あの夏、僕らだけの白昼夢

@potato_0624

長いショーの終わり

ある真夏の昼下がり。君と僕は、屋上で2人








心中した。











「ああ〜!!!暑いなぁー!」

ある真夏の朝。この日の最高気温は35℃を超えており、今年1番気温の高い日だった。

「そうだねぇ、まだ家を出てから少ししかしていないのに、汗がびっちょりしてるよ。」

二人の額には汗がつたっている。カバンを日傘代わりにしながら、足早に学校へと向かう。

「げ、変人ワンツーがいる、、、」

「げ、とはなんだ彰人」

学校へ向かう途中、1年生の後輩に会った。冬弥と彰人と言う名前で、二人とも結婚式のスタッフ的なものとしてやったときに仲良く(?)なった。

「お、彰人と冬弥じゃないか、!!!!!」

「うわ、、やべ、、」

「司先輩!」

「な、なんでもないですさようならー!ほら、冬弥行くぞ!」

そう言って冬弥の袖をつかみ、そそくさと学校へ向かってしまった。

「おや、行ってしまったねぇ」

「むう、何か悪いことでもしたか、、?」

「どうしてだろうねぇ」

その意味について知っていた類は、面白いから、とその理由を伝えずにただ司を眺めていたのだった。






「ここを、、、今日は17日だから、、天馬!前に出て解いてくれ」

数学の時間。窓とドアを全て開け、扇風機は強でガンガン回した。それでもまだ暑いのだから、これを全てやめてしまったらすぐ熱中症になるだろう。

「あ、、えーっと、、」

「天馬ー!頑張れー!」

友達が頑張れ、頑張れと応援している。

「ここは、こうだな?!」

「おおー!正解!」

わーっと教室に歓声が響き渡る。そんなにオレは人気なのか!と内心喜んでいるもののそれを隠し、席に着いた。

わー!小さくそんな声が聞こえる。そうだ、そういえば今日は類はこの時間は体育だったな。しっかりやっているのかと下を覗いてみると、ペアを作っているところだったようだ。女子が類の周りに集まっていく。

「あ、、、」

「なんだ?天馬。どうかしたか?」

「いえ!なんでもないです。」

まさか声に出ていたとは。気付くと類はポニーテールの女子とペアを組んでいた。友達はいないのか。

もや、と心のどこかに靄がかかったような気持ちになった。まあいいや。そしてすぐ前を向き、ノートを取った。










「ただいまー」

「あら司!ちょうどいいわね!今ね!咲希と、今週末に船でどこかに行かないかって話をしてたのよー!」

船か。そういえば、本当に小さいとき、乗ったような気がするな。

「船か!いいな!父さんには伝えたのか?」

「ええ!お父さんもいいんじゃないかって!司はどう?」

「行きたいな!久しぶりだしな!」

それに今は暑いから、ちょうどいい気分転換になりそうだ。

「なら決まりね!」

あのとき、『行かない』を選択していたら、どんな風になったんだろうか。






「ただいまー」

「類、おかえりー!あ、ねえ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「何?」

「今週末、ドライブ行かない?」

ドライブか。正直、ドライブはそこまで好きじゃなかった。が、もしかしたら好きになるかも。

「うん。いいよ」

「やったー!場所は後日お父さんと類にLINEするわね」

「うん」

それから家の外に出て、ガレージに入った。

「ドライブか、、楽しみだな。」







週末。辺り一面人で賑わっていて、外の暑さと人の暑さとで溶けてしまいそうだった。

「あっついわねー!咲希、司、大丈夫?」

「オレは大好きだぞ!」

「私も平気ー!」

「ならよかったわ!もうすぐで着くからねー」

すぐ近くの建物に入り、切符を買う。

「あ、もうすぐじゃない!」

「楽しみだね!お兄ちゃん!」

「ああ!」

そして外の船乗り場へといって、階段を登った。

空は入道雲が被った水色。海は太陽に照らされて、綺麗な濃い青色に光っていた。まるで見ているだけで涼しくなれそうな色だった。

「あ、動き出したよー!えへへっ!涼しー♡」

とても嬉しそうにはしゃぐ咲希を見て、思わず嬉しくなった。

「あ!海、綺麗ー!下覗いてみよー!」

「危ないから体出さないでね!」

「もー!大丈夫だよー!」

ふふふ!と嬉しそうに笑う咲希。麦わら帽子を被った妹と青い空は、これ以上ないくらい馴染んでいた。









「あ、そろそろ着くわね。咲希ー!」

、、、、、、

「あら、、?咲希ー?咲希ー!!」

返事が返ってこない。何かあったのか?

「あ、司もいないじゃない。何をやってるのかな!2人とも!」

たたた、と階段を下る。と、そこには妹の靴が片足だけ、司の靴が1組置いてあった。

「まさか、、、、」

「咲希っ?!司、、、、っ?!」







「お兄ちゃん!見て!あそこに魚がいるよ!」

「本当だ!可愛いな!」

「ふふ!もっと近くで見たいなぁ、よいしょ、」

「あ、こら、乗りあげたら___」

ドポン。

え?その一瞬の出来事に、司の脳は混乱した。どぽん?どぽんってなんだ。どぽんって__まさか。

やっと処理が追いついた時、妹は下でバタバタと苦しそうにもがいていた。

「っっっ、、、、、咲希!!!!!!!!!」







「司?!咲希?!お、おとうさ、、、イヤァァァァ!!!!!」

「お客様、どうされました?!」

「む、娘と、息子が、、下に、下に落ちてっ、、、!!!」

あ、そろそろ、息が、

早く救命ボートを____

そこでオレの意識はとだえた。







「、、、、、、咲希ッ!!!」

オレが目を覚ますと、横には色んなチューブに繋がれた妹が横たわっていた。

「、、、、、、司がっ、、、司がしっかり見てなかったからよ!!!!!!!!司があの時、、、あのときとめていれば、、、っ!!!!!」

「お母さん、落ち着いて、」

その横で、涙をため、顔を赤くしながら怒鳴っている母。そして、その母をなだめている父がいた。


オレの、せいで?咲希が、、、?


「そ、んな、、」

プツリ。嫌な夢を見たくない。そういうように、また、意識はそこで途絶えた。











「待ちに待ったドライブね!!!ふふ、1回してみたかったのよ!サービスエリア巡り!」

やっぱりめんどくさいなぁ。こんなことなら家で機械をいじってたかった。

「そうだね。」

「楽しみましょうね!

「「うん!」」



「ふふ、ここのサービスエリア、このコロッケが有名なのよ!」

まず初めに着いたサービスエリアは、そこそこの広さがあり、人も結構多かった。ミンミンとなく蝉の声。辺り一面真っ青な空。車のたくさん止まった駐車場。

全てがなんだか、色鮮やかに見えたような気がした。

「ほら、類も!ぼーっとしてないでたべてみて!」

ぱくっ。

「「どう?!」」

「美味しい、、!」

「良かったー!」「ここを探しておいた甲斐があったよ!」

僕のために。嬉しいな

「ねぇ。早く次に行こうよ」

「お、類も乗り気になったか」

「そうね!行きましょ行きましょ!」

まるで子供のようにはしゃぐ自分の両親。その光景が、とても微笑ましく見えた。







「ふふ、楽しんでる?」

「うん!このメロンパン、とても美味しいよ!!!」

「だろう?頑張って探したんだから」

美味しい。楽しい。嬉しい。そんな三つが揃った今、泣いてしまいそうだった。変人と言われ、避けられ。ショーも、1人でなんかしたくなかった。でも今は?同じ変人仲間がいる。ショーも、4人でできている。一日でも長く、この光景が続いて欲しい。そう思ったとき、

「ッ、、、?!」

ドンッ!ガシャっ、

「あ、、、、」

頭から生暖かい何かが流れる。食べていたものが床に転がる。飲んでいたものも。全て。

そん、な、、、

僕の記憶は、そこまでしか覚えていなかった。






「ん、、、、?」

「ねぇ、どうします?あの子、まだ高校生でしょう。親が急にしんでしまったなんて、言えたもんじゃないですよ、、」

なんだって?親が、、死んだ?



「あの、、、」

「うわっ?!あ、、、類くん。起きたんだね」

「あ、はい。えっと、ここは一体、、?」

頭ではわかっているのに、どうも信じられなかった。

「ここは病院だよ。えっと、、、君にひとつ、伝えたいことがあるんだ。」

「は、はい、、?」

「君の両親はね」









7月22日日曜日 に 死んじゃったんだよ






「え、、?な、なんで、、りょ、両親は、隣に、」

「、、、、、、急でビックリだよね。でも、触ってみて。」

包帯から少し血が滲んでいる。

ぴと、

さっきまで笑顔だったあの顔も。とても暖かかった手のひらも。全てが嘘かのように冷たくなっていた。





「そんな、嘘だ、嘘だ、あぁ 、、」

「類くん、!!」

「言わない方が___」

ぽろり、と涙が頬を伝う感じがしたと共に僕は眠ってしまった。











次の日、僕は家に返された。

父さんと母さんの部屋。あ、、、

部屋のハンガーにかけてあったのは、母さんと喧嘩した翌日、買ってきてくれた紫の洋服だった。でもその時はまだイライラしていて、いらない、着ないって言っちゃったっけ。あれから一度も着なさい、なんて強引に言うことは無かったよね。



「、、、、、、最期くらい、、、、、、着ればよかったなぁ、、、っ、、、父さん、、、母さんっ、、、!!!」








オレのせいで、、?咲希が、、、?


「お母様、こちらに。」

ぐすっ、ずびっ、といった音と共に別の部屋へと両親は運ばれていった。ピッ、ピッ。段々と遅くなっていく。それがまるで子守唄のようで、とても心地よかった。まだ微かに息をしている妹の布団に顔を埋めて、泣きながらオレは言った。



「咲希、ごめんな。あのとき、俺が見ていれば。もっと一歌や志保や穂波とバンドができたのに。宮女でも過ごせたのに。えむや寧々とも、なかよくなれたろうになぁ、、、、オレのせいで、、、、、、ごめん、、、ごめんなっ、、咲希ぃ、、、、!!!!」

ピッ、、、、ピッ、、、、、。

段々と心拍数が減っていく。

ガララらっ。


「咲希、咲希、、、、!!お願い、、、、、、お願いだから、、、、!」



ピーーーーーーーーッ






「うわぁぁぁぁ!!!!!!咲希、、、、、、咲希!!!!!!!!!どうして?!あのとき、いつか、、、いつかスターになって、、咲希に最高のショーを見せると、約束しただろう、、、、?!うわぁぁぁん!!!!咲希、咲希ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!」

必死になって泣き続けた。周りの声など聞こえないほど。喉がちぎれるほど。ずっと、ずっと泣き続けた。

なんで?どうして?あのときオレが行かないって言っていたら、咲希は、こんなにならなかったのに、、?










「父さん、母さん。行ってくるね。」

誰もいない、行ってらっしゃいの聞こえない4帖の玄関。ガチャ。扉を開けて外に出ても、鍵を閉める音が聞こえない。

「っ、、、、」

類はその現実から逃げるように学校へ走っていった。




「行ってきます。」

「行ってらっしゃい。何回も言うけど、司は悪くないからね。あのときのお母さんはおかしかったからなのよ。ごめんね、悪くないからね。

「大丈夫だ!!!辛く、、、ないからっ!!!!!」

「行ってきます!」

「行ってらっしゃい。」

ふたりの声しか聞こえない、いってらっしゃい。

いつもの可愛らしい声でお兄ちゃん、と呼んでくれるその声はもう居ないのだ。考えるだけで涙が出てしまう。司はそこから逃げるよう、学校に向かった。








その日の授業は全く頭に入ってこなかった。

どこか心に穴が空いたようで、そこを埋めるためには何かが必要だ、と問いかけている気がした。




その日。僕は教室を抜け出して校舎裏にいた。誰も来ない、日陰の校舎裏。何故か父と母がここに来てくれるような気がして、いつの間にかここにいたのだ。


「もう、いいかな。」



類は今日やる全てのことを計画した。







放課後。今日は一日がすごく早く感じた。

父と母に

『遅くなるかも。いつか追いかけてきて。』


とメールを残した。


「寧々と、、、えむと、、、類にも、」


『先にスターになっておく!!!!おばあさんやおじいさんになったらここにきてくれ!!!!!!!!!そしてオレの最高のショーを見に来るがいい!!!!』


と一言残して屋上に向かった。

自分でも泣いてしまいそうだった。でも。咲希に、ショーを見せてあげるんだ。

一思いに屋上へかけて言った。



もう、全てが終わるんだ。

寧々とえむと司にも


『こんな奴でも仲間に入れてくれてありがとう』


と一言メールを残して、屋上へと向かった。


そうだ。もう壊してしまおう。いっそのこと。


がしゃん。


無様な音を立ててひしゃげてしまったスマホ。


もう、全部。ぜんぶおさらばだ。






「る、類、、?!」

「そちらこそ!偶然だね。」

「いや、明らかになんかあっただろ、そのスマホ」

、、、、、、、、、、、、

しばらくの沈黙の後、類は静かに口を開いた。



「ねぇ。僕がいきなり、最後に一回だけショーの話をして、実験に付き合ってもらって、演出の案を心ゆくまで聞いてもらって、そして、、、そして、、、」




「踊ろうよって言ったら、君は引き受けてくれるかい?」





「ああ。もちろんだ。お前の心ゆくまで、付き合ってやろう。」



「そして最後は二人だけの特別なフィナーレをするんだ。」




「類の、最高の演出と、」




「司くんの、最高の演技でね」






7月23日 月曜日 17︰24 神山高校 屋上



天馬司 17歳 神代類 17歳

















END

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