その10 張り切りすぎたわ

「──ごめんなさい、ちょっと疲れちゃった」


 腕の中で、ネフは弱々しく笑う。

 レノンもそんな顔するのね、いつも落ち着いてるのに。泣きそうじゃない。

 そうからかってくる魔女に、心臓に悪いよまったく、とか強がりを言って、僕は地面に腰を下ろした。

 正直、呪いでも食らったのかと思ったよ。いまだに心配と安心でぐちゃぐちゃだ。


「わたし、思ったより体力ないのね。知らなかったわ」


 夜空を見上げながら、ネフが呟く。


「──ごめん。僕がもう少し早く着けたらよかった」


「いいえ、これはわたしのミス。思えば、レノンが来てくれたから安心しちゃって、必要以上に魔力を使ったのよ」


 ネフはそう言うけれど、僕はさっき節電のためにスロットルを絞ったことを後悔していた。

 彼女がおっちょこちょいなのは分かっていたのに……!


「ネフ──」


「ねぇ、レノン」


 僕の言葉を遮って、ネフはガラス壺を指差す。


「あれ持って早く帰りましょ。ここで夜を明かす訳にはいかないわ」


「それはそうだけど、動いて大丈夫なの? 次は立ちくらみ程度じゃ済まないだろう」


「箒には乗れそうにないし、悪いのだけれど、あなたの後ろに載せてほしいわ。あんまり重くない……はず」


「君一人くらいなんともないよ!」


 ふふ、と微笑んだネフを抱えて、原っぱを歩く。重いどころか、ネフの体はとっても軽い。

 風つかみの後部ハッチを開けて、かちゃかちゃとベルトを締める。硬い背もたれに体を預けて、ネフはゆっくり口を開いた。


「けっこう、しっかりと固定するのね」


「飛んでる途中に落ちないようにね。結構揺れるから」


「そうなの。——まるで荷物になったみたい。箒とはずいぶん違うわ」


「そうかもしれないな。僕はあんなに気軽に飛ばせる箒が羨ましいよ──よし、出来た。きつくない?」


「ええ、ちょうどいいと思うわ。ありがとう」


 それを聞いてから、がこ、とハッチを閉めた。ガラス壺(髪入り)とネフの箒は貨物室へ。ここのハッチもしっかりロック。

 操縦席に座って、僕もベルトを締める。周囲に障害なし。計器類、問題なし。手足を動かして後方確認。三舵とも大丈夫。


「それじゃ出発するよ。──ネフ?」


 振り返ると、ネフは静かに寝息をたてていた。そうだよね。今回一番の功労者だもの。


「ありがとう。……おやすみ」


 モーターが静かに回り始める。だんだんと、風が生まれる。

 帰りは安全運転でいこう。

 君がゆっくりと眠れるように。





(その11へつづく)

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