第6話 転生初心者と人生初バイト
気づいたら花畑にいた。
そして神様と名乗る人と話をして、ここにやってきた。
ボクはどうやら一度死んでいて、違う世界で蘇るらしい。
「セレネ、聞いてるかい?」
不意に声をかけられ、ボクは顔を上げる。
「ばあや、ごめんね、少しぼーっとしてたみたい」
「そうだね、急に環境が変わったからね、そうなるのも無理はない」
神様と会った時のことは今でも鮮明に思い出せる、と言うか思い出していないと不安になる。
ボクは今、ある地方都市の宿泊施設に滞在している。
第13王女、王族として生まれたボクは5歳になった時にここに連れられてこられた。
理由は教えられていないけど、継承争いとかそういうドラマとか映画みたいな話なんだろう。
特に何か高価なものや王族の証を持たされた訳でもないからボクが誰なのかを理解する人はここにはいないだろう。
それにいまいち、この世界のこともよくわからない。
神様に聞いたことを要約すると中世ヨーロッパのような世界、文化レベルでいうと科学はそれほどで、その代わり魔法が発達している世界みたいだ。
実際に5歳になるまで住んでいたお城は本当に歴史の勉強で出てきた中世にありそうな城そのものだった。
それに魔法、前世の父がやっていたゲームであったような気がする。
小さい頃だからうろ覚えだけどレベルを上げて魔法とかを覚えて敵を倒していくものだったような。
確かに城に住んでいる時に庭園に水を撒く人が手から出しているのを見たことがあるし、廊下のランプは電気がないのに夜間ずっと点いていた。
今までそういったものに触れてこなかったからなのか、神様の話を現実として受け入れるには時間がかかった。
その時にスキルというものの説明も受けた、転生する際の特典のようなものらしい。
入会特典みたいなものが生き返るのにあるのか。
更に現実味のない話で私が呆然としている中、神様はスキル毎に丁寧に説明をしてくれた。
王族に生まれ変わるというのを聞いていたので考えて神様にも何度も聞いてスキルを決めた。
「それでセレネ、来月からだけど住むところが決まってね」
「うん」
ばあやと呼んでいるが血は繋がっていない、生まれた時からの教育係のような人だ。
そんな人が口ごもっている、住むところは酷いところなのかな。
「どこでも大丈夫だから言って、ばあや」
そういうとばあやは涙を流して話す。
「この街の貧民街、ス、スラム街なんだよ」
ばあやが嗚咽交じりに答えてくれた。
私はそんなばあやを見ながら、前世でいつか見た映画のワンシーンを思い浮かべる。
ボロボロの家に喧嘩が絶えない街、スラム、貧困層が住む場所、そしてこれからボクが生きる場所。
いくつもの季節が過ぎて、ボクは10歳になった。
前世でいうと小学校4~5年かな。
この5年は日常生活を送りながらこの世界のことを勉強というか神様に言われたことと照らし合わせて理解をする期間が半分以上だった。
でもここはお城の生活より自由だし、周りの人も良くしてくれる。
「セーちゃん、遊ぼうよ」
5~6歳の子が声をかけてきた、近所の子たちが集まってくる。
「ごめんね、今日もお仕事の日だから」
10歳にして仕事をする、日本では考えられないことだが最低限自分の食い扶持は自分で得なければ。
それにばあやも腰を悪くしてから体調が良くない、私が稼がないと。
「セレネはほんとに良く働くよね、私たちもまだ働いてないのに」
同年代ぐらいの男の子にそんなことを言われる。
「あはは、働くの好きだし、あんまり疲れないんだよね、それじゃ行ってくるね」
そう言って手を振ってその場を離れる。
職場につくまでの日課をしよう。
ステータスと念じると現れる文字の羅列、レベルと各種のパラメータが見られるようになっている。
これの意味を理解するまでに少し時間がかかったけど経験値は何かをやる度に数字が増え、一定値までいくとレベルが上がり、各種ステータスが上がる。
そして私が持つスキルは転生特典の基礎スキルが言語理解、体力底上げ、美的感覚、応用スキルが拡声効果、女王の魅力、以心伝心、この6つ。
その他日々の生活で習得したスキルはこんな感じになった。
天啓スキル 5神の加護(極)
基礎スキル 言語理解、体力底上げ、美的感覚、泥かぶり、悪食、歌い手、踊り子、働き者、転生者
応用スキル 拡声効果、女王の魅力、以心伝心
基礎スキルには救われている、肉体的なステータスが底上げされていると実感できたのは他の同世代の子たちとの差がわかってからだけど。
歌い手と踊り子は前世の名残かな、仕事中の鼻歌とかステップで貰えるスキルではないと思うけど、店で働いていたら自然と得ることができた。
泥まみれと悪食はお城の生活から変わったからだと思うけど、来たばかりの時はよく体調を崩していた、それが功を奏したのかな。
応用スキルは以心伝心以外使うことはないだろう、と言うか以心伝心も使っている実感はない。
もっといいスキルを取ればよかったな、と最初は思うこともあったけど生活も出来てるし、今は特典だとしても貰えたことに感謝して生活してる日々だ。
そうこうしていると目的地についた。
「こんにちはー」
西部劇の酒場のような建物、挨拶をしながら古い木の扉を開ける。
「おー、今日も元気だな、セー坊」
「レディにその呼び方は失礼だろ」
店舗の奥から2人の声が聞こえる、この街でバルを営んでいるクレイとスレイ兄弟。
クレイが40ぐらい、スレイが30代半ばという感じかな。
人族で元魔族大陸の冒険者だったって言うのは有名な話。
腕っぷしは強いし、頭も切れるのに何でここで飲食店をやってるのかはわからないけど、私を雇ってくれたありがたい人たちだ。
「ありがとスレイ、でも大丈夫だよ」
「ほら見ろ」
「くっ、できるなら俺はセレネ嬢と呼びたいのに」
「雇ってる子を嬢呼ばわりしてる飲食店がどこにあるんだよ」
そう言ってクレイはスレイをこずく。
「いってぇな、セレネ嬢の気品がわからないのかよ」
「人にはそれぞれ言えないこともあるだろうさ、なぁ、セー坊」
クレイはこちらに話を振ってきた。
「あはは、そうだね、でもボクはボクだから気にしないでいつもどおり普通に接してよ」
こうして仕事が始まる。
ボクはこの店のウェイトレスとして生計をたてている、今日もがんばろう。
この世界で生きていくために。
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