第23話  捜査方針






 亜美さんは自分の携帯端末を操作して、何かの画像を見せてくれた。それはどうやら監視衛星のカメラの映像らしく、そこには黒いフードを被った人物が誘拐した若い女性を連れ、とある山奥の採掘場の横穴に入っていく姿が映っていた。


 それを見た俺は、亜美さんに質問する。


「こんな映像、どうやって手に入れたんですか?」


 俺の疑問に亜美さんはこう答えた。

 これは前回誘拐事件が起きた時の映像だそうで、亜美さんは傾向から次も隣町で起きると予測して監視衛星で見張っていたらしい。


 そして、その予測は見事に当たり犯行の一部始終と、アジトの場所を特定したのだそうだ。

 因みに追跡は、ステルス型ドローン追跡カメラで行ったそうだ。


「どうして、それを黙っていたんですか!?」

「そうですよ! 早く被害者を助けないと!」


 俺と悠が詰め寄るように亜美さんに問い質すと、亜美さんは気まずそうな表情でこう言い返してくる。


「だって…… 私と月夜様と照世様は規定で介入できないから、悠ちゃんと智也君だけで対処しなければいけないのよ? 危ないじゃない!」


 確かに、【特別保安官】になったばかりの俺と悠だけでは、どうしようも無かったかもしれない。


「それでも、被害者の事を考えれば― 」

「無理に決まっているじゃない! ミイラ取りがミイラになっちゃうわよ!」


 俺の言葉を遮るように亜美さんはそう言うとヒートアップして、更に理由を話し続けた。


「悠ちゃんはともかく… 智也君! 君が問題だからね!? 訓練もまだまだだし、エロ本すら直接購入できないチキン(ハート)のクセに、偉そうな事を言うんじゃないわよ!」


「エロ本の話は、今は関係ないでしょうがっ!?」


 俺は亜美さんの失礼な物言いに抗議するが、カズマさんが止めに入る。


「まあまあ、落ち着いてくれ二人共。話が脱線しているぞ」


 そして、カズマさんは真剣な顔で、今後の方針を話し始めた。


「とりあえず、アジトを発見したことを上司(月夜)に報告して、それに伴う今後の操作方針に変更があるのか確認しよう」


 カズマさんの指示に従い亜美さんが月夜様への報告をすると、月夜様からはカズマさんに一任すると返ってくる。


「データによると最初の犯行が行われてから、奴らの宇宙船が飛び立った形跡が無いから、まだ誘拐された人たちは、あのアジトに監禁されているはずだ」


 そう言ってカズマさんは、俺達にアジトの位置と監視衛星の映像を確認するように指示を出す。


 俺は映像を見ながら、あることに気付いてそれを口にする。そう例の黒い青年と女性が映っていないことだ。


「あの黒い男の人と女性は映っていませんね。誘拐事件とは関係がないのか……」

「黒い男と女性? それは何の事だい? 貰った捜査資料には記載されていないが?」


 俺がそう呟くと、カズマさんは手持ちの端末を操作して、資料に目を通しながら尋ねてくる。


「亜美さん…… 」


 その理由にピンときた悠は、ジト目で亜美さんを見ながら問い質すように、一言名前だけを呟く。


「悠ちゃん、何よその目は!? 私が記載ミスしたと言いたいの!?」


 すると、その呟きの意味を察した亜美さんは、悠に対して反論を始める。

 まあ、日頃の亜美さんを間近で見ている悠なら、そう思っても仕方がない。自業自得である。


「違うんですか?」


「違うわよ! ちゃんと報告書に書いたわよ! 漏れがあったら、月夜様に怒られるんだから!!」


 俺の質問に対し亜美さんはそう言い切ったが、理由は情けないモノであった。

 カズマさんの要請で、亜美さんはこの前本屋の防犯カメラから入手した男性の映像を見せようとするが、データは綺麗サッパリ消えていた。


「亜美さん…… 」


「違うわよ! 私は消してないから!! 悠ちゃんは私のことをダメなお姉さんだと思ってない!?」


 悠に対して、必死の弁明をする亜美さんに、俺は一言呟く。


「事実では?」

「うるさいわよ! 自分だって、エロ本も碌に買えないダメ男のくせに!!」

「ちょっと待った! その気になれば、エロ本ぐらい買えるから!」


 俺は亜美さんの言葉に抗議する。そして、再びカズマさんに窘められる俺たち。

 亜美さんには、データが消えた理由に心当たりがあるらしい。


「資料と映像データが消去されていたのは、恐らく彼らに掛けられている秘匿レベルのためだと思うわ」


 カズマさんに上から3番目のアクセス権限でも、データを閲覧出来なかったことを説明する亜美さん。


「なるほど… 逆さ十字の黒いコートに666の数字か…… ん? その特徴… どこかで、見たことがあるな……」


 カズマさんは、何かを思い出したかのようにブツブツと考え始める。

 だが、思い出せなかったようで、話を操作の方法に切り替えた。


「まあ、今回の件には関係ないようだから、その話は置いておこう。まずはアジトへの突入方法だが… 」


「待ってください! その前に、ちょっと良いですか?」


 亜美さんは急に声を上げると俺と悠の方を見てから、カズマさんに問いかける。


「この子達を連れて行くんですか?」


 亜美さんがそう言うとカズマさんは、俺達の方を見ながらこう答えた。

 どうやら、心配してくれているようだ。


「彼らが今後【特別保安官】を続けるつもりなら、実戦は経験しておいたほうが良いと思うが……。まあ、俺とノーマだけでも大丈夫だから、イーオケアイラ(亜美)警部と一緒にここで待機でも俺たちは構わない。来るか来ないかは、二人が決めるといい」


 そんなカズマさんの言葉を聞いた俺は悠の顔を見る。

 すると、彼女は微笑みながら頷く。


「俺達も行きます!」


 俺たちはカズマさんに同行する事を伝えた。

 亜美さんは俺達の答えを聞くと、複雑な表情を浮かべる。


 それは、危険への不安とそれでも特別保安官としての責務と正義感から、俺達がアジトへ犯人逮捕に行くことを選んだ嬉しさが入り混じった、何とも言えないものだった。



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再会した幼馴染が何か色々と化わっていて事件です 土岡太郎 @teroro

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