第4話✿アルバイトは月光夜と共に

 ❁✿✾*✾✿❁︎



 目の前の依頼書に押印された花のような紋を二回トントンとつついた。

 だぶるくりっく、という行動なんですって。

 大体はそれで解凍展開できるよ、と言われたのですがよく解らなかったので、そういうものと思っております。

 すると依頼書の文字が浮かび上がり、数枚のページが浮かび出てきました。


【①本日より2週間分のこの付近での予測と対策】


 というページから読むことにします。

 番号順に読んでね、という姫様の言葉をしっかりと守ります。


「ふむふむ、なるほどです」


 そこにはこの領と周辺の土地に【歪みデストラ】が出現した時の注意書きや行動制限、時間指定などの注意書きが書き込まれておりました。

 歪みが出来てもすぐ対策をすれば、それ自体を消滅るすることは可能です。

 むしろその方が楽なのですが、中には隠蔽工作を講じられたものもあり、気が付いたら歪みが大きくなって中から【異物ディファレス】が出てきてしまいます。

 その【異物ディファレス】を倒すのも私のアルバイト業務に含まれているのです。

 その為の武器や防具、アイテムなどは必要経費としてその都度、メンテナンスや使用感のレポート、こうして欲しいというリクエストも含まれているので、倒して終わり、ではありません。

 その給金がだったとしても。

 なので私は生きていくのに、別のお仕事を受けないといけないわけです。


 閑話休題、です。


 さて、注意項目を読み終えたので、次のページを見る事にします。


【②業務スケジュール】


 基本的に連戦はないのですが、たまーにあるのです。

 なので前日、後日のインターバルが必要になりますので、このスケジュールを把握しておかなければなりません。

 私は手帳を出して、姫様から頂いた5色ぼーるぺんとスケジュール帳、なる便利なすてーしょなりーものを取り出しました。

 スケジュール帳は便利ですね。

 こちらの世界に合わせた月と日付、曜日も記載されていてさらにはその日にメモを書き込めるようにできています。

 さて、では【歪みデストラ】や【異物ディファレス】が出現する場所を時間、注意事項などを書き込みましょうか。


 依頼書全体の把握に2時間ほど費やし、最後に【私信】を読みます。

 忙しい姫様が直筆で書いてくださったものですので、ありがたく読むことにします。


『エルちゃんへ

 移動お疲れ様。無理はしてませんか?お父様とお母様の事はこちらに任せて、エルちゃんは自分の幸せを考えてくださいね。その手伝いはするので、何かあれば頼ってほしいです……』


 等など、後ほど弔問に誰かが来ること、お給料はいつも通り冒険者ギルド経由で振り込んでくれることも書かれていました。


「姫様、有難うございます」


 私は浮かんでいるページの右上にある×を押して全部を閉じ、スケジュール帳を見直しました。


 明後日から2週間のうち、3回ほど【歪みデストラ】の対応があること。

 その内の最後の一つに【異物ディファレス】出現の確率が高いこと。

 それらを記入したスケジュール帳を閉じて、依頼書の内容確認を終わりとしました。


「そろそろ寝ないと……」


 明日からはオニキス様のお手伝いをすることになってます。

 初日に遅刻はダメなのです。



 ❁✿✾*✾✿❁︎



「おはようございます、エル様」

「……はい、おはようございます……」


 あれ?この人はどなたでしょうか?

 なにか懐かしい雰囲気があります。


「私は本日付けでエル様の侍女となりました、エイリアス№3、アーキオーニスと申します。アキとお呼びください」

「えいりあす……もしかして……!」

「はい、エル様。私はエル様のお母様、アルケー様専属の量産型エイリアスでした。紅の姫様よりこちらに送られましたのでよろしくお願いいたします」


 ぺこり、と頭を下げたアキをよく見れば、確かにお母様とよく似ています。

 使命を持っている天司には量産型のエイリアス……分身体が二体、アーキオーニスとライオットというエイリアスで、すっと付き従っていたようです。

 お母様が天界に帰れなくなってからも一緒にいてくれて、戻る際にライオットは付き添いとして、残ったアキは我が家ではなく、オニキス様の所に居たと説明してくれました。

 いずれ、私の役にたつことを望んで。


「ありがとう、アキ。とてもうれしいわ」

「こちらこそ。アルケー様にもよく似ておりますが、エル様は姫様にも似ておられるるんですよ?」

「そうなのですか?」

「はい。天司は元々姫様の分身体のような物なのです。その中で性能がよい者が天司となり、あとは従者として運用されているのです」

「ということは、私は姫様から見たら孫のようなものなのかしら?」

「人間の関係でいえばそうですね。姫様もエル様にはとても愛着を感じておられますから」

「まぁ……!」


 そう言われてしまうと、がぜん殺る気が……すみません、やる気が出てくるというもの。


「では朝ご飯の支度をいたしましょう。オニキス様が食堂でお待ちです」

「解りました。アキ、これから宜しく頼みますね」

「はい、エル様。お心のままに」


 私は着替えようと手持ち鞄から緑色のワンピースを取り出しました。

 あ、この手持ち鞄、魔法鞄マジックバッグになっております。

 手早く着替えて髪を整えると、私は部屋を後にして食堂へと向かいました。


 お仕事頑張ります!

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貧乏令嬢は領地でアルバイトをする事にした 葎璃蓮 @cyowa-rin

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