第11話 ある日森の中エルフを作った♪

「きゅ♪きゅ♪きゅ~♪」


上機嫌に鼻歌を歌いながら進む黒いの。周りは今までいた森とは違い、どこか鬱蒼としていて緑が濃くなってきている。見える山のだんだんと近くなり、あの上には何が在るのかなぁと楽しみにしている黒いのだった。


「ぎゃう!!」

「きゅっ?ぐばぁっ!!」


サクサクサク。プッ


この森に入ってから何度も植物に襲われる黒いの。つぼみの様な物に口が開いている植物だったり、木の幹に人の顔が浮かんでいる大木だったりと様々な植物の魔物が襲い掛かって来ていた。それらからあの嫌な気配を感じた黒いのは、見つけ次第咀嚼して種に変えて吐き出していた。


「きゅ~♪きゅ~♪」


吐き出した種をちゃんと地面に植えながら、どんな植物が出てくるかなぁとさらに上機嫌になる黒いの。まるで子供がスイカの種を地面に植えて芽が出るのを楽しみにしている様だ。


「きゅきゅ♪きゅきゅ~♪」


種を植え終えると、興味はやはりあの山に向かう。茶色い岩肌をさらした山には植物が一切生えている様子はない。あの山の天辺から見る景色はどんなのかなぁと黒いのは足を進める。


ヒュッ カッ!!


「キュッ?」


先を急ぐ黒いのの足元に、木の枝で出来た矢が突き刺さる。どこから飛んで来たのか不思議に思い周りを見回すも、何も見えない。見えるのは木と草と地面だけだ。


ヒュッヒュッ!! カカッ!!


「キュ~?」


又何かが飛んでくる音がしたかと思うと、地面に2本矢が刺さる。それを見て、口に指を咥えて不思議がる黒いの。実は矢は黒いのの背中から撃たれ、体をすり抜けて地面に刺さっているのだが黒いのは気が付いていない。


「ゴアーーーッ!!」


「きゅ?」


矢を撃っていた者がしびれを切らせて姿を現した。その姿は人型の枯れた木。幹の部分に裂けたような顔が在り、手には弓状になった枝が生えて蔓が張られている。頭には先ほど黒いのに撃ち込まれた矢の様な枝がたくさん生えていて、それを引き抜いてこの魔物。トレントは黒いのに向かって矢を撃ち出す。


ヒュカッ!!


「ゴアーッ!!」


「きゅぅぅぅ・・・・。」


矢が刺さらずに怒りの声を上げるトレント。黒いのはその姿に申し訳なさそうな顔をしている。


「ゴッゴアー!!」


「きゅーーーーっ!?」


すると突然トレント目が光り、叫び声を上げたかと思えば黒いのは風に飛ばされ空中に打ち上げられた。突然の事に目を回す黒いの。トレントと言えば、打ちあがった黒いのの様子を見てニヤリと顔を歪ませていた。


「きゅきゅ♪」


「ゴッゴア?」


普通の生き物であれば地面に叩きつけられて終わりだろうが、黒いのは幽霊の様な物だ。空中に打ち上げられて少し目を回していたが。地面に降りる頃には元に戻り綺麗に着地した。その姿に目を丸くするトレント。


「ゴッゴ「きゅばぁっ!!」アっ!?」


バキバキ、メリマリ、パリパリ、「きゅっ?」ゴキゴキ、ゴリゴリ、モリモリ、「きゅきゅ♪」シャクシャク、カリカリ、ぺっ


トレントがまた先ほどと同じように不思議な力を黒いのに放とうとしたが、それより早く黒いのはトレントを口に入れた。


オークの時と同じように、何か違和感を感じた黒いのは念入りに咀嚼を続ける。途中、思い通りに行ったのか上機嫌になり、細かく細かく口を動かしてから吐き出した。


「・・・これは?私は一体・・・。」


「きゅ~♪」


吐き出されたそれはもはや枯れた木では無かった。瑞々しく白い肌、器用に動く5本の指、すらっとした手足、風に靡く度にキラキラと光りを零す金色の髪、青く透き通った瞳と高い鼻。そして顔の横から突き出した長い耳。細いが引き締まった筋肉とその者が男性であると主張する物。そう、男のエルフがこの世界に誕生した。


「貴方様は・・・・。はっ!!これはとんだご無礼を!!生きる者の形を変えられる程高位の神であるとはつゆ知らず、矢を射かけて申し訳ありませんでした!!」


「きゅ?」


裸のまま地面に土下座し黒いのに謝るエルフ。どうやらトレントであった時の記憶はそのままの様だ。その様子に黒いのは首を傾げている。その姿を見たエルフは何も気にしていないと言われた様に感じた。


「お許しいただき感謝いたします。所で私はどうしてこのような姿に?」


「きゅ?きゅきゅ~♪」


なんで?なんとなく~♪と答える黒いの、もちろんエルフにその声は届かない。


「申し訳ありません。神である貴方様のお言葉は私には聞き取ることが出来ず・・・。」


「ぐばぁ!!」


「しまった!油断した!」


「きゅばぁっ!!」


サクサクサクサク プッ


もう1度黒いのの言葉を聞こうと話しかけるエルフ。するとエルフの後ろから肉食植物が襲い掛かって来た。武器も無く、全裸な自分では対処できないと焦るエルフ。だが肉食植物は黒いのに食われ、種となった。


「きゅ♪」


「植えろと申されるので?」


「きゅきゅ♪」


黒いのは自分が吐き出した種をエルフに渡そうとする。もう大丈夫だよーという意味だったのだが、エルフは先ほどから黒いのが種をずっと植えていた事を思い出し、自分が何を期待されているのかを(勝手に)理解した。


「なるほど、神様が植えた植物をこの姿で世話しろと言う事なのですね。」


「きゅきゅ♪」


「畏まりました!!ですが1つお願いがございます。」


「きゅ?」


渡した種気に入ってくれたみたいと上機嫌な黒いのに何やら頭を下げるエルフ。


「私1人では神が植えられた植物すべてをお世話できません。仲間を作って欲しいのです。」


「きゅ~、きゅっ!」


「おぉ!!よろしいのですか!!ではご案内します!!」


エルフの言葉を全く理解していない黒いの。だがエルフがチラチラと黒いのを見ながら先を歩くので興味がわいて着いて行った。するとそこにはトレントの集落が。不意打ちで嫌な気配満載の場所に案内された黒いのは、その怒りをトレント達にぶつけた。


「ぐばぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


「「「「「「「「「「「「ごあっ!?」」」」」」」」」」」」」


バキバキ、メリマリ、パリパリ、ゴキゴキ、ゴリゴリ、モリモリ、シャクシャク、カリカリ、ぷ~っ!!


吐き出されたトレントは全てエルフに変わった。男性も女性も見目麗しく、まるで美術品が森の中に直接並んでいる様な異様な光景がそこに広がっていた。


周りを見回す元トレント達。エルフの男は自分達が神によって生まれ変わらせてもらえたと仲間たちに説明した。そして黒いのにお礼を言おうと振り返れば、そこにはもうすでに黒いのの姿は無かった。


「あぁ、もう行ってしまわれたのか・・・。神よ、貴方から頂いた使命は必ず私達が全うします。」


落ち着いた後に、エルフ達は黒いのが植えた種から出た芽の世話を始める。黒いのが植えた種は全て果物の生える木に変わっていて。エルフ達はその果物を神が齎した奇跡の果実として大事に育て、その果物のみを口にして暮らしていく。


そして、エルフに渡した種は雲を突き破る程の巨木になる種だった。これより100年後にエルフ達が育てた巨木は世界樹と呼ばれ、森と空の浄化を行う事になるのだが、今のエルフ達には関係ない。


今は唯、心晴れやかに美しく生まれ変わらせてくれた黒いのに感謝するだけだった。


一方黒いのはと言うと。


「ぐあっ!!ぐあっ!!!ぐあっ!!!!」ぷっ!ぷっ!ぷっ!


「ぐあっ!?」「げぎゃ!?」「ぶひぉっ!?」「ごあっ!?」


元トレントのエルフから気持ち悪いのを抜いてあげたのに、さらに気持ち悪い所に案内されてプリプリと怒っている黒いのは、この森に居る魔物達を手当たり次第に食べて作り替えていた。植物もゴブリンもオークもトレントもどんどんと食われて姿が変わって行く。黒いのの後ろには、浄化された土地が残り穏やかな雰囲気が流れ始める。だがそんな事は今の黒いのには関係ない。


「ぐぅぅぅばぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


体の口を開けて叫ぶ黒いの。この癇癪は山の麓に到着するまで続いたという。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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