その2 お金を稼ごう

「ベロイカまでの輸送 十ペナ」

「お部屋のお掃除 十ガネート」

「話し相手 五ガネート」——。

 ネフと一緒に、良さそうな仕事を探す。

 二人で三日くらい滞在すると考えれば、だいたい三十ペナくらいあれば足りるかな。


「レノン、これどうかしら」


 掲示板の反対側を見ていたネフが、薄汚れた紙を振っていた。

 そこには、「新感覚ドリンクの試飲 一杯ごとに五ペナ」という文字が掠れ気味に踊っている。


「ドリンク飲むだけで五ペナよ!? しかも飲めば飲むほど貰えるらしいわ! これにしましょう!」


「待って待って」


 いくらなんでも怪しすぎる! 僕の心がやめろやめろと警鐘を鳴らす。

 こういう、明らかに内容と報酬が釣り合ってない依頼は受けるとろくなことがない。多分ドリンクとやらは危ない薬かなにかだろうし。

 それをネフに説明すると、勉強になったわ、って頷いていた。

 うん、こういう経験も大事だよね。旅人はみんな、そうやって一人前になっていく。

 再び掲示板に目を戻すと、ちょうど視線の先に良さそうな依頼があった。

 料理三日分、二十五ペナ。これ、初日にシチューとかの長持ちする料理を作れば楽にこなせそうでは? 五ペナ足りないけど、それくらいは他の依頼で稼げるだろうし。


「ネフ、これはどう──」


「こっちはどうかしら」


 ──ほくほく顔で三枚くらい持ってくるネフ。もし彼女にしっぽがあったら、ぶんぶん振っているのが容易に思い浮かぶ、そんな感じだった。

 どれどれ、と読んでみると——。


「機械の点検 五十ペナ ただし壊したら修理費と迷惑料を頂きます」

「人体切断マジックの助手 今だけ報酬百ペナ!」


 ぜんぜん勉強してないねぇ! 一枚目は最初から壊してある系の詐欺だし、二枚目なんて命が危ない!


「だけど、妥当な報酬じゃない?」


「そうかもだけど、そう言うことじゃないんだよ……」


 二枚ともアレな内容だったので期待はしないけど、最後の一枚も見てみる。


「それはあんまりなやつよ。報酬がいいから持ってきたけど」


 ……さらに期待値が下がった。


「えーと、笑うことができない娘を笑顔にしてほしい。三十ペナ?」


「これまでのと比べるとなんか地味よね」


 いや、今までの中で一番ましだよ!

 はー、とため息をつくネフに、僕は小さく突っ込んだ。





「確認するわ。まず、三日以内に依頼をこなす。その間の空いた時間で、わたしの影を盗んだ魔女の痕跡を見つける。それでいいわよね?」


「ああ。でも両方とも三日でこなすって結構大変だよな」


「やるしかないわ。……お金ないし」


「……そうだね」


 依頼の紙に書いてあった住所は、街の中心部から少し外れたところにあった。

 通りにある家は、どれもほとんど変わらない。念の為、表札をもう一度見てからベルを鳴らした。

 くぐもった響きが聞こえて、僕たちはちょっぴり姿勢を正す。

 うん、とひとつ、頷き合った。





(その3へつづく)

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