003

 高天原学園生徒会の権力は強い。

 生徒の自治自立を標榜していることもあり教師側も生徒会を重視している。

 そして学内イベントはすべて生徒会が取り仕切っているのだ。

 そのイベントが2か月に1度行われるだけあって活動頻度も高い。

 この入学式直後の部活動紹介もそのひとつ。



「諸君! 高天原学園は具現化リアライズを叩き上げる学校だ! これから紹介する部活動はすべて。そう、すべてがその為の活動になる! この学園での学びの大半は部活動にあると言っても過言ではない!」



 講堂の壇上で熱弁を振るうのは、現生徒会副会長。新入生への心構えを説いているところだ。



「だが1年生は自分の具現化能力をまだ知らない。6月に指導があるまで知りようがないのだ」



 そう6月にある具現化覚醒という特別授業イベントまで自分の具現化能力を知ることはできない。レオンのような例外を除いて。



「でも安心してほしい! 高天原学園の部活動はそこまでが仮所属のお試し期間だ! どのような活動があるのかを2か月かけてじっくり検討できる! 皆が自身の具現化能力を把握したとき、本所属の申請をしてもらうことになる!」



 これもゲームのとおり。

 この期間に色々な部活動をパートナーと一緒に見て回るのが通例だ。

 AVG的にはキャラ別パートではなく共通パートとなる。

 主人公の具現化能力はキャラごとに固定。

 俺はもちろん主人公たちの能力を把握している。



「そしてもうひとつ! 仮所属の間はその部活動で必要な基礎訓練の指導が中心となる! 例えば魔法を使うなら瞑想などの精神的訓練を、武器を使うなら筋トレなどの身体的訓練を、という具合だ! 決して無駄にはならない! 同輩に出遅れぬためにも、興味のある活動に早めに所属することをお勧めする!」



 ここもゲームと同じだ。

 この期間に基礎訓練を積んで最初のステータスアップに励む。

 言葉通り早めに所属先を決めて得意分野を育てたほうが攻略が楽になるのだ。


 俺は自分の具現化能力が不明なので、魔法訓練を中心にしようと思った。

 だって武器なんて使い方を知らないし。

 レオンの剣やさくらさんの弓みたいに事前に訓練してないと使いこなせる気がしない。

 魔力オーラ出てるくらいだから魔法特化一択じゃないかな。

 正直、転移4年目にしてようやくファンタジー要素が自分で扱えるのが楽しみで仕方がない。



 ◇



 壇上では立ち替わり入れ替わり、部活動が紹介されていく。

 一般のスポーツのような部活動はない。

 そりゃ敵を倒すRPGでスポーツなんてやるわけがないから。

 具現化を鍛えるための戦うための部活動ばかりだ。

 武器で言うなら剣が刀、剣、刺突剣に分かれており、他に槍と斧、弓、銃、棒術、徒手空拳などがある。

 魔法は属性別。火、水、風、土の4属性で、それぞれ攻撃系か補助系かに分かれる。

 部活動というより訓練所だろ、というツッコミは無しで。


 ところで武器を扱う場合でも自身の魔力属性が物を言う。

 例えばレオンは火属性で大剣カリバーンに炎を纏わせて攻撃したりする。

 そういや今更だけど主人公連中に魔法特化って居ねぇな。

 何人かのサブキャラには魔法特化キャラが居たけど、やはり武器が華ってことか。

 カットインも武器による攻撃が中心だったし。



「武はどれを考えている?」


「ノープラン。魔法系で基礎訓練したいかな」


「俺と剣はどうだ?」


「遠慮しとく。武器が扱える予感がしねぇ」


「そうか。気が変わったらいつでも来い」



 レオンとの会話。

 さすがに部活動は自分の得意なところを選ぶようだ。

 主人公がNPCの場合、仮所属期間からそれぞれ得意武器のところを選択していたからな。

 彼らは自然とそう思うのだろう。


 それはそれとして、俺の座席の周りに相変わらず主人公6人が揃ってるのはどういうこと?

 お前ら俺以外にも友達作らねぇの?

 ここにいる主人公同士が絡んでくれたほうが攻略的には助かるんだけどさ。



「武さん、わたしと弓はどうですか?」


「武様、わたくしとエストックはいかが?」


「ソフィアさん、わたしが先にお誘いしています」


「あら。わたくしの方が先でしてよ」


「だから武器は使えねぇんだって・・・」



 さくらさんとソフィア嬢がにこやかに勧誘してくる。

 というかお互いに火花散ってますね、既に。

 君たち俺をダシにして喧嘩してるんじゃないよね?

 誰かを争って対立するルートなんてなかったと思うんだけど。

 さくらさんはともかく、何でソフィア嬢までそうなってんだよ。



「刀の部活動があるのは驚きました」


「結弦は流派あるもんな」


「はい。昔から居合を習っていますので」


「居合か。俺、見たことねぇんだよな。今度、練習してるとこ見せてくれ」


「良いですよ。仮所属期間なら出入りも自由でしょうから見に来てください」


「あんがと。そうさせてもらうよ」



 俺は平凡な一般人で特にスポーツをやってたわけじゃない。

 居合どころか真剣を取り扱うのでさえ見たこともない。

 巻き藁をシュパッて真っ二つにするのって見たいじゃん?

 中学でさくらさんの弓も感動したくらいなんだしさ。



「タケシ、あたしは槍術をやる。一緒に来るのよ」


「だから武器は無理って言ってんだろ」


「やる前から言うな。あたしが教えてやる」


「ジャンヌ、武の意思を尊重してやれ。武のやる気があるなら俺が教えている」


「チッ、一度くらい見に来なさいよ」


「ああ、わかったよ。折をみて見学には行く」



 レオンに制され、これで妥協してやると不機嫌そうな表情で俺を睨むジャンヌ。

 何故か約束を取り付けられる俺。

 プレイヤーとして操作してればこのくらい積極的なのは分かるんだけどさ。

 全員が全員、好き放題に動いているようにしか見えねぇんだよ。

 攻略ノート、本格的に役に立たねぇんじゃねぇか?



「僕、どうしよう・・・」



 あれ?

 リアム君が迷っている。

 迷ってるシーンなんてあったか?

 こいつは銃のところへ行くはずなんだが。



「適当に見て回れば良いんじゃねぇか? お試しなんだしピンと来るもんがあるだろ」


「だって、ちょっと怖い」



 お前は何をそんなに怖がってんだよ!

 先輩に喰われる場所じゃねぇから!

 NPCの時はもう少し芯があった気がすんだが。

 プレイヤーが操作するとやる気ショタ風で攻略するから、ある意味斬新だったのに。



「はぁ。なら一緒に回るか? 時間をあまり無駄にしねぇほうがいい」


「本当!? ありがと、武くん!」


「!?」



 そこでどうして腕に抱き着いてるんですかね!?

 そっちに積極的なのは止めていただきたい。

 そして気持ち悪い、ではなく・・・何故かどきりとした自分に驚く。

 ちょっと待て。俺はノンケの筈だぞ!?

 ソフィア嬢とさくらさんが羨ましそうな表情をしてるし。


 違うから!!

 俺はまだ男色は難しいんだよ!

 べりべりとリアム君を引き剥がしておく。

 レオンか結弦に懐いてくれよ・・・。


 そもそも、なんで既に俺が攻略対象にされてんのか理解に苦しむ。

 軌道修正は早めにしたい。

 魔王攻略のためにリアム君には早く銃の訓練を開始して欲しいのよ。

 こいつ、非力で他の武器も使えねぇし、唯一得意になる銃もイチから始めるから時間かかんだよな。

 明日、さっさと連れて行こう。



「明日からな。ほら、必要な部活の資料データも貰ったろ。今日はこれで解散だ」



 ◇



 部活動の紹介が終わると俺たち新入生は寮へ戻った。

 生徒数が1,000人を超えるだけあり、高天原学園の寮はかなり大きい。

 食堂や風呂だけでなく、ラウンジや自習室、電子情報室を始め相当な設備が揃っている。

 それも優秀な生徒を育成するために必要だと考えているからだろう。


 食事は朝昼晩ともに寮で提供される。

 それぞれ6時、12時、18時を中心に前後2時間まで注文ができる。

 自動調理機だけでなく、日替わり定食などは手作りコーナーまであるのだ。

 それ以外の時間は無人だがお茶などできるので喫茶店代わりにも使うことができる。

 それらがすべて無料なのだ。学生でここまで待遇が良いなんて、まさに至れり尽くせりだ。


 俺は自室でひといきついてから、さくらさんと待ち合わせの時間に部屋を出た。

 入学前に「時間が合うときは一緒に食べよう」って約束したからだ。

 今日の夜は考え事もしたいので、ちょっと早めの17時半。

 待ち合わせ場所は食堂の入口。



「武様、お待ちしておりましたわ」



 そこでどうしてソフィア嬢が待ってんの!!

 にこやかなお嬢様の後ろに複雑な表情をしているさくらさんの姿がある。



「さくら様がこちらでお待ちになっておりましたので、わたくしもご一緒させていただこうかと」



 ああ、あの「妻です」宣言の影響だな。

 そりゃあんなこと言えば彼女が待ってるのは俺だってすぐ分かるよな。

 だがソフィア嬢。今はお前と親睦を深める気はない。



「ごめんさくらさん。待たせたね」


「いえ。その、武さんはソフィアさんがご一緒でも?」



 俺はスルーしてさくらさんに話しかける。

 ソフィア嬢は済ました顔のまま気にしていない。

 さくらさんが暗に「この人、邪魔です!」って目で訴えている。

 待ってくれてたのを邪険にするのもアレなんだが。

 あんまし甘くするとさくらさんみたいに取り返しがつかなくなるからな。



「ごめんソフィア。今日はさくらさんと食べようと思って」


「あらあら。お邪魔虫でしたのね。分かりましたわ、またいずれ。今日は失礼いたしますわ」



 ソフィア嬢は丁寧なお辞儀をして食堂へ入って行った。

 表情が崩れることもなく余裕の微笑みだった。



「よろしかったのですか?」


「ああ。どうせ嫌でも絡むことになりそうだし」



 俺が人を邪険に扱うのを見るのが珍しいのかさくらさんが心配している。

 いやね、あの様子だとほっといてもまた絡んでくるだろ。

 後か先かという違いだけだ。



「じゃ、食べようか」


「はい!」



 ようやくふたりになったのが嬉しいのかにこやかに返事をするさくらさん。

 今日1日、ずっと彼らが一緒だったしな。

 俺もイレギュラーでお腹いっぱいだよ。

 俺は日替わり定食の生姜焼きを、さくらさんは安定のパスタを手に適当な席に座った。



「ところでさ」


「はい」


「その、俺の魔力が見えるってのはいつ頃から?」


「ええと。学校に復帰されてからです」


「病院では見えなかった?」


「はい」



 うん。大事な情報。

 心身ともに健康でないと湧き出るほどにならない、と確認できる。

 ゲーム中はステータス画面とかで確認できるけど、こうやって現実になるとそうはいかん。

 よくラノベだと「ステータス」とか言って確認できる話もあるけどさ。

 結局、理解する側がアナログなんだから感覚的に覚えるほうがいい。

 さくらさんとは病院で起きた直後だけ会ってるから、あのくらい体力が落ちてる時は魔力も弱いわけだ。

 こういう細かいことが大事だよね。



「あ、うまい」


「美味しいですよね」



 お昼も思ったけど桜坂の食堂よりも美味しい。

 俺は日替わりなので手作りだから、あの調理師さんたちの腕が良いということだろう。

 さくらさんのパスタは自動調理機だけど、材料か機械の性能か違うんだろうな。



「なぁ、もうひとつ聞いてもいいか?」


「はい」


「さくらさんはどうして高天原へ入ろうと思ったんだ?」



 これは聞いてみたかった。

 彼女を主人公にすると何度か理由に触れることになるのだが、現時点でそれが変わったりしていないかを確認したい。

 前に俺と別の学校へ行っても良いと言っていたくらいだから。



「・・・ふふ」


「どうしたの?」


「いえ。改めて考えてみて不思議なものだと可笑しくなりまして」



 珍しい、彼女の自嘲のような笑い方。

 でもネガティブな感じはしない。



「前にお話しましたとおり、わたしは親や先生の言うとおりの生き方をしていました」


「うん」


「この高天原学園を選んだのも、当初はわたしの魔力適合値を親が持て囃し周囲に勧められたことがきっかけでしたから」


「うん」



 生まれつきのAR値を親が自慢して国に目をつけられたと。このへんはゲームと同じ。



「桜坂中学でわたしは武さんや橘先輩に、自ら選び取る強さを教えていただきました」


「うん」


「そして自分で選んだ結果、ここに居るわけです。結局、親の言う通りになってしまったところが可笑しかったのです」


「なるほど」


「ここ高天原学園には、心身共により鍛えて選び取るために強くなるという目標と・・・武さん、貴方が進む道がありましたから」


「ん・・・」



 にこりと破顔し、その銀色の瞳に俺を湛えていた。

 改めて言われるとこそばゆい、というか照れる。

 ちょっと赤くなってる自覚ある。恥ずかしい。


 しかし。

 やっぱ完全攻略済みですか。距離感ゼロ。

 進学理由も半分は俺だよ。

 これ、他の主人公とくっつけて共鳴させられんの?

 少なくとも覚醒するまで俺と共鳴させないようにしないと。

 油断したら前みたいに攻略されて今度こそ引き返せなくなる。



「ん、話してくれてありがと」


「ふふふ」


「どした?」


「いえ。武さんが照れていらっしゃるのも素敵だな、と」


「!?」



 ぐぁ!? その花が咲いたような笑顔!!

 やばい、ドキッてしたよ!?

 そんな愛おしそうな目で見ないで!!

 今度は背筋がぞくってしたよ!

 これ、照れなの!? 恐怖心なの!?

 やめて! 俺が攻略されちゃったら詰むかもしれないんだから!!



「アハハ、口が上手くなったなぁ。あ! もうこんな時間か! ごめん、先に戻るね!」


「・・・」



 ああああ!

 絶対、これ真っ赤だよ!!

 傍目にも照れ隠しの行動ってバレッバレじゃねぇか!!

 俺は残りをかきこんで、急いで席を立った。

 さくらさんの顔を見ないように早足に。

 少し目線を上げたら・・・近くの席でニヤついているソフィア嬢と目が合う。

 ぎゃあぁぁ!!

 み、見られた!?

 何の笑みだよそれ!!


 俺はとにかくその場から逃げるように自室へと戻った。

 なんでこんなに精神耐性弱くなってんだよ!? くそっ!

 中学と高校で何がそんなに変わったってんだ?

 もしかしてゲームとしての主人公の魅力補正でもかかってんのか!?






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