第5話 ヲタクの言い換えと選ぶ道
私は占い師に手を引かれ、テントに入る。
両親はテンションが上がっていて、何やら世界を取るみたいなことを2人で話しているのがテントに入るときに聞こえた。
「さて、まさか気になったって言う本人が最後になるなんてね」
「え?」
不意に占い師から話された内容にびっくりした。
外で話していた会話が聞こえていたの?距離もあったし、まさかね。
「大丈夫、全部聞こえてるから」
「ど、どちら様ですか?」
「君はこういった入り方をする人に心当たりがあるんじゃないかな?」
そう聞かれた私の頭の中では瞬時に異世界ものだと定番だけど神様、もしくは悪魔。
そう考えが浮かんでいた。
「そうだね、前者だよ」
「そう言われても信じられないです」
私は頭を切り替える。
前世の自分を出してもいいだろう。
そして神にはもう会っている、生まれ変わる前に。
あのヲタ神とのやり取りは不思議と今でも鮮明に思い出せる。
「その神から言われなかったかな?」
「なにも、、、」
「本当かな?よく思い出してごらん?」
そう言われてあの神とのやり取りが自然に思い出される。
そういえば最後に何かを言いかけていたような。
「それだよ、他の神には負けないように、そう言われたんだね」
「勝手に頭の中を覗かないでください」
異世界もので定番のこのやり取り、転生後とはいえ実際に体験すると気分がいいものではない。
ヲタク神はそこらへん配慮してくれてたんだわ。
「ごめんごめん、現世に来るのも簡単じゃないし、話をスムーズに進める為の手法だと思ってよ。ほんとは担当外の転生者と会うのはまずいんだ」
「わかったわ、そしてその考えを読む力で両親と話したのね」
「そう、考え方、気持ちを理解して、且つ煽ってあげた。でもあの2人の潜在能力と心の中の目標を見定めた上で伝えてるからね、嘘は言っていないよ」
私が言う前に占い師は聞きたいことを喋りだした。
「それにしてもあいつめ、良いところに転生させたなぁ。私のところは王族だけど捨てられちゃったからなぁ」
私のところ?
「あ、もしかしてショートボブの子の担当なの?」
私の脳裏にはあのかわいいボクっ子が浮かんだ。
「そう、君、察しがいいね。やっぱり元の知識があるのとないのとじゃ、雲泥の差だ」
「待って、あの子は王族なの?捨てられたってどういうこと?」
「そこまでは教えられないかな、というかこんな簡単に喋っちゃった私もいけないね」
占い師はてへぺろと文字が出るような仕草をする。
「あの子は異世界の知識が乏しくてね、転生する際にも答えられるものは最大限答えたんだけど質問内容はもちろん取得したスキルとかも今の状態だと微妙なものがあったりで、生きていけるか不安なんだ」
そう言われた私は頭がカッとなった。
「ちょっとあんた神なんでしょ、転生させといてそれは勝手なんじゃないの」
「それがあの子の運命ってことだよ。そして私は運命の神じゃない」
「それじゃ、どうやって救うのよ、人々を!」
「私たちへの信仰、それに私たちの気まぐれ、この二択かしら」
言い切られた。
理不尽過ぎるけど、神が言うのだから正しいのだろう。
「そう、それが答え。そしてここからは私の気まぐれ」
「気まぐれ?」
「転生させたものとして成人する15歳までは神の加護が普通の人よりもかなり強力に施されてるから、それまでにあの子を見つけて救えないかな」
「なんで私に」
「一緒に死んで一緒に転生した縁、同じ世界の出身、そんな理由じゃダメ?」
あの子の笑顔が脳裏によぎる。
「こちらの勝手だけどあなたの責任感にも訴えさせてもらうわ」
「どうすればいいのよ」
「ありがとう、詳しくは伝えられないけどあの子はこの大陸にいるわ。今はここから南西の中規模都市、その中でも貧困層が暮らしているエリアにいる」
「王族から貧困層、、、15歳までに見つけられなかった場合は?」
「そこから先はわからない、神の加護も弱まるし、あの子が得たスキルをどれだけ鍛えて利用できるか、あとは新たに取得するスキルにもよるだろうけど」
私は考える、何が最善か、どう動けばいいのか。そこで両親の顔が思い浮かぶ。
「私の両親には何を話したの?」
フードの中で口元が笑顔になる。
「君、ほんと察しがいいね。君の両親にはそれぞれにそれぞれの役割に応じて大陸で名を残せるって伝えてあるよ」
「名を残せるって広める方法があるってことね。そして君はやめて、私はアルテス。そういえばあなたは?」
私が聞くとフードを取り外す、ヲタクとは違い、エルフのような顔立ちの女性だ。
「あー、そうだね、自己紹介がまだだった」
そう言うといつの間にか白マントを羽織り、少し浮き、光り出すと神々しいオーラを身にまとう。
デジャヴ、ちょ、テントから光漏れないかしら。
「私はこの星の五神が一神、オッ・カリオペー・ケインズである」
呆然とする私。
「ふふ、少し派手だったかな、あの子もびっくりして硬直してたよ」
「いや、ジャンルも含めてあのヲタク神と全く一緒だったから、神様はみんな一緒なのかと。というかオッカケって呼んでいい?いや、そう呼ぶわ」
そういうと狼狽える追っかけ。
「な、あいつも同じ登場の仕方?せっかく3日も寝ずに考えたのに、、、それに何でオッカケ?」
「ヲタク神もだけど、頭文字よ、オッカケ」
そう言うとがっくりと四つん這いになる追っかけ。
背中のマントには推の文字が、ヲタクの時と同じ感情が蘇りそうになるのを頭を振って弾き飛ばす。
「それはそうとあの子の名前を教えてよ、それもダメなの?」
ふらふらと立ち上がるとぼそぼそと喋りだす。
「ぶつぶつ…セ…レ…ぶつぶつ」
もう、何なのこの星の神たちは。
「そんなこと言われても、ぶつぶつ、確かに好きなもの追っかけちゃうけど、ぶつぶつ」
「あの子の名前はなんていうの?聞こえる声で教えて、美しくて賢い神様」
そう言われて少し持ち直した追っかけは答える。
「今世ではセレネ、って呼ばれているよ」
「セレネか、いい名前ね、前世だと月の女神の名前ね」
「どうなんだろう、君たちの世界とは違うと思うし、何よりこの世界に運命の神はいないと思うから偶然だと思うけど」
「思う?」
「私たちは五神と呼ばれてる神だけど、神同士の交流もそんなにないから何とも言えないかな。」
「ふーん、そんな感じなんだね」
追っかけ神はだいぶ落ち着いたように見え、親近感すら沸く雰囲気を纏っている。
「セレネは出来る限り探すわ、でも何かヒントみたいなものはないの?」
そう話しかけると追っかけ神の身体が少し透けているように見えた。
「そうだね、ヒントか、神に愛されてる、これがヒントかな。そしてそろそろ時間だ、話がそれたりもしたけど、私が選んだ萌えちゃうセレネのこと、宜しくね」
頭を抱えて私はそっとテントから出た。
両親はどうだったかと聞いてきたので目標が出来たと答える。
第一目標、セレネを見つける、これに決まった。
帰路につく前に振り返るとテント自体が無くなっていた。
神様の悪戯は前世も今世も人を巻き込むのね。
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