1-4

 しばらくすると、智成が名案を思いついた、とばかりに表情を明るくした。


「そうだ。証拠が足りないなら探しに行こう」

「えっ」


 玲華があっけにとられている間に、智成は自分が縛られている縄を解いた。そのまま玲華の縄を解くと、智成は出入り口の扉に張り付き耳をすませた。


「聞いたか西村、ボスが殺されたらしい」

「なんだと!? なんでこんな時に俺らは、見張りをさせられているんだ?」

「ビジネスのためだ。もう少し我慢しろ」


 智成はそっと扉から離れた。


「ダメだ、やっぱり見張りがいる。外に出るのは難しそうだ」

「何人?」

「二人ぐらい」


 玲華に人数を尋ねられて智成が答えると、玲華は無音で扉を開き、あっという間に見張りの二人を締め落とした。


(すげえ……)


「ほら、行くわよ」


 智成は今後、失言をして玲華を怒らせないようにしよう、と心に誓った。


 二人は部屋の外に出て忍足で歩いていると、近くの部屋から、さっきの赤髪の男性がふらりと現れ、慌てて二人は曲がり角に身を隠した。

 赤髪の男性が立ち去ると、智成はその部屋に躊躇なく近づき、扉を開けた。玲華は恐る恐る智成の後ろをついて行き、部屋の中を覗いた。

 部屋の中は、アルコール飲料が大量に転がっていた。焼酎、ワイン、日本酒……度数の強そうなお酒ばかりが床に転がっていた。

 智成が部屋の中を物色していると、意外にも綺麗に片付いた机の上には、高そうなさかずきが日本酒と共に飾られていた。


……。


 智成は無言で部屋を出ると、玲華は慌てて智成について行った。


「ちょっと、待ってよ。……何か証拠は見つかった?」

「うーん、他の人の部屋も見てみよう」


 智成と玲華が並んで廊下を歩いていると、呆気あっけなくヤクザ達に見つかってしまった。


「おい、こら! てめぇら何してるんだ!」

「捕まえろ!」


 そのまま二人はらえられると、元の物置き部屋に閉じ込められてしまった。今度は鍵までかけられたようだ。


「これでもう逃げられないわね」

「そうかな? きっと機会はあるはずだ」


 玲華がうんざりしたように言うと、智成はまだ、証拠を探しに行くことを諦めていないようだった。 


「何喋っている! 黙っていろ!」


 二人が話していると、部屋の外から見張りの怒鳴り声が聞こえて、二人は黙ることになった。


……。


……ぐう。


 唐突に鳴った智成の腹の虫によって、静寂が破られた。


「お腹すいた……」


 智成が小声で言うと、玲華は必死で黙れ、とジェスチャーで伝えていた。

 ちょうどそのタイミングで、ガラガラと代車を引く音が聞こえて扉が開かれた。


「夕食だ。黙って食べろ」


(なんていうタイミング……!)


 玲華は内心で、智成の腹時計の正確さにとても感心していた。

 出てきた夕食は、パンとコーンスープだった。二人は見張りに監視されている中、縄を解かれてもそもそとごはんを食べると、すぐさまヤクザ達に手足を縄で縛られた。

 見張りのヤクザ達二人が部屋から出て行くと、部屋の外で側近の山田と赤髪の篠田が言い争いをする声が聞こえた。何を言っているのか内容は分からないが、どちらも怒りの感情を覚えているようだった。

 智成は耳を澄ませようとするが、見張りのヤクザ達が喋っている声が邪魔して聞こえなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る