第6話 街の反応ですわ

ゴーツクの街にはいま2つの大きな噂が流れていた。噂の1つは時計塔に居た貧者が亡者となり、金持ちから価値の高い物を奪っているという物。実際に高価な指輪や、この世に2つとないと言われる陶器が盗まれるという事件が相次ぎ、事件の調査に兵士が乗り出すも犯人もどうやって盗まれたかも解らない始末。夜中、時計塔に運ばれるお宝を見たという証言も出てきたこともあり。犯人が捕まらないのは亡者だからで、自分達を蔑んだ金持ちに復讐しているという話から時計塔の亡者が犯人だと噂されている。


もう1つの噂がある日突然人が入れ替わるという物。その噂の出所はこの街の領主だったガメシュ達の変貌だった。時計塔の不祥事を問い詰めに行ったガメシュの敵対者が、屋敷に入った瞬間にその雰囲気の違いに気が付いたという。


いつもは自分が来るとたとえ使用人であっても見下すような態度を取っていたのに、今回の訪問では気持ちが悪い程に気を使われ接待され、今までの事を謝罪されたと。ガメシュに至ってはお前誰だ?と言いたくなるほど穏やかな顔をしており、今回の不祥事の責任を取って自分から退任したいと言い出したこと、そして全財産を賠償金として差し出すとまで言い出したらしい。あまりの変わりように気味の悪さを感じ、その男はガメシュの話は検討すると返事をして早々に逃げ帰って来たそうだ。


他にも突然人が変わったように振る舞う人々が現れ始め、その変貌ぶりから本当に人が入れ替わってその人の生活を乗っ取っていると噂された。だが、何者かが入れ替わったのだと証明しようにも、証拠が無く手出しが出来ない状況。だからこそ噂として流れるだけに留まっていた。


「これは使徒様のお力ですわね。」

「えぇ、私もそう考えます。」


ゴーツクにある屋敷の1つ。今やピュリファイ教の総本山となっている元ブラド家の屋敷でヤクアとゼバスが話し合っていた。


「やはり使徒様はこの街の闇を払いに来て下さったのですわ。そしてこの街が終れば次は世界の闇を払いに行かれるはず。我々は使徒様の活動を支援しますわよ。」

「ですが、肝心の使徒様の姿が見えません。今一体どちらにいらっしゃるのでしょうか・・・。」


ヤクアとゼバスは黒いのの行方をずっと追っていた。黒いのを勝手に売り飛ばした両親を粛正し、ヤクアが党首として実権を握った後は特に精力的に捜査に乗り出していたのだ。


「失礼しやす!!教主様!!使徒様の情報が入りやした!!」

「なんですって!!」


2人の居る部屋に飛び込んで来たのは、砦に住み着き、黒いのを売り払ってお金にしようとして居た者達のリーダーだった。名前をライヒ・トサと言う。男が言うには聞き込みの結果使徒様が時計塔の方に向かうのを見た者が居たというのだ。


「すぐに向かいますわよ!!」

「まってくだせぇ教主様。どうやら時計塔の周りでは不思議な事が起こっているみたいでさぁ。」


すぐに時計塔に向かおうとするヤクア。だがライヒの言葉を受けてその動きが止まる。


「どういう事ですの?」

「時計塔の中には入れず、時計塔の周りをウロウロしていると突然気を失って身包み剥がされちまうって話でしてね?街の連中が何人か被害に合っているって話ですわ。」


何故そのような事が起こっているのか、原因は何なのか。街に流れている噂と関係が在るのか。短い間に思考がグルグルと回るヤクア。だが最後に気になったのはその被害者達の事だった。


「・・・・その人達はどうしたのかしら?」

「身包み剥がされた後に人が変わっちまって、付き合いのあった連中からは距離を置かれて今家に引きこもってまさぁ。本人たちは財産を失ってもケロッとしてやしたけどね。」


ライヒの言葉を受けてまた考え込むヤクア。そして、何かを確信したように頷きながらライヒに指示を出す。


「その人達をうち(ピュリファイ教)に勧誘して下さい。あぁもちろん使徒様の証を見せて確認を。もしかしたら洗礼を受けた方々かもしれません。」

「解りやした。イハンの奴に任せときます。それで?時計塔に本当に行かれるので?」


ライヒの言葉に深く頷きながら、ヤクアは窓から見える時計塔の方を見る。


「使徒様が関わっている確率が高くなりました。行って、直接様子を見ます。」

「ではお嬢様、このゼバスも共に。」

「念のために戦える奴も必要でしょうや。俺も行きやすぜ。」

「では3人で向かいましょう。正装を。」


そう言って3人がまとったのは黒いローブ。これは使徒である黒いのをイメージして作り出したピュリファイ教の正装だ。ローブの頭の部分には黒いのの瞳を思い出させる黄色い丸が、背中には天使の羽の様な物が、そしてローブの袖には黒いのの籠手を模した銀の刺繍が入っていた。ローブを止めるブローチには赤い宝石を使っている。最後に、胸から黒いのの姿を模したお守りを下げれば正装の完成である。


「では参りましょう。」

「「はっ!!」」


街中を歩く変なローブの三人組。人々はその姿をみて指を指して笑う。中にはローブを見て不快になったから金を払えと言う物までいた。だがそんなヤクア達を守ったのは人が変わったと噂された人たちだった。


「おぉ!!そのお姿は!!」

「貴方達もあのお方をご存知なのですか!!」

「我等を救って下さったあのお方は今どこに!!」


指をさして笑う者を、金を払えと荒唐無稽な理由を述べる者を押しのけ、抵抗する者を強制的に引きはがしてヤクア達に詰め寄る街の人々。ヤクアはそのローブのモデルとなった黒いのの話を街の人に伝え、最後にお守りを皆に見せる。


「あなた方は使徒様の洗礼を受けた我らの仲間!!我等もまた使徒様より洗礼頂いた神々の使いですわ!!さぁこの悪しき街を変えましょう!!我等と共に!」

「「「「我等も共に!!」」」」


その話を聞いて、次々に人が入れ替わったとされる人達がヤクア達に着いて行った。最初3人だった列は今や100人を超える勢いで増え、街に住んでいる人達はこれだけの人が入れ替わっていたのかと戦慄した。


「当主様、到着しやしたぜ。」

「止まっていますわね。」

「先ほど、街の者に話を聞きました所、1週間程前から動きを止めているそうです。」


全員が見上げる先では、静かに動きを止めている時計塔の姿が在った。街の人達はこの時計塔を見て不気味だと言っていたが、ヤクア達から見ればとても澄んだ気を放つ荘厳な時計塔に見えていた。


「恐らく使徒様が浄化なされたのでしょう。皆さん、祈りを捧げましょう。」


ヤクアの号令に着いて来た者達は全員膝を折り、手を組んで祈りを捧げる。するとどうだろう?時計塔の中から小さな光りが1つ、ふわりと浮き上がりヤクア達の元に飛んでくるではないか。


「ふぃ~?」


飛んで来た光りから声が響いた事でヤクア達は祈りの際に瞑っていた目を開き、目の前の生き物を確認する。そこには黄緑の髪と同じ色の服を着て、背中から透明な羽を生やした小さな子供が浮いていた。


「この方は?」

「っ!?ふぃ~♪」


祈りを止め、立ち上がったヤクア達。その時、手に握り込んでいたお守りがチャラリと音を立てて首からぶら下がる。そのお守りに彫り込まれた黒いのの姿を見て妖精は手を両手に上げながら小躍りしていた。


「ふぃふぃ~。ふぃ~♪」

「このお方をご存知なんですの?」

「ふぃ~♪」


ヤクアの質問に頷いて返す妖精。その反応を見て、ヤクアはこの妖精も自分達と同じだと直感した。


「このお方がどこに行かれたか分かりますの?」

「ふぃ~。」


指さした先は時計塔の前にある家、そこはこの街の領主の家だった。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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