我儘・傲慢な王子を改心させようと思いましたがうまくいかなかったようです

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 私は、婚約者である王子を見つめる。


「酒がまずい。誰だこんな酒をよこしたのは!」


 ベッドの上に寝そべりながら、食べ物をたいらげ、飲み物をのむぐうたらな王子を。


 王はこんな風ではない。


 この王子の父親である王は、もっとしっかりしている。


 なのになぜ、こんな息子になってしまったのだろう。


 私は不思議でたまらなかった。


 ともあれ、いつまでも立ち尽くしているわけにはいかない。


 私は、目の前の王子へ話しかけた。


「そういうわけなので、婚約を結んだ証に、パーティーを催す予定ですが、何かありますでしょうか」


 話しかけられた王子は、邪魔くさそうな視線で私を見つめる。


「知らん、そっちで勝手にやってろ! 俺はそういう面倒な事が大嫌いなんだ」

「分かりました」


 表情が歪みそうになるのをこらえて退室。


 部屋を出てから、こっそり小さなため息を吐いた。






 この国の王は、息子を溺愛しすぎている。


 その結果がこれだ。


 ぐうたらで我儘すぎて、人前にでてこないが、それが幸いであった。


 恥をさらすのは身内だけにとどまっているのだから。


 今の所は。







 私は、国への忠誠心で、結婚相手を決めた。


 相手はこの国の王子だ。


 いずれは国を治める存在。


 そんな人を支えられるのは、普通は名誉な事だ。


 けれど、実際はそうはならない。


 この国の王子は我儘で傲慢な王子だからだ。


 そんな王子は生まれた時は生命力が弱くて、すぐに死んでしまいそうだったらしい。


 王子の命と引き換えに、母である妃が亡くなったため、その時の出産は想像できないくらい過酷なものだったのだろう。


 しかしだからこそ。


 そんな事があったからなのか、王は王子を溺愛している。


 せっかく生き延びた愛しい子供だからと、目に入れても痛くないといわんばかりに可愛がり、なんでも好きにさせるようになってしまった。


 それが一年、二年、十何年も続き、溺愛は加速。


 その行動を誰も止める者がいなかった結果、立派な我儘・傲慢王子が出来上がってしまったのだ。


 こうなる前に誰かが諫める事ができればよかったのだが。


 王子を甘やかす王は、王子を否定するような人間を許さなかった。


 王子を叱った者や、王子の行動に意見する人間は、姿を消していってしまう。







 このままではこの国はだめになる。


 王子が王になる前になんとか改心してもらわなければ。


 それができなかった場合は……。


 今は考えたくなかった。


 他の者に王になってもらうしかない。


 国への忠誠心はあるけれど、それは聡明な今の王あってのもの(息子を溺愛しすぎるというただ一つの欠点はあるが)。


 愚王が納める国になったならば、忠誠などなくなってしまう。


 とりあえず、何もせずにいるわけにはいかないので、我儘・傲慢王子に改心してもらうために、様々な策を練ってみた。







 というわけでまずは、王子の教師に多額のお金を積んで、スパルタ教育者になってもらう事にした。


 周囲が甘やかすからいけない。


 一人も厳しい事を言う者がいないからいけないのだと、そう思って、王子にマナーやらしきたりやら歴史やらを教えている教師に厳しくなってもらう事にした。


 教師は始めは、王子の権力をおそれて抵抗していた。


「私にはそんな事はできません、王に叱られてしまいます」


 と言うばかりだった。


 しかし私は必死に教師を説得。


 王子や王の手によって牢屋に入れられる事になってもかならず助ける、とそう約束したため、しぶしぶ厳しくしてくれるようになった。


 しかし王子の性格は筋金入りだった。


「なぜ俺は人との言う通りに行動せねばならんのだ。なまいきな教師めが!」


 まったく改心する事なく、逆に教師に手を上げる始末、挙句の果てには気に入らないと言ってクビにしてしまった。


 牢屋にいられる事はなかったが、私は退職後の教師の生活のために、多額のお金を払う事になった。


 王子を放置していたのは教師の責任だが、権力をもった人間は誰でも怖いもの。


 私の提案のせいで牢屋に入れられる危険もあったのだから、それくらいはフォローしておいた。








 次に行ったのは、他国の王子をこの国に招く事だった。


 他の国の王子と自分を比較して、改心してくれればと思った。


 だから自分の縁を活用して、信用できる他国の王子に訳を話した。


 その王子はできた人間だったため、快く私の提案に頷いてくれた。


「友人である君の役に立てるなら、なによりだ。それに多くの人々のためにもなるしね」


 そういうわけで、三日ほどかけてよその国から王子がやってきた。


 とうぜん以前から知っていた事だが、その王子は、この国の王子とはまるで違った。


 傲慢な事は言わず、謙虚な姿勢で礼儀を持って他の人に接する。


 彼の周りで、身分の低い者が何か失敗した時でも、怒鳴りつける事はせず、心配までしていた。


 なんて人格者なのだろう。


 これを見れば、この国の王子も自分の態度を改めてくれるはず。


 そう思ったが。


「気に食わない王子だな。他人なんかに優しくして何になるって言うんだ」


 この国の王子は、そんな感想しかもてなかったようだ。


 失敗だ。








 こうなったら、身一つにして貧民街に放り込むしかない。


 過酷な環境にさらされた人間は、驚くほど価値観が変わる事があるという。


 だから私は、苦労して王子を外に連れ出した。

 それから、お金をつかませてならず者に変装させた兵士に出会わせる事にした。


「この国のためと思って協力してください。罪をかぶらないように、私がなんとかします」

「顔をあげてください。あなたの想いは十分に分かりました、喜んで汚れ仕事を引き受けましょう」


 兵士の説得は成功。


 私の策に協力してくれる事にした。


 だから私は計画通り、王子を外に連れ出して、あらかじめ指定しておいた場所へ誘導。


 そこで、王子を一人にした。


 そこにやってきたならず者。


 彼等に襲われた王子は、身ぐるみをはがされて貧民街へ放置された。


 めったに外に出た事のない王子は、どうやって帰ればいいのか分からないし、どうすれば状況を良くできるのか分からない。


「くそっ、なんで俺がこんな目にあわなくちゃいけない!」


 私や兵士は、食べるものに困り、寒さに凍える王子を遠くから見守った。


 ここで、自分の行動を反省して、謙虚になってくれればよかったのだが。


 しかし、王子は自身の状況に憤慨するばかりで全く変わらなかった。


 私は仕方なく王子の改心を諦めた。


 どうやっても王子は変わらない。


 そう結論付けたのだ。







 やがて王子は王となり、国を統治する側になった。


 しかし、何一つ苦労する事なく育った王子がまともに統治できるわけがない。


 国はすぐに荒れ果てていった。


 私は何度か王となったかつての王子へ、厳しい言葉を投げつけたが、彼は聞く耳をもたなかった。


 やがて国民達の生活が回らなくなり、倒れる者達が続出した。


 だから私は仕方なく、国へ反旗を翻す者達に協力し、王子を討った。


 王子の横暴を見過ごしていた王も同様にだ。


 新しい国では、善良な王が王位について、国を統治するだろう。


 私は目の前で、処刑台に連れていかれる王子をみて、どうしてこうなってしまったのかと思った。


 王子は集まった民達へ怒鳴り散らしていた。


 自分が悪いとはみじんも思っていないようだ。


「この裏切り者共めが、誰が今までお前達を導いてやったと思っている! 俺はこの国で一番偉い王だぞ!」

 

 諦めた様子で静かに罰せられる先々代の王とは違って、もはや先代となってしまったそ愚王はよく喋った。


「婚約者、お前もだ。王の妻となる者なら、なぜ助けない。俺の妻でいる以上の名誉がこの世にあるというのか! 今すぐ俺を助けろ! なんのための妻だ! 俺を支えて助ける為の妻だろうが!」


 私は首をふって、彼に一言だけ答えた。


「私は貴方の為ではなく、国のために行動します。あなたでは国も民も、それどころは人間一人すら幸せにできないでしょうから。あなたの事などもう何も知りません。来世ではもっと良い人間に生まれ変わる事を願っていますよ」


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我儘・傲慢な王子を改心させようと思いましたがうまくいかなかったようです 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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