イヌの耳

 嗅覚の鋭さをウリにするイヌだが、聴覚もなかなかのものである。

 先週、孫娘の小学校の卒業式に出席した。広い体育館の最後部で進行を見守る。足元で盲導犬・エヴァンが手持ち無沙汰のようだ。いよいよ卒業生が一人ひとりあいさつする段になった。

 卒業生は三人。孫娘の声が体育館に響いた時、エヴァンが即座に反応した。それまでゴロゴロしていたのが、顔をあげて壇上に集中したのである。

 そう言えば、家人の足音やクルマの音が聞こえると、落ち着きを失う。うれしいのだろうか。なだめるのが大変である。厳粛な卒業式であり、よく冷静でいたものだ。


 さすが、訓練されている。昨日も感心する出来事があった。

 盲導犬チャリティの詩吟リサイタルが徳島市内であった。県内の盲導犬6頭すべて揃った。盲導犬たちは行儀よく、最前列でユーザーの足元に控えている。

 プログラムは進み、巌流島の吟と舞になった。二人の剣豪が立ち回りを演じ、裂ぱくの気合を発する。エヴァンがそわそわして来た。ただならぬ局面になっているのを察したのだろうか。撫でてやり、落ち着かせる。舞台が終わるのを待ちかねたかのように、座席の私に抱き着いて来た。幕が下りてなかったら、とんだハプニングになっていたところだ。


 大体において、過疎地では刺激が少ない。静かな田舎で、のんびり暮らしていると、イヌの聴覚はますます研ぎ澄まされるのかも知れない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

田舎暮らし 山谷麻也 @mk1624

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ