第12話 2章:触手と姫騎士(7)

 司令室のプレートがかかった部屋に、職員がなだれ込んでいく。

 部屋の正面には大型モニター。それと向かい合うようにして、30台ほどのPCが並んでいる。

 映画で見たNASAの管制室にイメージが近いか。


『次が出ただと?』


 大型モニターに偉そうなスーツ姿のおっさんが映し出された。


「どこかで見たことのある人ですね」


 小声で真白さんに聞いてみる。


「本部長は国務大臣が兼務するからね。高校生には馴染みがないかもしれないけど、ニュースにもよく出てくる有名な政治家よ」


 あのおっさんが、害異対のトップか。


「こんな大役を任されるのだからすごい人なんでしょうね」

「本人は貧乏くじを引いたと思ってるかもしれないけどね」


 たしかに、どんなにうまくやってもプラマイゼロの仕事だしなあ。


『聞こえているぞ、穴井殲滅部長状況』


 真白さんの役職、あらためて聞くと物騒な名前である。


「申し訳ありません」


 しれっと謝る真白さん。

 僕なら慌ててしまいそうな場面だけど、随分と肝が据わっている……というより、慣れている感じだ。


『それで、状況は?』


 本部長の支持に従い、オペレーターらしきお兄さんがコンソールを操作する。


「害異は20分前に岩手県南部に出現。時速10kmで南下を続けています」

『岩手南部? 青森ではないのか?』

「はい、ダムレイの討伐地点と、第2害異の出現地点が一致します。衛星映像来ます!」


 本部長の顔がモニターの隅においやられ、画面に映ったのは巨大な……ええと……。


「イソギンチャク?」

「そう見えるわね……」


 となりで真白さんが難しそうな顔をしている。


 対象物が樹木しかないので大きさはよくわからないが、ビル4~5階くらいの高さはあるんじゃないだろうか。

 巨大なイソギンチャクが、なめくじのようにゆっくり移動をしている。

 イソギンチャクが通過した跡は、木々も岩さえも溶け、大きな溝になっている。


「燃料気化爆弾、投下されます!」


 オペレーターの声とともに、画面をミサイルが横切っていく。


『何も聞いておらんぞ! ええい、こんな時だけ判断が早い! 一発使うごとに奴らに金が――』


 本部長がグチるのと、ミサイルが害異に着弾したのはほぼ同時だった。


 閃光、そして土煙。

 それらが収まった跡には、上部1割ほどが削れた害異がいた。


『効いた!? それはそれで、防衛大臣のニヤケ顔が目に浮かぶ……』


 目元をピクつかせる本部長。

 政治家には色々あるのだろう。


「防衛省が2発目の発射を決定したそうです!」

『今回、我々の出番はなしか』


 本部長はそう言うと、モニターから消えた。


「いいえ……そんなに甘くないわ。ジュン君、出るわよ! 赤石さんは!? 誰か彼女を呼んできて!」


 真白さんが僕の手を取り、司令室を出る。


「爆弾が効いてたみたいですけど、僕らも行くんですか?」

「おそらく心臓は破壊できないわ。なにより、私には効果があったようには見えなかった」

「それってどういう……」

「詳しいことは機内で!」


 機内って……今回は新幹線じゃないってこと?

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