第27話 サルベージ


 思いも寄らぬ依頼にリゼルは慌てる。


「私が潜るの!? な、なんで??」

「遺骨を拾うことが出来る〝手〟があるからさ」

「??」


 意味が分からず彼女は目を白黒させる。


「確かに手はあるけど……知っての通り、私は死霊レイスだから物は掴めないよ? 部屋の鍵を開けた時みたいに霊力で……っていうのなら、頑張っても人差し指くらいの高さまでしか持ち上げられないし……」

「それは分かってる。だから一工夫するのさ」

「工夫??」


 首を傾げる彼女の前で、俺はスキルを使用する。


 ――魔法付与・ブラスト。


 途端、リゼルの体に風がまとわり付く。


「わわっ!? な、何これ??」

「ブラストの魔法を付与したのさ」

「魔法付与って……私みたいな霊体にも出来るの??」

「まあな」


 無機物限定だった魔法付与も既にスピリット達に使用して実証済み。

 なら、同じ霊体であるリゼルにも当然使えるのではないかと思ったのだ。


「ブラストは突風を起こす魔法だ。その風が体の表面にまとわり付いていることで、水中では膜を張ったようになる。その状態ならば物を掴めるはずだ」


 それを伝えると、リゼルは目を見張る。


「……! す、すごい……すごいよ! そんな事を思い付くなんて……もしかしてジルクは神様の生まれ変わりなんじゃ!?」

「それは言い過ぎだろ」

「でも、それぐらい感動したんだよ。この体で物に触れられるなんて夢みたいだもの」


 彼女は子供みたいに目を輝かせていた。


 俺からしたら、霊体なら息継ぎの心配とかいらないな……程度にしか思っていなかったんだが……。

 まあ本人が喜んでいるのなら、それでいいか。


「それじゃあ早速、行ってくる!」

「おう」


 彼女は元気良く手を上げると、湖の中へと飛び込んで行った。


「見つけたーっ!」

「早いな!」


 少しばかり木陰で休憩でも、と思っていた所に物凄い速さで戻ってきたから驚いた。

 水面から上半身を出した彼女の手には、ライムントのものと思しき頭蓋骨が載っていた。


「でかした」

「へへへ」


 彼女は嬉しそうに水から上がる。


「形が残っているのは頭の骨くらいしかなかったよ。他は細かくなりすぎていたし、ほとんどが流されちゃったみたい」

「それだけあれば問題無いさ」

「じゃあこれ」


そのままリゼルは頭蓋骨を俺に手渡してくる。


「いいのか? 仲間だった奴なんだろ。まずはお前が弔いの言葉をかけてやるべきなんじゃないのか?」


 すると彼女は笑みを浮かべながら首を横に振る。


「もしライムントがここでしゃべれたら、『私の事は後でいい。その少年に力を貸してやってくれ』って言うだろうから」

「そうか……」


 ライムントという人間の為人がリゼルを通してなんとなく伝わってくる。

 控え目で、強く優しい……そんな人格の持ち主。


 リゼルから頭蓋骨を受け取った俺は、右手で頭頂部の辺りに触れる。


[獲得スキル]

サンドストーム(土魔法スキル・初級)

ソイルジェイル(土魔法スキル・中級)

ソイルメーカー(土魔法スキル・上級)

メテオストライク(土魔法スキル・超級)

魔法付与・超級(付与スキル)

魔力変換工場マギカプラント(特殊スキル)


「おお……」


 思わず声が漏れる。


 さすがは勇者を支えた大魔導師、納得のスキルだ。

 土魔法を得意としていたのか、その系統が充実している。

 スキルの数も普通の冒険者と比べてかなり多いし、それに超級ランクのものが二つもある。


 わざわざ、ここまで足を運んだ甲斐があったな。

 思っていた以上の成果に満足していると、新たな通知が表示される。


[ランクアップ]

 魔法付与・極級(付与スキル)


[ボーナススキル]

 全付与シーリングマスター(特殊スキル)


 魔法付与も極級になったか。

 この流れは身体能力向上の時と同じだな。

ボーナススキルは全付与シーリングマスターか……。


 普通の付与とは何が違うのだろう?

気になって詳細プロパティを覗いてみる。


「!」


 内容を見て言葉を失った。

 それくらい衝撃的だったのだ。

 と、同時に自分でも気味が悪くなるくらいの笑みが溢れる。


「ふふ……」

「どうしたの? ライムントのスキルがそんなに良かったの?」


 リゼルが訝しげに尋ねてくる。


「ああ……まあな。素晴らしいスキルだったよ」

「そっか、良かった。ライムントも喜んでると思うよ」


 彼女が安堵すると同時に体にまとっていた魔法が解ける。

 付与効果が切れたのだ。


「あ……無くなっちゃった」

「永久に効果が続くわけじゃないからな」

「そっかあ……残念だなあ」


 間接的とはいえ、生前と同じように物に触れられたのがかなり嬉しかったのだろう。彼女はガックリと肩を落とした。

 しかし、すぐに顔を上げる。


「でも仕方無いね! 恋しくなったら、またジルクにかけてもらえばいいし!」 

「前向きだな……」


 あっけらかんとしている彼女に羨ましさを感じつつ、俺は手元の頭蓋骨に目をやる。


「で、こいつはどうする? 故郷に葬ってやるのが一番いいと思うが」

「そうだね。ネルキアを大事に思ってる彼だから、そうしてあげたいけれど……」


 今はまだネルキアは、ゲオルクを失ったことでしばらく混乱が続くだろう。

 もう少し落ち着いてから埋葬してやった方が良さそうだが……。


 リゼルも同じことを考えていたようで、


「とりあえず今は、ネルキアが平穏になるまで仮のお墓を作ってあげようと思うんだけど、どう?」

「それには同意する」

「よかった。ライムントってお爺ちゃんみたいな所があって、高い場所から日がな一日、景色を眺めてるのが趣味みたいな人だったんだよね。だから、仮のお墓はあそこがいいんじゃないかな?」


 リゼルは湖の奥に見える小高い丘を指差した。

 霧がかかっていて天辺までは見えないが、それなりの高さがある。


「墳墓らしくていいんじゃないか?」

「じゃあ、そうしよう」


 落ち着いたら後で掘り返しに来て、ネルキアに移す。

そういうことにして、取り敢えずは湖の対岸にある丘に埋葬することを決めた。


 二人してその丘に向かって足を進める。

そんな時だった。


「う、うわぁぁぁぁっ!!」


 突如、近くの森の中から男の悲鳴が聞こえてきた。


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