第17話 お願いちゃんと叶えて上げられなかった(´・ω・`)

「えぇい!!何とかならんのか!!」


「なりません!!奴等、運動能力は動物と同じかそれ以上です!!人と同じ知性を持っている様で力の使い方もうまいです!!」


「敵を褒める奴があるか!!」


「団長!実験動物の隔離施設が襲われました!!中に居た動物達が消失!!合わせて警備していた者達が取り込まれました!!」


「何をやっておるかこの無能が!!」


「団長がちゃんと指示を出して下さらないからでしょう!?」


「指示は出しておる!!あの黒いのを何とかしろ!!後は貴様らが考える事だろうが!!」


ヨクブーカの街の兵舎では今怒号が飛び交っていた。それと言うのも先程女性達を仲間に入れた黒いの達が街に入ったのだ。


止めようとした兵士はことごとく黒いのに飲み込まれ、動物人間に変えられた。待ちゆく人も先頭に立つ牛人間が黒いのに指示してどんどんと動物人間に変えて行った。


変えられた人々は黒いのに付き従い、どんどん街の中を進んでいく。人を突き飛ばし、自分だけ生き残ろうと逃げて来た連中だけが今、兵舎の中で固まって震えていた。


「団長・・・。もう駄目です・・・。戦争の為に徴兵していた者達まで変えられました・・・。」


「なんと言う事だ。これでは他の街に攻められてしまうぞ!!貴様ら何とかせんか!!」


「ちっ、やってられっか!!食われたら仲間になれるんだろ?だったら俺は食われに行くぞ!!」


「あっ待て貴様!!私が先だ!!」


兵士の大半が食われ、動物人間になってしまった。すでに負けは確定している状況では戦う気力も起きない。騎士の中には自ら食われ黒いの達の仲間になろうとするものまで出始めた。


そしてそんな裏切り者の所為で騎士団兵舎の門は開け放たれ、動物人間達がなだれ込んでくる。黒いのを先頭に、逃げ込んでいた人達を捕まえては、黒いのに食わせた。


そして、団長の前に牛隊長が姿を現す。


「貴様等、この街をどうするつもりだ?」


「どうもせん。我らは罪深き者達に罰を与えに来たのみ。断罪者様のお力により街の者達は罰を受け、救済を受けた。残るは貴様等だけだ。」



武器を手にしながら、牛隊長に問いかける団長。牛隊長と言えば、どこから調達したのか牛隊長の背丈と同じくらい大きな両刃の斧を背負って団長の問いに答えていた。


「何が救済だ!!化け物になるくらいなら戦って死ぬわ!!」


「そうだとも!!街は我々が生き残っていれば再建できる!!それにこのような化け物達に統治なんぞ出来るはずは無いわ!!」


「貴様等、降伏して奴隷となるなら許してやるぞ?さもなくば殺して標本にして売り払ってやる!!」


「我等教会の聖騎士達が必ずや貴様等を撃ち滅ぼすだろう。我等の神は絶対なのだ!!」


団長の後ろに固まっていたこの街の有力者達が口々に好き勝手な事を言う。領主が、教会の司教が、商人の元締めが、今まで欲望の限り私欲を満たしていた者達が結託して罵詈雑言を牛隊長に浴びせかける。だが牛隊長はそんな彼らの妄言を、耳を動かして受け流した。


「きゅっ?」


「おぉっ断罪者様・・・いえ、使徒様。この者達で最後です。お願いいたします。」


「そっそんなものが使徒だと!!これは教会への冒涜だ!!今に神罰が下るぞ!!」


「黙れ!!我等に罪を自覚させ、罰を与えて救済して下さっているのだ!そんな尊いお方にそんな物とは無礼なるぞ!!それに神罰なら今に下る。命を玩んだ貴様らにな!!」


「なっ何を世迷い事を!!」


「ぐばぁっ!!」


「「「「「ひっ!!」」」」」」


バフンッ!!


ゴーリ、ゴーリ、「きゅっ?」ガギッ!ゴギンッ!ゴリゴリゴリ、ガリガリガリ、ジャリジャリジャリ、「きゅきゅ。」シャリシャリシャリ、モゴモゴ、「きゅ~・・・。」モグモグ、モチャモチャ、モーグ、モーグ。ぺっ!!


咀嚼しながらも何やら考え込み、そして最後には残念そうにしながら咀嚼を終えて吐き出す黒いの。そして吐き出された者達の姿を見て牛隊長は驚いた。


「なんと、貴様らのその姿は・・・・。」


「なっなんじゃこれは!!」


「ひぃぃぃっ!!」


「たっ助けてくれぇ!!」


「きゅ~・・・・・。」


それは牛隊長達とは違って人と動物の入り混じった姿だった。顔の半分だけが動物になっている者、下半身だけが4足の動物の体になっている者、上半身が4本の腕を持つ動物になっている者、腕や足だけが変化している者とまさにその姿は異形だった。


「それほどまでに貴様らの罪は重いと言うのか・・・・。引っ立てよ。この者達は断罪者様での捌ききれぬ罪を犯している。屋敷と商店、教会を重点的に調べるのだ。」


「はっ!!」


「きゅ~・・・・・。」


動物人間達とは違い、化け物になってしまった者達が連行されて行く。牛隊長はその姿に黒いのが裁ききれない罪があると思ったようだが、黒いのがさっきからションボリしている事からわかる通り事実は違う。


他の街の人達と同じように動物人間に作り替えようとした黒いの、だがお腹の中に動物のストックが無かった。中途半端に残った動物を無理やり混ぜた為に異形の姿に変わってしまった事にずっと黒いのはごめんなさいと謝っているのだ。お願いされたのにちゃんと仲間を作れなかったからと。


だが、言葉が通じないためにそんな事には気が付かない牛隊長達は、黒いのを街の広場に連れて行き街の人々を集めた。肩を落とす黒いのの姿に自分達が何かやってしまっただろうかと不安に思い、もてなそうと思っての行動だった。


「さぁ使徒様はこちらの椅子にお座りください。誰か!!使徒様に飲み物と食べ物を!!」


「はっ!!直ちに!!」


黒いのをもてなす為に食べ物と飲み物を用意するように指示を出した牛隊長。広場の中央にはいつの間にか舞台が用意されていて、黒いのはその中央にあるまるで玉座の様な椅子に牛隊長によって座らされた。といっても黒いのは浮いているので椅子の上に佇んでいるだけだが。


何が起こるのかと辺りをキョロキョロ見回す黒いの、大分困惑している様だがそんな黒いのの姿に街の人達は集まった人達が無事か心配して下さっていると感激し、膝を着いて祈りを捧げていた。


「此度の一件はこちらにおわす使徒様が、動物実験を行っていた我々ヨクブーカの街に住む者全てに罪の自覚と天罰を与えた物である。動物の姿は彼等と同じ姿になり、その思いを、苦痛を考えろと言う啓示であり罰である!だがこの姿になった事で我らの心は救われ救済となった!すべては使徒様の慈悲によるもの!よって我らは使徒様をもてなし、街を救済して頂いた感謝を伝えたいが皆のものはどうか!!」


牛隊長の言葉に集まっていた街の人達は賛成の声を上げる。その言葉に皆自分と同じ気持ちなのだと感動しながら頷く牛隊長。黒いのと言えば、突然大声を上げ始めた街の人達の様子に若干恐怖を覚えていた。だが丁度そこに先ほど飲み物と食べ物を取りに行った猫人の女性が帰って来た。


「使徒様、こちら街で作っていた醍醐と牛の乳です。お気に召せば良いのですが・・・。」


「きゅっ?」


コクコクコク 「きゅきゅっ!?」


もぐもぐもぐ 「きゅ~♡」


「気に入って頂けたようで喜ばしい限りです使徒様。」


木のカップに入れられていた白い液体。猫人の女性はそれを傾ける仕草をする。黒いのは顔についた口にカップを近づけ、女性の真似をした。口の中に流れ込む濃厚でうまみの強い液体。その味の良さに驚き声を上げた黒いのは、猫人が差し出している白い塊に手を伸ばす。


女性は醍醐、つまりはチーズも口の中に入れる仕草をする。黒いも真似をしてチーズの端っこを齧った。独特の臭みはあるが先ほど飲んだ液体のうまみを濃縮した味が口に広がり、黒いのは頬に手を当ててチーズをもぐもぐと食べる。


2つを持って来た女性はそんな黒いのの様子に安堵した。そして黒いののその可愛らしい反応に抱き上げたい衝動に駆られ、集まった人達の前で自分だけそのような事をするわけには行かないとその衝動を必死に我慢していた。まぁ口に手を当ててプルプルしていた訳だ。


「さぁ宴の始まりだ!!」


牛隊長の号令で街中から食べ物が集まり、楽器が鳴り始めた。その楽し気な様子に黒いのも目を輝かせるのだった。もし猫人の女性が牛乳とチーズを持って来なければ黒いのはすぐに逃げていただろう。猫人の女性の行動が実はファインプレイだった事に気が付いた人はいない。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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