、それを撃ち出す魔法もあるにはあるけど、とネフが視線を向けると、コノハはうん、と頷いて。


「師匠には向いてなかったからね……試したことあるけど数メートルしか飛ばなかったよ。威力もアレだったし!」


「コノハの師匠には相性が悪かった、というのが理由ね」


 ネフがかりかり、鉛筆を走らせる。

 次、コノハが倒せなかった理由だが、これは昨日聞いている。

 間合いに入ってこないから、だったわよね? とネフが聞いて、そうそう、とコノハ。

 頭がいいのは厄介だよー! とため息をついた。


「……コノハはどういう風に倒そうとしたんだい?」


「んっとね、ちょっと開けたところに血まみれの肉を置いて、あらかじめまわりの木に岩を載せといたんだ。 もしあいつ──ヒヨコが肉に食いついたら、幹を動かして岩を落としてぺしゃんこ……のつもりだった」


「でも来なかったんだね?」


「うん。多分生きた動物じゃないから警戒されたのかも。ぼくでも怪しいと思うし」


「生きた動物を囮にはできないの?」


「それはオラングの掟を破っちゃうことになるんだ。囮にしたら死んじゃうでしょ? 食べるものと敵以外は殺しちゃだめ。これは師匠がオラングに守るって約束してるんだ」


 もちろんぼくも、とコノハが言う。

 例え食いついても、木属性魔法は発動までの時間も長いから、あまり上手くいきそうではないわね……、とネフ。

 ムッとしてコノハが言い返す。


「しかたないじゃんか、ぼくしか魔女いなかったんだし! 箒持ってないし!」


「ごめんなさい、そうよね──」


「ネフはあれだよ、思ったことそのまま言い過ぎだよ!」


「……そうね」


「それに光属性魔法は物理的に攻撃できないじゃないか、ネフでも手が出なかったはず——」


「ちょっといいか?」


 コノハは、ばっ、と。

 ネフはゆっくりと、僕を見た。


「ネフもコノハも、一人だけじゃ倒せないだろ。もちろん僕なんか論外だけどさ。だけど今まで聞いている感じだと、二人の魔法をうまく使えばなんとかなりそうだけど」


「ほんと? どっちもダメなところがあるのに? それも致命的に」


「ダメなところは補い合うものだよ」


「そっか。じゃあレノンの作戦はどんなの? 派手に、ぼくとネフで同時攻撃とか?」


 コノハの言葉に首を振って答える。

 いいや、とてもシンプルだよ。それにコノハのやった作戦と大筋は同じ。


「でもそれは、魔法の発動時間がネックなのよ? わたしが何かしたって、そこは変えられないわ」


「なら時間を稼げばいい。コノハの魔法が発動するまで、ネフの魔法で足止めすれば……」


「ヒヨコは魔法薬で強化されてるのよ? わたしの攻撃でなんとかなるとは——」


「何もダメージを与える必要はないよ。動くことを躊躇させればいいんだ。そこで——」


 僕はこの前、ネフが使った魔法を口に出す。

 あの魔法なら、牽制になるはず。


「確かにあれは……髪の毛の魔物にも効果あったわね」


「あー、その隙にぼくが岩を落とすなりぶん殴るなりすればいいってことか! なるほど!」


 コノハがうんうんと頷いて、でも囮はどうする? と質問する。

 それも、もちろん考えてあった。


「僕がやるさ」






(その11へつづく)

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