第13話 2章:触手と姫騎士(8)

 赤石も含めた三人が乗り込んだのはヘリだった。


「ここを見て」


 揺れる機内で、真白さんがノートPCのモニターを指さした。

 映っているのは、司令室で見た衛星映像だ。

 爆弾によって、害異の肉が周囲に飛び散っている。


「やっぱり爆弾が効いてるんですね」

「もっとよく見て」


 害異の肉片が蠢いている。

 速度が遅いのでよくわからないが、本体と同様、東京方面に向かっているようにも見える。

 肉片が触れたものは、白い煙を上げて溶けていく。

 さらに肉片の一つ一つが、イソギンチャクの形に変化しているような……。


「もしかして、分裂……?」

「おそらくね」


 真白さんは厳しい顔をする。


「でも燃料気化爆弾で焼き尽くせるなら倒せるんじゃないですか?」

「だといいけど……」


 ミサイルの2発目が着弾したのはその時だった。


『着弾を確認! 害異、侵攻を停止! 心臓部露出! いえ……硬い何かに護られています!』


 オペレーターの声が、イヤモニを通して僕の耳にも届く。


 ノートPCに映ったリアルタイム映像には、上部2割以上が吹き飛んたイソギンチャク。

 その内側に、白い肉壁のような何かが見える。壁には焦げ後すら見当たらない。

 心臓はあの中だろうか?


「攻撃を中止して!」


 真白さんがヘッドセットマイクに向かって何かを叫んでいる。


「バカね! 見えないの!? 飛び散ってるだけで、体積はほとんど減ってない! 被害が拡大するだけよ!」


 たしかに、肉片となって蠢くイソギンチャクは、かき集めれば吹き飛んだ部分くらいのサイズになりそうだ。

 さらに、本体は移動を止めたものの、肉片はそれぞれがイソギンチャクの形となり、侵攻を開始する。


「本体、再生してませんか?」

「してるわね……」


 吹き飛んた上部が、少しずつ再生を始めている。

 燃料気化爆弾を使うほど、害異の攻撃範囲が広がるってことだ。


「あんなの、剣と盾でなんとかなるんでしょうか……」


 姫騎士化した赤石の攻撃方法は、前回見た限りでは近接ばかりだった。


「わからないけれど、がんばってもらうしかないわ。というわけで、そろそろ着くからよろしくね」

「わかりました」


 僕が赤石にキスをすると、彼女の方から舌を絡めてきた。

 口の中で唾液が混ざり合う。


 やがて赤石の体が輝き、その身が赤い鎧に包まれた。


「ジュン様! 行ってくるね!」


 ヘリのドアを開けた赤石が、そのまま空に見を踊らせた。

 気付けば害異が目視できる距離まで近づいている。


 空中で大の字になった赤石は、剣と盾を出現させた。

 そのまま、何もない空を蹴り、害異へと特攻をかける。


「近くの部隊に合流して! できるだけ高台に!」


 真白さんの指示で、ヘリが大きく向きを変える。


 僕は窓から赤石の姿を追う。

 既にかなり離れたはずなのに、彼女の姿がはっきり見えた。

 これも身体能力が強化された一環だろうか。


 赤石の剣から伸びた赤い光が、イソギンチャクの触手をバサバサと切り落としていく。

 その一本一本が、大木ほどもある太さだ。

 地面に落ちた触手は、周囲の草木を腐食させていく。


 赤石を敵とみなした害異が、触手を一斉に彼女へと向ける。

 空を蹴ってそれらを避ける赤石だが、軌道の自由さは害異が上手だった。

 太い触手の先から無数の細い触手が伸び、赤石の体を絡めとる。


『くっ……やめ……んん……』


 僕の脳に赤石の声が直接響いた。

 触手は赤石の体を這い回り、その鎧を少しずつ溶かしていく。


『からだがビンカンに……あ……だめ……ジュン様以外に……こんな……んっ……だめぇぇ……んんんっ!!!』


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