第5話 街の中も悪意で一杯!!

「きゅっきゅっ!!きゅ~?」


黒いのは必至で逃げ回った所為でいつの間にか道に迷っていた。現在地は何処かとあたりを見回すと、どうやらヤクアたちが目指していた街の中に入ってしまっていたらしい。街の中に飛び込むまで辺りの景色の変化に気が付かなかった黒いのが、どれほど慌てていたのかは想像にお任せする。


「きゅ~?きゅっ!!」


あれ~?あぁあそこだ!!と言ったのだろう。せっかく街の中に入ったのだからと、最初に気になっていた時計塔に行ってみる事にしたようだ。黒いのは見えている時計塔に向けて一直線に進んだ。壁も人も今の黒いのには意味が無い、どんどんとすり抜けて行ってすぐに時計塔の下に到着した。なおすり抜けられた人が驚き腰を抜かしたのは言うまでもない。今も街中は微妙に騒がしくなっていた。


「きゅ~きゅきゅ~♪」


それー、突撃~♪と、そんな事は関係ないとばかりに黒いのは時計塔の中に入って行く。歯車が回り、時計が動く様子を見て黒いのはテンションが上がっていた。前世は男の子だったのかもしれない。


「きゅ~?」


おや?黒いのは何かを見つけた様だ。それは歯車の中に取り込まれた白骨死体だった。よく見れば歯車全てに骨が埋まっている。そしてぐるぐると回る骨は何か言葉を発していたようだ。


『うぼあぁぁぁぁぁ。』

『だずげでぐでぇ~。』

『あだじがなにじだってびゅうのよぼぉ~。』

『うばぁぁん、ばばぁ~。』

『がえじでぐで~。うぢにがえぢでぐで~!!』


体の大きな骨から小さな骨までその数100以上、そのすべてから声が漏れあたり一帯にとても嫌な雰囲気が漂っていた。


「きゅっ~~~~!?ぐばぁっ!!」

『うぼっ!?』


ガ~リ!!ボ~リ!!ガリガリ!!ボリボリ!!ポリポリ、バキポキ、シャクシャク。ぷっ


なるほど、この時計塔は死体達の怨念を使って歯車を回していた様だ。黒いのは驚きの声を上げた後、100枚以上はある歯車全てを口に放り込んだ。嫌な気配が歯車にこびり付いていて、かなり不快だったようだ。念入りに咀嚼した黒いのは口の中の物を吐き出した。


そして毎度のごとく口から吐き出された“それ”は、もう白骨死体の姿ではなく別の何かに生まれ変わっていた。


「ふぃ~?」

「きゅ~?」


吐き出されたそれらは宙に浮かびながら黒いのと一緒になって首を傾げる。それらの体は白骨から虫の様な透明な翼が生えた幼女の姿に変わっていた。それはまるで妖精と呼ばれる存在そっくりに変化していたのだ。体長は30cm程、黒いのの半分しかない。黄緑の髪と、同じ色で出来た服を着ていた。


「ふぃふぃ?」

「きゅきゅ?」

「ふぃ~♪」

「きゅ~♪」


解放してくれたの? 何してたのぉ? ありがとう♪ うれしそう♪ お気付きだろうか?そう、この2人全く意思の疎通が取れていない。黒いのに至っては相手が笑顔だから嬉しそうにしているだけである。妖精も黒いのが笑顔だから自分達の為を思って動いてくれたと勝手に思い込んでいる。


「「「「ふぃ~?」」」」

「ふぃー!!」

「きゅ~?」


黒いのが吐き出した他の妖精たちも動き出した。当たりを見回し、自分の体を確認し、困惑している。そこに一番初めに目を覚ました妖精が駆け付け、事情を説明するように身振り手振りを行う。黒いのはそちらの様子を見る事もせず、時計塔が止まってしまった事に首を捻っていた。


「きゅ~・・・・。」

「ふぃ~?ふぃっ!!」

「きゅっ!?きゅきゅ~♪」


落ち込む黒いの、そこに説明に行っていた最初に目覚めた妖精が戻って来て大丈夫?と問いかけるように声を掛ける。そして黒いのがじっと時計の方を見て、また肩を落としているのを確認した。


時計塔が止まっている事に黒いのが落ち込んでいると解ると、最初に目覚めた妖精はスカートの中から懐中時計を取り出して黒いのに渡した。黒いのはその時計を見て喜び、鎖を腰に付けて時計をぶら下げた。どこから出したのか、その時計が何で作られたのか、なぜ妖精よりも体の大きな時計がスカートの中から出て来たのかは一切分からない。だが黒いのはとても喜んだようだ。


「ふぃーふぃー!」

「きゅー!!」

「「「「「「「「「「ふぃーふぃー!!」」」」」」」」」」」


妖精達はこの時計塔に住むようだ。黒いのは妖精たちに別れを告げて時計塔の外に出る。黒いのはそのまま時計塔の前にある家の中に消えて行った。妖精たちは黒いのを見送った後、時計塔の入り口に何やら色々と細工をして中に戻って行った。


数時間後、町の住民たちは慌てていた。それはこの街のシンボルであり富の象徴である貧者の時計塔が止まっていたからだ。この街の住民は金を集める事に執着し、人からだまし、奪い、自身の富を蓄える事に執着していた。そして無一文になった者達に借金を背負わせ、死ぬまで強制的に働かせ、死んだ者を歯車に加工して時計塔の動力として使っていたのだ。


「どうなっている!!」

「原因は解りません!!」

「えぇい、調査に送った者達はどうなったのだ!!」

「時計塔の中に入れず、それ所かいつの間にか意識を失って身包みを剥がされていました!!」

「高い金を払っているのにその体たらくか!!」


怒鳴っているのはこのゴーツクの街を収める、ガメシュ・センド・ゴーツクだった。街のシンボルとして、そして富の象徴として大々的に動かしていた時計塔が止まったのだ。しかも自分が街の代表をしている時に限ってである。自分の地位を狙う輩はここぞとばかりにこの不祥事をやり玉に挙げて退陣を望むだろう。それも莫大な賠償金を払わせてから。


「いかん!!このままではいかんぞ!!すぐに次の手を打て!!なんでも構わん、時計塔の中を調べるのだ!!」

「はっ!!」


部下が礼をして部屋から出ていく。椅子に深く腰掛けたガメシュはため息を吐きながら机に置かれたワインを口に含む。


「くそっ!!なぜいきなり時計塔が止まったのだ!!これでは観光業で金を取れないではないか!!時計塔内部の見学も中止にしなければいかんな。いい見物料が取れていたんだが・・・。」


ワインをグラスの中で回しながらぶつぶつと独り言を言うガメシュ。するといつの間にか目の前に、黒い何かが居るのが目に映る。


「なっなんだ貴様は!!」

「きゅ~?」


黒いのだった。時計塔を出た黒いのは、嫌な気配を処理しながらここまで来てしまったらしい。ガメシュの持つワインの動きをじっと見て、口に指を咥えている。


「ふむ、いきなり表れて驚いたがこのような奴は見たことが無いな・・・。こいつを見世物にしたら時計塔よりも見物料が取れそうだな・・・。」


ガメシュの頭の中にはすでに、黒いのを捕まえて見世物とし、大量の金を稼いで自分の地位を盤石にする姿が浮かんでいた。


「ほれ、これが欲しいか?欲しいならこっちに来い。」

「きゅ~?」


黒いのがワインの動きを気にしている事に気が付いたガメシュは、ワインの入ったグラスを揺らしながら黒いのを呼ぶ。黒いのは、首を傾げながら少しずつガメシュに近づいて行った。するとガメシュは机下に隠していたレバーを引いた。


ガシャン!!


「フハハハハ!!侵入者用のトラップがこのような形で役に立つとはな!!さぁお前は今日から私の物だ!!沢山金を稼いでもらうぞ!!」


突然降って来た檻に閉じ込められた黒いの。それを見てガメシュは両手を上げて高らかに笑う。これで時計塔の不祥事は無かった事に出来るし、観光業でさらに金が集まると思い込んでいた。そう、黒いのがスルッと檻から出てくるまでは。


「きゅ~?」

「はっ?」


檻の事等無かったかの様に外に出てくる黒いの。その姿に目を丸くするガメシュ。そして黒いのはワイングラスではなくガメシュの事をジーっと見つめていた。


「なっなんだ!何なんだ貴様は!!おとなしく私に捕まっていればいい物を!!誰か!誰かおらんか!!こうなったら貴様を殺して剥製にしてやる。それでも十分金は取れるだろう!!」


ガメシュが人を呼び、黒いのを倒させようとするが誰も来ない。それもそのはず、この場所は館の最上階の最奥にある場所。道中に居た“嫌な気配”のする者達はすでに黒いのに寄って食われ、意識を失っていたのだから。


「なっなぜ誰も来ない!!主人が呼んでいるのだからすぐに来い役立たず共が!!」

「ぐばぁ!!」

「ひぃっ!!」


ガギンッ!!ゴギンッ!ガリリリッ!ゴリリッ!!ゴリゴリゴリ。ガギ!ゴギ!ボリッボリッ!!ポリポリポリ、ぷっ


ガメシュが部下達に悪態を吐いた所で黒いのの目が見開き、体の大口を広げた。びっしりと生えた白い牙からはよだれが垂れ、伸びた長い舌の先には体についていた赤い宝玉が怪しく光る。自身を丸飲みできる程に巨大化した黒いのに、短い悲鳴を上げえてガメシュは食われた。


何やらとても固い物を噛み砕く音をさせながら黒いのは咀嚼を続け、最後にはガメシュを吐き出した。どうやら白目を剥いて気を失っている様だ。黒いのはこの屋敷に嫌な気配が無くなったのを感じて次の場所に向かった。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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