&Happy Birthday

1103教室最後尾左端

& Happy Birthday

「誕生日って、少し苦手なんだよね」


「今日それ言うかね」


「昔からそうなの。ちっちゃいときから急にその日になると皆が優しくなるの不気味だなって思ってたし」


「ちっちゃいころから感受性豊かだったのね。でも、欲しいモノ買ってもらえたり、仲いい人から祝ってもらえるのって嬉しくない?」


「それはまあ嬉しいけど……」


「けど?」


「なんか、色々考えちゃうんだよね。気をつかわせちゃって申し訳ないな、とか、自分がちゃんと喜んでること伝わってるかな、とか。だからちょっと気疲れするというか」


「あー。ちょっとわかるかもしれない」


「ほんと? 伝わるとは思わなかった」


「でも、それならよかったじゃん」


「なにが?」


「誕生日。8月8日って夏休み真っただ中でしょ。そんなに祝われなさそう」


「そうね。中高生のときは仲のいい子とかがちょろっとメッセージくれるくらいで、淡々と過ぎていくことが多かった気がする。卒業してからも割とそんな感じ」


「いいじゃない。気楽で」


「うん……まあ……」


「……? なによ。ちょっと不服そうに」


「その、ね。なんていうか……」


「うん」


「何にもなさすぎるのも、普通に寂しい」


「……めんどくさ!」


「いわないで! 自覚はあるの! そういうめんどくさい自分を否応なしに自覚させられるから誕生日って苦手なの!」


「あらら。なんかアンハッピーバースデーだね」


「わかってもらえる?」


「……実はね。私もちょっとだけ誕生日苦手」


「そうなの?」


「うん。どっちかというと祝う側が」


「祝う側?」


「そうそう。せっかくの誕生日だから祝ってあげたいなーって思うんだけど、なにしたらいいかわかんなくてさ。プレゼントとか選んでると『こんなの欲しくないんじゃないかな』とか『もらって迷惑だったらどうしよう』とか考えちゃうわけよ」


「なるほど」


「かといって欲しいモノ聞くのもなんか興ざめ? な感じもするし。自分で選んだもので喜んで欲しいっていう謎の願望もあるし」


「いい子じゃん」


「そうやってめちゃくちゃ悩んでようやく決めたプレゼント渡した後も心配になるんだよ。嬉しいっていってるけど無理してないかなとか、使いたくもないのに押し付けられたって迷惑してないかなとか」


「いやいや、心がこもってれば相手はなんでも嬉しいんじゃない?」


「でも友達だったら嬉しくなくても絶対『嬉しい!』とか『ずっと欲しかった!』とか反応するでしょ。本心かどうかなんてわかんなくない?」


「うーん。まあたしかに」


「『これでよかったのかな……』っていう答えのない問いに、しばらく苦しめられることになるんだよ。だからちょっと苦手」


「……あのさ」


「ん?」


「祝う側も祝われる側も不幸になるんだったら、誕生日なんて風習、やめたほうがよくない?」


「……すごいこといいだすね」


「自分でもびっくりしてる」


「でも、なくなるとなくなるでつまんなくない? 誕生日」


「そりゃ、急になくなったらね」


「イベントごとって大体そうだよね。文化祭とか定期テストとかも。あったらめんどくさかったりするけど、ないとちょっと寂しい」


「その二つならべないでよ。全然違うし」


「そう? どれも頼んでもないのにやってきて、それに合わせて楽しんだりへこんだり悩んだりしてるじゃん」


「……まあ、そうか」


「そ。関わり方は自由でしょ。誕生日だからって無理に幸せになる必要もないし」


「たしかに、そういうもんかもね」


「そうそう」


「……ところでさ」


「うん?」


「その紙袋ってさ、もしかして」


「……私、結構選ぶの悩んだし、渡した後も悶々とすることは分かってる。でも祝う私だけ不幸なのってバランス悪いよね」


「じゃあ、やっぱり……!」


「あんたも不幸になれ」


 Unhappy Birthday!


 妙に流暢にそういった彼女は、言葉とは真逆の顔をしていた。

 多分、私も同じ顔をしていただろう。

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