第12話 比屋根家はすごいって話
それぞれの手元にある飲み物がまだ白い湯気を出している。
テレビからは駅からの黒煙を背景にレポーターが的確に現場の様子を伝え、その画面から警察や消防が一般人を誘導、もしくは搬送しているのが見えた。
室内ではその爆破の原因についての話し合いが始まろうとしていた。
「ではこちらで知っている情報は全て開示します。ただ、皆さんが想定している以上に少ないと思っておいてください」
そういうと隆は持参したノートパソコンを開き、1回目のカブキ町、2回目のヨドバシ市場、それぞれの詳細、ネコを助けた際に少女と思われる存在と遭遇した話、カブキ町での防犯カメラに映っていた映像の解析結果から爆破時の状況の説明をする。
「やっぱ防犯カメラでも姿が見えなかったのか?」
コースケは気になっていたことを隆に聞いた。
「えぇ、そうですね。カメラの映像には至近距離で爆破の衝撃を受け、亡くなった男性が1人で何かをしているのが映っていました。最初は何をしているかわかりませんでしたがリュウジさんのおかげでヨドバシ市場での件と同じ人物、あの少女と判明したので謎は解けました。」
「カブキ町にもあの少女がいたと?」
リュウジが再度聞く。
「はい、カブキ町の男性の目線、仕草を考えると例の少女と会話をしていたと思われます」
「その人だけに見えてたんですか?」
カノが聞く。
「その回答についてはたぶんとしかお答えができないです。カブキ町での爆発はヨドバシ市場、タカダノババ駅と比べると小規模でしたので被害に遭われた方々、通行人、現場近くの店舗にいた方にも話は聞いたのですが確証はない状況です。」
「まぁ、そうだよな、みんながみんな見てるなんてことないもんな」
隆の意見にコースケは肯定する。
「それとヨドバシ市場の爆破はカブキ町よりも規模が大きいものでしたので施設内の防犯カメラが何カ所か壊れていましたがデータは無事だったようです。先ほど解析結果が出たとメールで来ていたのでちょっと見てみますね」
「え、俺も見てみたいな」
「コースケ、捜査資料だ、やめておけ」
コースケが興味を示すもリュウジに諭される。
「そうなんですけど、実は皆さんにも見てもらいたいという気持ちがありまして」
隆は申し訳なさそうにリュウジに伝える。
「警察や私では見つけられない何かがある可能性があったので」
「やった、俺は見るぜ」
「そう言われるのであれば」
コースケとリュウジが即答する中、カノが躊躇しているのを見て隆は伝える。
「ただ、テレビで見るような修正されたものではないので、心してください。人が亡くなる映像ですから」
隆がそう伝えるとコースケはたじろいだがリュウジは隆の隣に陣取った。
「まず、私が見よう。2人はちょっと待っていなさい」
リュウジの言葉にカノとコースケは安堵する。
「では1回目のカブキ町から」
隆はそういうと持参したノートパソコンを操作する。
「続いて2回目のヨドバシ市場」
時間にして10分程度だろうか、パソコンを眺めるリュウジを見守る2人。
「ふぅ、確かに一般人の私が見るのは正直しんどい映像だ」
見終わるとリュウジは目頭をつまむ。
「大丈夫ですか?」
隆がリュウジに声をかける。
「えぇ。もう一度カブキ町を見させてもらってもいいですか?」
そういうと再度パソコンを注視する。
「わかりました」
隆はパソコンを操作する。
するとリュウジは動画の停止やスロー再生、映像の拡大など、隆に指示を出す。
改めて映像を見終わったリュウジは目を瞑る。
「私は事件の現場自体は初めて見るがこれはやはり呪術の類によるもののように見える、特に1回目が顕著に感じました」
「呪術、そうですか、ちなみにどのあたりに感じたのか伺ってもいいですか?」
「爆発の光、衝撃波の形。あとは特有の空気の歪み、纏わり方、かな」
「感謝です。私の目で視てもそういった特有のものまではわかりませんでした。衝撃痕、規模、そこから私個人の刑事の勘と言う名の違和感ぐらいで」
「刑事の勘からの違和感と言うのは?」
「はい、至近距離で巻き込まれた割に衝撃痕が綺麗に残っていること、殺傷能力は決して高くはないということ、犯行声明が未だに出なかったこと。衝撃痕についてはヨドバシ市場の防犯カメラを確認できたから確信したという感じですし、犯行声明についてもヨドバシ市場でコースケ君を発見した一連の件でこれは声明なんて出ないって思いましたから」
「なるほど」
カノとコースケは2人のやり取りを静かに見守っている。
リュウジはコースケに目線を送り、少し悩んだあとに話し出した。
「九葉さん、貴方を信頼して話をします。」
「はい、心してお聞きします」
「コースケも、それに巻き込んじまうが須堂さんも聞いてほしい」
「おう」
「はい」
リュウジの雰囲気が変わったのを察し、全員が姿勢を正した。
「私は沖縄のユタ一族に籍を置くもの、所謂、世間一般で言う呪術師の一族だ。」
リュウジはゆっくりと瞼を閉じ、同じ速さで開くとコースケを一瞥した後に。
「そして、コースケは一族の中でもその血を一番色濃く受け継いでいる。」
「それがあの聴力という形で?」
隆が聞くとリュウジは頷く。
「そう、ただ聴力と言うか、より固定されたエリアの音を拾う感じだろうか」
リュウジはそう言うとコースケを見る。
それを受けたコースケは頷いたあとに話し出す。
「今は大体シンジュク区だったら音は拾えるかな、でも今はアイツの声を優先的に聴こえるようにしてあるからエリアを薄めて、特定の対象に比重を置いてるよ」
コースケは補足する。
「それは、想像以上ですね。この話はどこにも報告しないと誓います」
隆はリュウジとコースケを見ながら、誓う。
「そうしてくれると助かります。コースケが人間に狙われるのは本当に辛いので。」
「そうですね、悪用しようとしたら国家権力を使ってでもコースケ君を確保しにくる案件かと思います。」
隆は納得している、カノはコースケの力を聞いて同じく理解した。
「それで私はそのユタの力を使ってコースケを守る。具体的には先ほどの呪法でね」
「石と印のやつですよね、ちなみにコースケ君は使えるのですか?」
タカダノババ駅前で少女に相対したリュウジを思い出しながら隆は聞く。
「事情があって、コースケに教える予定はない」
「そうですか、ちなみに比屋根さん、何かしら攻撃の手段ってありますか?」
聞かれたリュウジは首を横に振る。
「残念ながらユタ一族の呪法は守ることに特化している。悪霊の類であれば跋除(ばつじょ)するやり方はあるがあの者と対峙した感じだと悪霊ではなさそうだった、むしろ対極にある神聖な雰囲気すら感じたよ」
リュウジの台詞にカノも自然と頷いていた。
そしてあの少女に感じた違和感を伝えようと決めた。
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