第29話 竜の息吹


骸切断ヘルディバイド

 それは、ゲオルクから奪ったスキルから生まれたボーナススキル。

別次元から魔戦斧ヴューテントを呼び出し、骨をも断ち切る強力な一撃を放つことが出来るスキルだ。


 仕事を終えた大斧は俺の手からスッと消える。


 早速、こんな所で役に立つとはな。

 やっぱ、魔界の武器は一味違うな。


 そんなふうに切れ味の良さに感心していると、リゼルが口を開けたまま棒立ちでいることに気付く。


「あわわ……」

「どうした?」

「どっ……どうしたじゃないよ! ドラゴンをたった一太刀で倒してしまうなんて……有り得ないんだからっ……」


 言った後、彼女は脱力したように肩を落とす。


「うう……私があの硬い鱗一枚剥がすのにどれだけ苦労したことか……ジルクには分かんないんだ……うう……」


 それは彼女が過去にファイアドラゴンと対峙した時の事を言っているのだろう。

 げんなりとしたその表情から、相当苦労したんだろうな……というのが伝わってくる。


 一つ言えるのは、

 あの魔戦斧ヴューテントはゲオルクが使っていた物だが、彼を含め他の人間がその斧を使っても同じような威力は発揮しない。

骸切断ヘルディバイドという攻撃スキルとして使うことで、初めて今回のような力をもたらすのだと思われる。


ともかく、このインファンスドラゴンは臨時収入だ。スキルを頂いておこう。


 俺は転がっているドラゴンの首に近付き、額の辺りに手を触れる。

 すると、いつものように眼前に文字列が表示された。


[獲得スキル]

 ファイアブレス(魔物スキル)


「えっと……これは……」


 俺はスキル名を目にした途端、悩んだ。

 確かにそれは紛うこと無く、ファイアドラゴンのスキル。

 さっきも実際に食らいかけたから分かる。

口から高温の炎を吐き出すスキルだ。

俺が気になったのは、そのスキルを自分が使った時の姿を想像したから。


 まさか、口から火を吐かなきゃいけないのか?

 強力なスキルであることは分かるが、さすがにそれを使うとなると躊躇いが出てしまうな……。絵面的に……。


スキルが増えるのは良い事だが、このスキルの使用については、取り敢えず保留にしておこう。

実際に使ったら、魔人か何かだと勘違いされそうだからな。


 俺は一時退避させておいたライムントの骨を岩の上から拾い上げると、未だぼんやりとしているリゼルに告げる。


「何はともあれ心配事は片付いたことだし、改めてこいつを埋葬しに行こう」

「そうだね」


 二人で納得して行きかけた時だ。


「あ、あの……」


 俺達の背後から声がかかる。

 先程の青年兵士二人だ。

 すっかり存在を忘れていた……。


 呼び止められて振り返ると、彼らは神でも拝むかのようにその場に平伏した。


「あっ、ありがとうございました!」

「あなたのお陰で命が繋がりました。なんとお礼を言ったらいいのやら……。この御恩、決して忘れません!」


 結果的には彼らを助けたことになるが、そこまでされると逆に心苦しい。


「たまたま偶然が重なっただけだ。それより、こんな場所で何を?」


 すると、細面の一人が答える。


「私達はネルキアに向かう道中だったのですが、いきなり濃い霧に遭遇してしまして……。それでこの森に迷い込んでしまったのです。帰り道を探す中で、あのドラゴンに鉢合わせてしまい……」


 なるほど、迷いの山麓にやられた典型的なパターンか。

 予想通り、遭難者だったというわけだ。


 そこで俺は真っ直ぐに森の繁みを指差す。


「街道なら、この方角だ。しばらく進むと俺が残した道標がある。そこからはその印に従って進め。そうすれば森から出られる」


 ここに来るまでの間、俺は道標として木の幹に矢印を刻んできた。

 それは念の為にやったことだが、他にもスピリットから得た情報で正確な方角を把握している。

 だから濃霧ごときでは惑わされたりしない。何しろ、マッパーが本職だったのだからな。


 突然そんな事を言われた兵士達は、きょとんとしていた。

 いくら道標があると言われても濃霧の前では不安にもなる。

 しかし、命を救ってくれた人間の言葉は信用に値すると判断したのだろう。

 彼らは目が覚めたように姿勢を正すと、深く頭を下げた。


「あっ……ありがとうございます! 助かります!」


 それを確認した俺は踵を返す。


「それじゃ、俺はこれで」

「えっ……? ちょっ……」


 あ、ヤバい。

思わず今、俺〝達〟って言ってしまった。

 リゼルが隣にいることが自然になってきてしまっているから、ついポロッと言ってしまう。


 だが、そんなにたいしたミスではない。

 彼らは何か言いたそうだったが、気にせずこのまま去るのが一番。


 俺とリゼルは、そそくさとその場を後にした。


†     †     †


 俺達はライムントの遺骨を埋葬する為、ルカニ湖畔にある小高い丘にやって来ていた。

 高さにしたら城の見張り塔くらいで見晴らしも良い。

立ち籠める霧が足下に漂い、雲海のようにも見える。


「仮の墓にしてはなかなか居心地の良い場所なんじゃないか?」

「うん、これならライムントも喜ぶと思うよ」

「それじゃあ、ここら辺でいいか?」


 俺は自分の足下を指差す。


「うん、いいよ」


 リゼルは了承しながら申し訳なさそうにする。


「ごめんね……私が自分で掘れればいいんだけど……この体じゃあ……ね?」

「分かってる。元よりそのつもりだ。それに手掘りでやるのは大変だからな。魔法で掘らさせてもらう」


 俺は一旦、地面にライムントの頭蓋骨を置くと、土が柔らかそうな場所を確かめる為、その表面に触れる。

と、その時、意想外の事が起きた。


 右手で地面に触れたと同時に眼前に文字が浮かび上がる。


[獲得スキル]

 ドラゴニックブレイズ(魔物スキル)


「は? どういう事だ?」

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