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「それにしても、この紅茶を入れたのは誰だ?」

「普段は側近の山田さんがお茶を入れてると思うんですが……」


 中川が何気なくつぶやくと、意外なことに下っ端の森谷から答えが返ってきた。すると、その言葉を聞いたのか、ボスの周りに集まっている野次馬の中からスーツをきっちりと着込んだ一人の男性が前に出てきた。


「濡れ衣ですね。私は紅茶なんて入れてませんよ。確かに普段ボスのお茶を入れてますが、そこにあるランプでコーヒーを入れてます。ボスはコーヒー好きなので」

「じゃあ、なんでここに紅茶があるんだ?」

「知りませんよ。……ですが、大方おおかた佐藤がボスのために入れたんじゃないですか? 恋人ですし」


 野次馬が一人の化粧の濃い女性を避けて後ろに下がった。取り残された女性は観念したのか、中川達の方へゆっくりと歩いて行った。


「そうよ。その紅茶は私が入れた。ブランデーを入れると美味しくなるって聞いたから、ティースプーン3杯ぐらい入れてボスに渡したの。まさかそんなことで死ぬなんて、思いもよらなかったから……」


 佐藤はそう言った後、懺悔するかのように手で顔を覆った。智成は、喜びの表情を隠すためにあえて両手で顔を覆ったのではないかと考えたが、周囲の状況を見て思い直した。

 高田はその話を聞いて何を思ったのか、突然机の引き出しを開けた。そこには、何かの小箱と婚約指輪、サングラスが入っていた。


「このサングラス、いつもボスがしていたやつだ。婚約指輪は姉御に渡す予定だったものか? この小箱は……」

「分かった、もういい高田。とりあえず人質を物置部屋にでも閉じ込めとけ」

「……了ー解ー」


 高田は渋々、智成とブレザーの女性に拳銃を突き付けると、二人を促してボスの部屋から出ていった。


♢♦︎♢


 物置部屋に到着すると、ブレザーの女性の両手を縛っている縄を机の脚に括り付けた。智成も同様に縛ろうとするも、腕が縛られていないことに気づいて唖然とした。


「おいおい……縄はどうした?」

「さあ。気付いたら取れてました」

「お前なぁ……」


 高田はあきれた表情をすると、ポケットから縄を出して智成の両手を後ろで縛り、柱に括り付けた。


「大人しくしとけよ」


 高田は飄々とした雰囲気を一瞬で消して鋭く二人を睨みつけると、部下に扉の前を見張らせ、物置部屋から立ち去った。


……。


 この場に沈黙が訪れ、ブレザーの女性は気まずそうに智成を見た。


「……玲華。私の名前は西園寺玲華よ。あなたは?」

「鷹司智成。西園寺さんだっけ。ちょうど暇だし、今回の事件のことでも話そうか」

「そうね。まず、ボスの死因は急性アルコール中毒の可能性があるわ。ほら、白目が黄色くなっていたでしょ? 黄疸が出るってことは肝機能が衰えてると見て間違いないわね」


 玲華の意見を聞いて、智成は意外に思った。


「詳しいね。医療系の大学目指してるの?」

「……そうよ」


 そう言って玲華は照れたように視線を逸らした。


「そっか。でも、ボスは普段お酒を飲まないって言ってた。しかも、ティースプーン3杯ぐらいでアルコール中毒になるとは思えない」

「そうなのよ。少量のアルコールはむしろ健康に良いから、肝臓を悪くする原因にならないはずなんだけど……」


 しばらく二人で考えるもヒントが足りず、その場で答えを出すことができなかった。

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