第18話 カノの力、すごくねって話

静まり返ったリビング。

4人の視線の先には空中に液体が浮いている光景。

液体が止まっていると認識されないのはその浮いている状態でも液体から湯気が出ているからだ。

コースケは目の前にある液体を見てから、周囲を見る。

ソファに座りながらも目を見開いている九葉隆、中腰のまま普段見ることのない形相の比屋根リュウジ、そして片手をこちらに向け、安堵の表情を浮かべているコースケの想い人、須堂カノ。

コースケは声をかける。

「カノが助けてくれたの?」

そう言うとカノは少しはにかみながら頷く。

「そう、なんだけど、このままキッチンに運ぶから」

それを聞いたコースケはテーブルにカラになったカップを置き、液体のそばを離れる。

カノはカップからこぼれた形のままだった液体を空中で丸状にまとめると、そのままフワフワと浮かせながらキッチンのシンクに向かう。

それを追うようにコースケも後に続いた。


リビングに残されたリュウジと隆。

想像していなかった光景に2人とも呆然としてしまっていた。

「比屋根さん、あれは」

隆にそう聞かれたリュウジも首を横に振りながら。

「わからん、呪術としての波動は感じなかった。九葉さんの眼と同じ、かどうかはわからんが、あれが彼女が前世から受け継いだ力なんだろう」

「そうですか、私の眼では須堂さんのオーラが大きくなったと思ったら、ああなっていました」

「また別の力と言う訳か。ちなみに九葉さんは前世がロボットと言ってたけど、この世界かな?」

質問の意図を察した隆は答える。

「違う世界ですね。根本から違う世界です」

「そうか、輪廻転生、仏教の考え方だが転生先がこの世界だけとは限らんからな」

「正直、こういった細かい話をするのも初めてなので、しかもあれを見た後ですから戸惑ってはいますが、私も前世の記憶が覚醒した際に世界の違いに驚きました」

「須堂さんも同じ可能性が高い、か」

そう言うと2人はそのまま何かを思案する。


キッチンに向かう途中、カノに追いついたコースケは丸まった液体を指先でつついたりと興味津々だ。

そしてキッチンについたカノはコースケが見守る中、浮かせている液体をシンクにゆっくりと落とした。

「すげぇ」

感嘆としたコースケの声が横から聞こえたのでちらりと見ると、

その視線はカノの手とシンクを行ったり来たりしていた。

「疑問に思ってたんだけど前に、雪道で助けてくれたのってもしかしてこの力?」

「ネコが滑った時だよね?うん、この力を使った。たった今バレちゃったけどね」

カブキ町での爆破事件があった日だ、あの公園での出来事はカノも覚えている、と言うよりもこれから先も忘れられないだろう。

今までも群衆の中で力を使ったことはあった。

倒れそうになるベビーカーを見て、バランスを取るようにギリギリのところで止めたり。

子供が舐めているアイスクリームが崩れそうになったのを見て、崩れないように維持したり。

杖をついていたおじいちゃんがつまずいたのを見て、慌てて身体を固定して杖で持ち直したように見せたり。

これ以外にもあるが、どれも自分とは関係のない第三者、しかも偶々視界に入った人たちだ。

生まれてから自分のこの力を制御しようと鍛えるほどに力は強くなり、また繊細な使い方も出来るようになっていたが、身近な人でコースケの時のような場面、もしかしたら大けがをするかもしれない場面には遭遇していなかった。

それでもよく反射的に力を使えたと自分でもあの時はほっとすると共に自信にも繋がった。

「改めてお礼言わせてね、助けてくれてありがとう」

そう言ってコースケはいつもの笑顔をカノに向けた。

「どういたしまして」

カノは先ほどの前世のことも含めてこの世界で初めて自分を打ち明けたのがコースケでよかったと思った。

自然と笑顔になるほどに。

「ちょ、その笑顔は反則」

コースケはカノの顔を見て即座に後ろを向いて呟く。

「なになに、なんて言ったの」

「な、なんでもないって」

キッチンから聞こえる子供たちの笑い声が聞こえる。

リビングで思案顔の2人はこの声で現実に引き戻されたのだった。


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