第11話 隠れ家になるって話

タカダノババ駅は爆発の影響で喧騒に包まれていた。

2日前のカブキ町に続き、午前中にヨドバシ市場で爆破事件があったばかりで警察、消防も対応に追われていた。

そんな中、カノ、コースケ、リュウジ、隆の4人はリュウジが結界を解くのと併せて車に乗り込み、道路封鎖が始まる前に話せる場所まで移動を開始しようとしていた。

「親父、どこ向かう?」

「どこかそこらへんの喫茶店で話せる内容じゃないからなぁ。今のタカダノババ駅を超えるのは難しいだろうし、逆方向からでも向かえるから、うちに来てもらおうかな」

比屋根親子が目的地を決めると隆が頷きながら話をする。

「そうですね、署でもいいですが皆さんのことを一から説明する時間も惜しいので、それだと助かります」

「それでは東シンジュク駅方面に向かってください」

隆が運転、リュウジが助手席でナビをしている中、後部座席ではコースケがカノの表情を見て話しかけた。

「カノ、大丈夫?」

「うん、大丈夫だけど、あの子は何なんだろう」

「あの子?」

「そう、あの女の子」

姿は女の子だが中身は老練な男性だ、それを女の子と称することにコースケは違和感を覚えた。

「あいつ、じじぃだぜ?」

「うーん、そうなのかな」

カノは顎に手をあて考える。

「俺は2回目だけど外見だけ女の子で中身はじじぃ、やってることは酷い、俺も死にかけたんだから」

「そうだよね、ちなみにネコが会ったときってあの子はどんな感じだったの?」

「ネ、、、ど、どんなって、うーん」

不意にネコと呼ばれたコースケは照れながらも顎に手をあて考える、そして思い出す。

「あ、俺に何かしてた時は泣いてたわ」

「泣いてたって、涙を流してたの?」

「そう、思い出した、じじぃの声で笑いながら、目から涙流してた。さっきも出てきたときは泣いてたぜ」

カノは、カノだけに見えたかもしれない違和感をどう説明すればいいか悩んでいた。

初めての状況で軽くパニックを起こしていたのかもしれない、それに確証もないのに自分以外の3人が共通して考えていることに水を差す訳にもいかない。

「ひどいことしてるのに泣くなんておかしいね」

カノはそう言うのが精一杯だった。

「あんま気にしない方がいいよ、あいつのせいで何人がケガしてるか、と言うか今回は死んでる人だっていると思うぜ」

すると前から隆が話に割って入ってくる。

「最初の爆破で既に1人は亡くなってますね、2回目のヨドバシ市場では2人死亡、10人以上が重・軽傷者として搬送されています。死亡者が増えるかもしれませんが今回の3回目では更に増えそうです」

そう隆が補足する。

「見た目に惑わされるなって言う典型だよな、親父」

コースケはそういうとそのままリュウジと話し出した。

その様子を見ながらカノは疑問を持ちつつ、目的地へと向かう。


タカダノババ駅から渋滞の中、30分近く掛けて比屋根家が住むマンションに到着する。

通常だと10分程度の道のりだが事件の影響で時間がかかってしまったが、マンションの近くにあるコインパーキングに車を止める。

「ようやく着いたー」

コースケは車から出ると大きくノビをしている。

「それでは私についてきて」

息子の横をそっと通り過ぎるリュウジの後に続いて隆とカノが歩いて通り過ぎる。

「え、ちょ、待ってって」

慌てて追いかけるコースケを見て、爆破事件や得体の知れない少女との邂逅と緊張状態が続いて、ほっとしたのか口元を少し緩めるカノ。

そのカノの顔を見つつ、コースケはカノの横に並び、歩き出す。


13階建てのマンションのオートロックをくぐり、エレベーターに乗り込むと7階のボタンを押すリュウジ。

707号室、ここがコースケとリュウジが2人で住む部屋。

リュウジの案内により室内に入室した隆とカノはリビングに通される。

コースケはテレビをつけ、リュウジはキッチンに消えていった。

テレビではタカダノババ駅を上空から写したニュースが流れている。

ふとカノは窓の外を見る。

陽が暮れ始め、建物の明かりがチラホラと煌めき出すのと併せて空に上がる黒煙が目に付く中、複数のサイレンが窓越しに聞こえてきた。

それに応じるようにテレビ内の音声も大きくなっているように感じてしまう。

中継先では消防士や警察官が大勢見えた、駅前の道路で進めずにいる緊急車両もいるようだ。

「ひどいな」

コースケはテレビの前を陣取り食い入るように見ている。

隆は立ちながらテレビとコースケを見ているようだ。

「空いてるとこに座ってください」

リュウジがキッチンから声をかけてきた。

「皆さん、珈琲か紅茶だとどちらがいいですか?」

カノは紅茶、ネコとリュウジ、隆は珈琲、それぞれの分が用意され、ソファに腰を下ろす。

リュウジは全員を見て、話を切り出した。

「さて、九葉さん、たぶん時間もあまりないだろう。話をお願いします。」

隆は頷きながら話す。

「はい、私が知る限りのものはお伝えします」

誰かが座りなおしたのか、ソファが軋む音が聞こえた。


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