【第13話】エリスレア・ヴィスコンティは攻略される
アリシアがやってきてから一週間が経った。
無事(?)彼女と友達になれた私は、その立場を最大限に利用して彼女の世話役を買って出ていた。(…とは言え、私自身が本来世話を焼かれる立場の方ではあるので、大した事をしていたわけではないのだが…)
私は彼女に、城の中の施設を案内をしたり、私の家へ招いて一緒にお茶や食事をしたり、彼女の宿舎へ訪れ困った事はないかと相談に乗ったり(大体は歓談で終わる)していた。
自分で言うのもなんだけど、私はまるで初めて彼女が出来た男の子みたいに浮かれてしまっていたから、多分しばしば様子がおかしかったと思う。けれど、そんな私にもアリシアは優しくて、いつも楽しそうに私の話を聞いてくれていた。
何にでも興味を持って、きれいな目をキラキラと輝かせて眩しいくらいの笑顔を向けてくるものだから、私は一層彼女に夢中になってしまう。無邪気な彼女は距離感も私の考える"普通"よりも大分近くて、ボディタッチも多くて、私の左腕は彼女が抱きついてきた時の柔らかさと熱をずっと忘れられないでいる。
私は彼女が現れてから、自分の考えの高慢さと甘さを思い知らされることになった。私はこの世界がゲーム世界であることを唯一知っている存在で、PL知識というアドバンテージを持つ特別な存在であるとどこか慢心していた。それは攻略対象である男性たちは勿論、
「あ、エリス!
私ね、今から書庫に行こうと思っているの。良かったら一緒にどうかな?」
アリシアは私を見つけると、嬉しそうに小走りでかけて寄ってくる。
その姿は凄く可憐なのに、まるで子犬みたいでとても可愛らしい。
「アリシア、御機嫌よう。勿論ご一緒しますわ。何か読みたいものでも思いついたのかしら?」
「とと、ごめんなさい。挨拶もしないで…。御機嫌よう、エリス!
…あのね、私が今住んでいる宿舎のお庭に、沢山お花が咲いているでしょ?
見たことが無いお花もあったから、なんて名前なのか知りたくなっちゃって…」
「そうなのね。わたくしが知っているものであれば教えて差し上げるのだけど…」
「エリスは物知りだものね!…でも、一緒に書庫に行けるなら、その後に一緒に見に行きましょ!」
「ふふふ。ええ、それじゃあそうしましょう。
書庫はわたくしも良く利用しますの。良かったら面白い本や詩集も紹介しますわ」
「えへへ。楽しみ。私の故郷ではあんなに沢山の本は見たことなかったもの」
「…そう言えば、アリシアの故郷はどんなところでしたの?」
純粋に興味があって私は問いかける。
彼女については、ゲーム"悠チェリ"の説明書や設定資料集を見て知っていることも多いけれど、故郷や出身については"田舎の一般家庭出身"以外の情報は無かったように思う。彼女は少しはにかんだような表情を見せた。
「ここみたいに賑やかで煌びやかな場所と比べたら、何にもないようなところなんだけどね…。大きな風車がひとつあって、その回りには麦畑が広がってるの。麦が実る季節には一面に金色の絨毯が敷かれているみたいな景色が見られて、とってもキレイなんだ」
大きく身ぶり手振りを交えながら、一生懸命話してくれる彼女の様子がただただいとおしい。
「アリシアも農作業を手伝ったりしていたのかしら?」
「うん。ちょっとだけだけど、忙しい時期は家族みんなで畑に種を蒔いたり、収穫したりしてたなぁ…」
そんな風に故郷を振り返るアリシアの表情に少しばかり寂しそうな色が見えた気がする。
「…アリシア、ご家族が恋しい?」
聞いてしまってから私はハッと我に返った。こんなことを聞いても仕方がないのに…。
寂しくても寂しくなくても、彼女は少なくとも一年、ここから離れることは出来ないのだから…。
気まずくなってしまった私に、アリシアは優しく微笑む。
「家族に会いたいなってちょっと寂しくなることはたまにはあるけど…。…でも、今は大丈夫なんだ」
「…でも、知らない土地に一人でやって来たのは心細かったのではなくて?」
追及するみたいに言ってしまったのは、彼女の本心を知りたいからでもあったし、もし辛い思いでいるのなら、少しでも自分が力になれたら…と言う思いがあったからだ。
「…うん。本当を言えばね。…けどね」
彼女が珍しく口ごもるものだから、ついどう言う意味かと顔を覗きこんでしまう。
「?」
「……えっと」
「…アリシア?」
「今は、エリスが居てくれるでしょ?」
「!」
「一緒にご飯食べたりお喋りしたり、毎日とっても楽しいの。本当にありがとうね」
アリシアは照れくさそうに笑って、私の手を取るとぎゅっと握ると急に走り出してしまう。
「…!?…アリシア??!」
「えへへー!エリスが恥ずかしいこと言わせるからだよ!私、ちょっと暑くなっちゃったんだから!」
「ど、どうして暑くなったら走るんですの?!」
「知らないよーだ!」
キャッキャとはしゃぎながらアリシアは私の手を引いて走る。
時折振り向いては悪戯っぽく目を細めるその顔は、いつかみた桜色の夢の中のようで。
けれどこれは夢ではないのだと、繋いだ手のぬくもりと、うるさいくらいに高鳴る胸の鼓動が私に教えていた。
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