第9話 デート

 新町さんから連絡が来て、それ以来何度かやり取りをしていた。美味しいご飯が食べられる場所を知っていると言ったら、是非一緒に行きたいと言ってくれた。

 待ち合わせの広場には予定の時間よりも20分早く着いた。待たせるよりも待つ方が俺の性に合っている。

「おーい、悠真くん」

 10分ほど待っていると、視界の奥の方で俺に向かって手を振る新町さんを発見した。俺も彼女の方へと向かった。

「よ!待った?」

「全然。じゃあ行こっか」

 俺が今回のために予約したお店は、自然の良さが楽しめる、小さなうどん屋さんだ。集合場所の広場を出て、近くのバス停まで歩く。バスに乗ると山道を40分ほど進んで終点で降りる。山の中腹にある小さな集落に、行き先のうどん屋さんはある。

「こんなところあったんだね〜」

 バスを降りると、いきなり目の前に絶景が広がる。大きな山々に囲まれたその景色は、自然を感じるのにはうってつけのものだった。

「空気がおいしいね」

「うん、たしかに」

 俺たちはその店を見つけるのにそれほど苦労しなかった。店員さんに名前を伝えると、お座敷の席に案内された。そこには大きな窓が設置されていて、隣の山の尾根が壮大に広がっているのを綺麗に見えた。

「悠真くんはここには何回か来たことあるの?」

「うん。とってもいい場所でしょ?」

「そうだね。素敵」

 新町さんも俺と同じで、自然が大好きだと言っていた。この場所の景色を相当気に入ってくれたようで、いつにも増して目が輝いている。

「喜んでくれて良かったよ」

「私こそありがとう。連れてきてもらって」

 頼んだうどんがテーブルに運ばれてきた。この素晴らしい景色に囲まれて食べるうどんは絶品で、これ以上の食べ物を俺は知らない。

「美味しい!」

 新町さんはうどんを一口食べると、驚きにも似た声を上げた。

「でしょ?もう最高なんだよ」

 幸いにも店は混んでいなかった。おかげで、2人でワイワイと喋りながら、のんびりと食事の時間を楽しむことができた。新町さんは明るい人で、俺の話によく笑ってくれた。

 店員さんのサービスで頂いたデザートを食べて、店を出た。帰りのバスの時間まではかなり時間があった。

「ちょっとこの辺散歩しない?」

「うん、しようしよう」

 俺の提案に彼女は喜んで付き合ってくれた。森に囲まれた田舎の町をのんびりと歩いた。

「この木、なんて言うの?」

「これはブナ。日本のどこにでもある普通の木なんだけど、すごい大事な木なんだ」

「どういうこと?」

「ブナの葉はね、季節によってその姿を劇的に変えるんだ。今は綺麗な緑色だけど、秋になれば黄色くなったり赤くなったりして、冬には枯れる。春には新しく芽を出して、新しい葉ができる。日本の四季を彩っているのは、このブナと言っても過言ではないんだ」

「そうなんだ。ブナは確かに大事だね。四季がない日本なんて面白くないものね」

「うん、ホントにそう」

 彼女はブナの木をじーっと見つめている。鮮やかな緑色の隙間から、時々太陽が顔を出して彼女の横顔を照らす。俺はその光景から、しばらく目を離すことができなかった。

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